事業承継税制の複雑さも事業承継を難しくしている
日本では2009年4月から、事業承継に伴う贈与税・相続税を猶予・免除する「事業承継税制」が実施されている。本制度は事業承継のハードルを下げるものだが、仕組みの理解が難しいため、活用の目途が立たないケースもあるだろう。
例えば、相続税対策として活用される持株会社や資産管理会社、不動産管理会社などは、一定の要件を満たさないと事業承継税制の対象にはならない。また、贈与税・相続税の猶予を受けられても、最終的に条件を満たせず免除されないケースもある。
2018年に制度が拡充されたことも、仕組みを複雑にしている要因と考えられる。拡充後は親族外承継も対象になったが、適用を受けるには特例承継計画の提出などが必要だ。
複雑な仕組みで悩んでいる経営者は、事業承継自体を含めて専門家に相談することを検討したい。
事業承継の形は徐々に変化──M&Aやアトツギベンチャーの浸透
事業承継にはさまざまな問題があるからこそ、近年では事業承継の形が変化してきている。以下では注目されている手法として、事業承継型M&Aとアトツギベンチャーの概要を紹介しよう。
親族外を後継者にする事業承継型M&Aが増加
事業承継型M&Aとは、買収や合併などのスキームで事業承継を行う手法である。具体的には、外部の第三者に株式を売却したり、大企業と資本提携をしたりする方法が挙げられる。
中小企業庁の資料によると、事業承継型M&Aの国内件数は2012年頃から伸びており、2018年には過去最高となる544件を記録した。
身内で後継者を探すことが難しい企業にとって、事業承継型M&Aは有効な選択肢となり得る。参考として、以下では事業承継型M&Aのメリット・デメリットをまとめた。
<事業承継型M&Aのメリット>
・身内に後継者がいなくても会社を存続できる
・株式の売却で創業者利益を得られる
・資本提携などで経営体制を強化できる可能性がある
<事業承継型M&Aのデメリット>
・身内に事業承継をすることができない
・相手企業を探す必要がある
・スキームに関する知識が必要になる
一口にM&Aとは言っても、スキームによって売り手側のメリット・デメリットは変わってくる。契約内容にも左右されるため、事業承継型M&Aでは実績豊富な専門家を頼ることが望ましい。
アトツギベンチャー(ベンチャー型事業承継)も注目される
アトツギベンチャーとは、先代から承継した経営資源を活用し、イノベーション創出やIPOによるイグジットなどを目指す手法である。一般社団法人ベンチャー型事業承継が提唱した考え方であり、すでに国や自治体も後継者難の解決策として注目している。
参考:中小企業庁「~地域のアトツギの挑戦が地域の未来を創る~ 一般社団法人ベンチャー型事業承継について」
これまでの事業承継と異なるのは、受け継いだ経営資源を時代に合わせてアップデートする点だ。例えば、生産プロセスやサプライチェーンを見直したり、既存事業とデジタル技術を掛け合わせたりすることで、新たなビジネスモデルを構築する。
以下では、アトツギベンチャーの主なメリット・デメリットをまとめた。
<アトツギベンチャーのメリット>
・次の世代にも有益な経営資源を残せる
・永続的に企業を存続できる可能性が高まる
・社会に新たな価値を提供できる
<アトツギベンチャーのデメリット>
・既存事業を十分に理解する準備期間が必要
・新規事業やイノベーション創出にも取り組む必要がある
・参考になる事例が少ない
現時点では参考例が少ないものの、北海道経済産業局は2020年から先進事例の公開数を増やしている。さまざまな規模・業種の事例が紹介されているため、興味のある経営者は参考にしてほしい。
参考:経済産業省 北海道経済産業局「「アトツギベンチャー」インタビュー」