この記事は2023年8月31日に「第一生命経済研究所」で公開された「ガソリン補助金延長と今後の行方」を一部編集し、転載したものです。


ガソリン
(画像=Kowit / stock.adobe.com)

目次

  1. ガソリン補助金延長へ
  2. 補助金終了と比較してCPIコアを瞬間風速で0.4%Pt押し下げ
  3. 再々延長が濃厚。補助金は長期化の公算大

ガソリン補助金延長へ

ガソリン補助金の延長が決まった。ガソリン補助金は6月以降段階的に縮小されており、9月末で終了する予定だったが、ガソリン価格が上昇を続け、過去最高値を更新するなか、国民の不満が著しく高まっていることを受け、政府は再度の延長に追い込まれた格好だ。年末までの延長とされており、 支援額は9月7日以降拡充されるとのことである。

制度の詳細はまだ公表されていないが、岸田首相が「10月中にはリッター175円程度の水準を実現したい」と発言していることから考えて、現在リットルあたり185.6円となっているレギュラーガソリン価格を9月から一気に175円に戻すのではなく、補助率を(これまでとは逆に)段階的に拡大することでガソリン価格を徐々に引き下げ、10月末までに175円の水準で安定させることを想定しているように思える。

補助金終了と比較してCPIコアを瞬間風速で0.4%Pt押し下げ

CPIへの影響を見てみよう。この補助金制度の対象となっているのはガソリン、灯油、軽油、重油、航空機燃料であるが、このうち消費者物価指数に採用されているのはガソリンと灯油だけであるため、この2品目のみの影響を見れば良い(軽油、重油、航空機燃料の価格は消費者物価指数に反映されない)。なお、ここでは、ガソリン価格がリットルあたり175円で安定する23年11月時点での影響について考えることにする。

資源エネルギー庁によると、仮に補助金がない場合、ガソリン価格は195.7円、灯油は134.1円になるとされている。これは、以前の補助金制度が適用されていた5月までのガソリン価格(168円)、灯油価格(111円)と比較して、それぞれ+16.5%、+20.8%程度に相当する。これを元に計算すると、23年11月のCPIコアは、5月までの補助金制度がそのまま続いていた場合と比較して0.5%Pt程度押し上げられるはずだった。しかし、今回表明された延長・拡充策により、ガソリン価格が175円に抑制されることになった場合(灯油は115円と想定)、23年11月のCPIコアは、5月までの補助金制度がそのまま続いていた場合と比較して0.1%Pt程度押し上げられるにとどまる。つまり、今回の延長により、補助金終了と比較してCPIコアは瞬間風速で0.4%Pt押し下げられることになる。影響はかなり大きいといえるだろう。

再々延長が濃厚。補助金は長期化の公算大

今回のガソリン補助金を巡る騒動は、一度始めた補助金を終了することがいかに難しいかを改めて示すものとなった。補助金の縮小が開始され、ようやく終了が見えてきたところでの再度の延長となり、出口は全く見えなくなってしまった。

なお、今回の延長は年末までとされているが、これも再び延長される可能性が高い。ガソリン価格上昇に対する国民の拒否反応が極めて大きいことが今回の騒動で改めて確認されていることから考えると、補助金終了のハードルは非常に高いとみるべきだろう。また、この補助金は「ガソリン補助金」と呼ばれることが多いが、灯油(そのほか、軽油、重油、航空機燃料も)も対象となっていることに注意が必要である。灯油消費量が非常に多い真冬に補助金を打ち切ってしまえば、気温が低い地方での負担増が大きくなることから、批判はかなり大きなものとなるだろう。こうした批判に政府が耐えられるとは考えにくく、補助金は再び延長されることになるだろう。

現実的に考えると、補助金終了をソフトランディングさせるには、原油価格の下落もしくは円高の進行により、補助金が無くてもガソリン価格が175円を下回る状態になることが求められる。この状況であれば、仮に補助金を終了してもガソリン価格は上昇しないため、批判は受けにくい。

もっとも、補助金無しで175円以下という水準は、現在の(補助金無しで)195.7円と比較してかなり低く、その実現には原油価格の大幅下落や円高の急速な進展、あるいはその組み合わせが必要となる。ただし、原油価格が大きく下落する状況という場合、世界経済が変調をきたしている可能性が高い。円高の急速な進展についても、米国経済の急減速や株式市場の混乱がきっかけとなる可能性がある。こうした状況下で果たして補助金の終了が決定できるだろうか。

このように、ガソリン補助金の出口は全く見えない状況となっている。べき論はさておき、ガソリン補助金は一段と長期化する可能性が高いと思われる。

第一生命経済研究所 シニアエグゼクティブエコノミスト 新家 義貴