顔ぶれ変わるなかで上位に食い込む日本製鉄
日本製鉄誕生の背景にあるのが、世界の鉄鋼業界の大きな変化だ。2000年以降の20年間で環境は大きく変化した。世界の粗鋼生産量は18億8000万トンに倍増したが、このほとんどが中国の経済発展によるものだった。中国鉄鋼メーカーの成長は著しく、2020年には世界の粗鋼生産量の約6割を中国が占め、上位10社中7社が中国勢となっている。
上位の顔ぶれが変わる中、2020年、5位に食い込こんだのが日本製鉄だ。減りゆく内需の一方で、新日鉄時代から、海外に出資して能力を増強。2006年にブラジルのUSIMINASを持分法適用会社化し、2011年に米スタンダードスチールを買収、新日鐵住金だった2014年にティッセンクルップスチールUSAをアルセロールミッタルと共同買収して米AM/NS CALVERTを設立、2018年にスウェーデンの特殊鋼メーカーOvakoを、日本製鉄になった2019年にはアルセロールミッタルと共同買収でインドのAM/NS INDIAを設立した。
それでもなお、先に目を向ければ、人口減が予測される日本は内需減退は不可避。世界的な脱炭素化の流れに合わせ、技術革新を図るべく多額の投資にも迫れらている。その額は2050年までに5兆円以上とも見積られており、収益性を確保しながら成長を続けるには、海外に目を向けざるを得ないのが日本製鉄なのだ。
年 | 新日鉄時代からの海外M&A |
2006 | ブラジルのUSIMINASに出資して持分法適用会社化 |
2011 | 米スタンダードスチールをM&A |
2014 | ティッセンクルップスチールUSAを米国アルセロールミッタルと共同買収し、合弁企業AM/NS CALVERTを発足 |
2018 | スウェーデンの特殊鋼メーカーOvakoを買収 |
2019 | アルセロールミッタルと共同でEssar Steel India Limitedを買収しAM/NS Indiaを設立 |
2022 | タイの電炉・熱延メーカーGJ SteelとG STeelを買収 |
2023 | USスチールのM&Aを発表 |
グローバル1億トン体制でUSスチールをM&A
そうした中、2021年3月発表の中期経営計画で掲げたのが「グローバル粗鋼能力1億トン体制」。国内生産能力が5400万トン(2021年3末時点)から先行き4400万トンまで減るとみる一方、海外は1600万トン(2021年3末時点)から5000万トン以上に能力を高め、合計で1億トン体制にするという計画だ。
国内は高付加価値品へシフトしつつ、海外は需要の多い地域で汎用鋼の生産・提供で成長が見込めるとの見立てのもと、2019年に買収したインドのAM/NS Indiaでの能力拡張と、中国・ASEANでの一貫製鉄所のM&Aを検討していくとした。
この説明会の質疑応答で「(世界最大の)中国の宝武集団は2億トン体制にもっていくと予測される」「今後 10年、20年の中で我々が世界をリードしていくために、1億トンはグローバルなメジャープレイヤーとして最低限必要な規模だと考えており、これにはどこまでもこだわりたい」と経営陣は回答しており、規模の重要性が強調されている。
そして、中期経営計画に記されたとおり、2022年にタイの電炉・熱延メーカーのGJ SteelとG STeelを買収。1億トン体制については、2022年5月開催の決算説明会で再び問われ、中国企業のM&Aは「外資規制もあり難しい」としつつ、北米・欧州に電気自動車(EV)に使われる電磁鋼板の需要がありながらも、供給体制が整っておらず、「いろんな意味でチャンスがある」と述べられた。
今日になって振り返ると、その答えが、USスチール買収だったのかもしれない。この買収は中期経営計画におけるグローバル戦略に合致した案件で、USスチールの生産能力2000万トンが加わり、日本製鉄と合わせて8600万トン体制にアップすることで1億トン体制に近づく。また自動車用鋼板、電磁鋼板といった高付加価値品の製造技術を持ち、「(高級鋼も含めた)需要の伸びが確実に期待できる地域」「上工程から一貫した鉄源一貫製鉄拠点」といった同社が定めるM&Aの条件に該当するものだという。
もうひとつ注目したいのは、CO2排出量を大幅に削減し、電炉でも高品質の製品が製造できる「verdeX」。世界各国の鉄鋼メーカーはカーボンニュートラルへの取り組みを進めており、技術開発の面でもシナジー創出が見込まれそうだ。