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人から財産を無償で受け取った時は、原則として贈与税が発生します。贈与税は財産を受け取った人が支払う仕組みになっていますが、課税対象となるのはいくらからなのでしょうか。
今回は贈与税の概要について解説するとともに、財産を受け取った際に非課税となる特例についても紹介します。
贈与税とは
個人から無償で財産を受け取った際には、その財産の額や価値に応じた贈与税が発生します。
基本的には1月1日から12月31日までの1年間に受け取った財産の合計額に対して課税されますが、贈与税には110万円の基礎控除額が設けられています。
結果的に1年間で受け取った財産の合計額が110万円を超えた場合は、財産を受け取った人が贈与税を納める必要があります。
また、贈与税は人(個人)から受け取った財産に対して発生します。法人から受け取った財産は、所得税の対象になることも覚えておきましょう。
贈与税の対象となる財産
贈与税の対象となる財産は、お金だけではありません。預金や株といった金融商品の他、不動産や保険金、車なども対象です。
例えば、親が保険料を支払っており、被保険者および受取人が自分である保険契約の保険金を受け取った場合は、その保険金について親から贈与を受けたことになります。
また、借金の返済などを肩代わりしてもらった際にも贈与を受けたとみなされます。
贈与税の対象となる財産の評価方法
受け取った財産の評価額は、その種類によって異なります。
金銭で受け取った場合はその価格になりますが、株式を譲り受けた場合は以下の2つのうち最も低い額で評価されます。
・受け取った月もしくは前月、前々月の終値の平均額
投資信託の評価額は、受け取った日に解約した場合は証券会社などから支払われる額です。
預金の場合は、受け取った日の通帳残高に利息相当額を加え、利息にかかる税金を引いた額で評価します。
不動産の場合は、土地と建物で評価額の計算方法が異なります。
土地の評価額は「路線価方式」もしくは「倍率方式」で算出します。路線価方式は路線価地域に土地がある場合に利用できるもので、路線価地域に土地がない場合は倍率方式で計算します。
最新の路線価図や倍率表は、毎年7月に国税庁のホームページで公開されますので確認してください。
建物については、固定資産税評価額がそのまま評価額となります。
賃貸用のアパートなどを譲り受けた場合は、土地・建物ともに賃貸割合や借地権および借家権割合を用いて評価額を計算します。
贈与税の課税方法には2種類ある
贈与税の課税方法には、毎年受け取った財産に対して課税される「暦年課税」の他、「相続時精算課税」があります。
ここからは、それぞれの課税方法について詳しく解説します。
贈与税2種類の課税方法 |
1.暦年課税
暦年課税では、毎年1月1日から12月31日までに受け取った財産の合計額をもとに贈与税額を計算します。
受け取った財産の合計額が110万円以下なら贈与税はかかりませんが、110万円を超える部分については贈与税の課税対象になりますので、確定申告にて贈与税の申告を行わなければなりません。
確定申告の期間は、贈与を受けた翌年の2月16日から3月15日までです。この間に申告し、贈与税を納めます。
ただし、贈与税額が10万円を超えており、かつ納付期限までに支払うお金が手元にない場合、申請することによって5年以内に毎年分割して納める方法を選ぶこともできます。
これを延納といいます。延納制度を利用する場合は本来の贈与税額の他に利子税がかかり、また原則として担保を提供しなければなりません。
贈与税は、財産を贈った人と受け取った人の間で連帯納付が義務付けられていることも覚えておきましょう。
なお、贈与者が亡くなる前の一定期間に受け取った財産は贈与税ではなく、相続税の対象になります。
2023年までは亡くなる3年前から受け取った財産が相続税の対象になる仕組みでしたが、制度改正により2024年から2031年にかけて段階的に期間が延び、最終的には死亡する7年前から受け取った財産が相続税の対象になります。
2.相続時精算課税
相続時精算課税は、暦年課税のように毎年贈与税を計算するのではなく、贈与者が亡くなった時に相続財産とそれまでに受け取った贈与財産を合計し、最終的な相続税額を求める方法です。
相続時精算課税では、年間で受け取った財産の合計額に対して2,500万円の特別控除が設けられており、亡くなるまでに受け取った財産の合計額が2,500万円を超えた場合には、超えた部分について一律20%の贈与税を納めなければなりません。
ただし、すでに支払った贈与税額は相続税額を求める際に控除されます。
相続時精算課税を利用するには一定の要件を満たす必要があり、利用するにあたっては初回の確定申告期間内に相続時精算課税制度を利用する旨を税務署に届け出なければなりません。
具体的には「相続時精算課税選択届出書」を贈与税の申告書に添付し、納税者の住所地を管轄する税務署に提出します。
提出時には、要件を満たすことを証明するための戸籍謄本などの書類も併せて提出する必要がありますので、事前に確認しておきましょう。
また、一度相続時精算課税を選択すると、暦年課税には戻れないことにも注意が必要です。つまり、相続時精算課税と暦年課税は併用できないということです。
ただし、2024年1月1日以降の贈与については、相続時精算課税にも110万円の基礎控除枠が設定されています。
贈与税の計算方法
贈与税額の計算の流れは以下のとおりです。暦年贈与と相続時精算課税で計算方法が異なりますので、しっかり理解しておきましょう。
暦年贈与
暦年贈与の場合、受け取った財産が「特例贈与財産」か「一般贈与財産」かによって計算方法が異なります。
特例贈与財産
特例贈与財産とは、贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上の人が、両親や祖父母などといった直系尊属から受け取った財産を指します。
受け取った財産が特例贈与財産にあたる場合の贈与税の計算は、下表をもとに算出します。
特例贈与財産の場合、一般贈与財産よりも税率や控除額が優遇されます。
110万円の基礎控除額を差し引いた額 | ||||||||
200万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 4,500万円以下 | 4,500万円超 | |
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | 0円 | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 | 640万円 |
例えば、祖父から500万円の財産を受け取ったとしましょう。
その際には110万円の基礎控除額が適用されますので、課税対象となる財産の額は390万円です。そして、390万円に応じた税率と控除額を当てはめて計算します。
最終的な贈与税額は48万5,000円です。
一般贈与財産
一般贈与財産とは、特例贈与財産に該当しない財産を指します。そして、受け取った財産が一般贈与財産に該当する場合は、下表をもとに計算します。
110万円の基礎控除額を差し引いた額 | ||||||||
200万円以下 | 300万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 3,500万円超 | |
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | 0円 | 10万円 | 25万円 | 65万円 | 125万円 | 175万円 | 250万円 | 400万円 |
500万円の一般贈与財産を受け取った際の贈与税額は、
となり、特例贈与財産の場合よりも多くの贈与税額を支払うことになります。
中には、一般贈与財産と特例贈与財産の両方を受け取るケースもあるでしょう。その際には、全体の贈与財産に占めるそれぞれの財産の割合に応じた計算式で贈与税額を求めます。
特例贈与財産200万円、一般贈与財産300万円を1年間に受け取ったとしましょう。その際の計算方法は以下のとおりです。
・一般贈与財産の税額=(390万円×20%-25万円)×(300万円÷500万円)=31万8,000円
2つの税額を合計した51万2,000円(=19万4,000円+31万8,000円)が最終的な贈与税額です。
相続時精算課税
相続時精算課税の計算方法は、2024年の制度改正によって変わりました。ここでは改正後の計算方法を解説します。
相続時精算課税を選択し、2024年1月1日以降、祖父から生前に累計3,000万円の贈与を受けていたとしましょう。
まず110万円の基礎控除が適用されますので、相続時精算課税対象額は2,890万円です。
相続時精算課税では2,500万円を超えた部分について一律20%の贈与税がかかりますので、2,890万円-2,500万円=390万円×20%=78万円を納付しなければなりません。
ただし、納付した78万円はその後祖父が亡くなった時の相続税計算の際に差し引かれます。仮に相続税がかからなかった場合は、78万円が還付されます。
贈与税が非課税になるケースとは?
財産を受け取った場合でも、贈与税が非課税になる特例があります。特例に当てはまる場合は別途手続きが必要ですが、どのような特例があるのか確認しておきましょう。
扶養義務者からの贈与で要件を満たすもの
扶養義務者とは、親子や夫婦、兄弟姉妹の関係にある人を指します。扶養義務者から生活費や教育費のために受け取った財産で、通念上必要だと認められるものには贈与税がかかりません。
例えば、自宅外通学の子どもの生活費や、学校に通うための学費・教材費などは非課税です。もちろん、病気やケガの際の治療費も通念上必要だと認められます。
扶養義務者からの贈与で、上記の要件を満たすものについては非課税扱いとなり、特別な手続きは不要です。
ただし、生活費や学費などに充当するために親が子どもに渡したお金を、子どもが資産運用など別の目的に利用していた場合は要件を満たさないため、贈与税の課税対象になります。
また、冠婚葬祭の際に受け取る香典やお祝い、お花代や年末年始の挨拶のために送る品などについても、通念上妥当と認められるものは非課税です。
贈与税の配偶者控除に該当するもの
夫婦間で、居住用の不動産もしくは居住用の不動産を購入するためのお金を贈与した場合は、贈与税の基礎控除額110万円とは別に最高2,000万円の控除を受けられます。
ただし、この特例の適用を受けるためには、婚姻期間が20年以上あることの他、以下の要件を満たす必要があります。
・財産を受け取った年の翌年3月15日までに、受け取った居住用の不動産もしくは受け取ったお金で購入した居住用の不動産に、財産を受け取った人が現実に住み、その後も引き続き住む見込みがあること
ここでいう居住用の不動産とは居住するための土地または土地の上に建っている家屋を指し、さらに国内にあるものに限られます。この特例の適用は、配偶者が同じ場合は一生に一度しか受けられません。
また、特例の適用を受けるためには、必要書類を添付した上で贈与税の申告をしなければならないことを覚えておきましょう。
教育資金の一括贈与に該当するもの
父母や祖父母など直系尊属から、教育資金に充てるための費用として受け取った金銭については、1,500万円までが非課税になります。
この特例の適用を受けるためには、お金を受け取る人が30歳未満でなければなりません。また、金融機関に教育資金非課税申告書を提出する必要があります。
ここでいう教育資金には、学校に対して直接支払う入学金や授業料、教材の購入費用などの他、塾や習い事など学校外に支払う費用も含まれます。ただし、学校外に対して支払う費用は500万円までです。
現時点では2026年3月31日までに受け取った金銭に適用されますが、その後期間が延長されるかどうかもチェックしておきましょう。
結婚・子育て資金の一括贈与に該当するもの
教育資金と同様に、直系尊属である親や祖父母から受け取った結婚や子育て資金についても非課税になる特例が用意されています。
結婚に関して支払う費用は300万円までです。子育て資金は、妊娠や出産および育児にかかる費用が該当します。不妊治療の費用にも適用される点は注目すべきです。
お金を受け取る人が18歳以上50歳未満に限られますが、金融機関に結婚子育て資金非課税申告書を提出することで1,000万円までが非課税になります。
ただし、お金を受け取る人の前年の合計所得金額が1,000万円を超える場合は適用対象外になるため、注意してください。
この特例は、2025年3月31日までに受け取った結婚および子育て資金に適用されます。今後この特例の適用期間が延長されるかどうか、教育資金の非課税特例と同様にチェックしておきましょう。
その他
また、以下に当てはまるものにも贈与税はかかりません。
・奨学金の目的で交付されるもので、一定の要件を満たすもの
・特別障害者などが利用できる信託受益権について、障害者非課税信託申告書を信託会社に提出した場合、6,000万円までの金額(ただし、特別障害者以外の障害者の場合は3,000万円が限度)
まとめ
1月1日から12月31日までの1年間に人から金銭などの財産を受け取った場合、基礎控除額である110万円を超えた部分については、原則として贈与税がかかります。
この110万円はお金を渡した人ではなく、受け取った人の合計額です。1人から50万円受け取っただけでは贈与税は発生しませんが、複数の人から財産を受け取り、その合計額が110万円を超えた部分には贈与税がかかる仕組みです。
ただし、これは暦年課税を選択している場合です。相続時精算課税を選択することで、累計2,500万円までが非課税になります。
また、夫婦間の贈与や教育資金、結婚・子育て資金などについて、一定金額までが非課税になる特例も用意されています。
贈与税は「誰から受け取ったか」によって税率や控除額が変わりますので、注意してください。
相続時精算課税制度やその他の非課税の特例の適用を受けるためには、事前に手続きが必要です。
また、それぞれで利用できる要件が異なりますので、利用する際には要件を満たすかどうかを確認し、必要書類を準備した上で手続きを行いましょう。
受け取る財産によっては多額の贈与税が発生するケースもありますので、特例が使えるものについては積極的に利用することをおすすめします。
また、納付期限までに贈与税を納められない場合は延納制度を利用できることがあるため、早めに税務署に相談してください。