国や自治体が支援しているにも関わらず、事業承継はなぜ難しいのだろうか。近年では後継者難が深刻化している影響で、M&Aやアトツギベンチャーが増加傾向にある。事業承継が思ったように進まない中小企業は、自社に適した手法を冷静に判断したい。
目次
事業承継はなぜ進まないのか?
後継者不在が大きなハードルに
多くの企業で事業承継が進まない理由は、適任の後継者が見つからないためだ。後継者には経営のノウハウだけではなく、株式の買取資金や個人保証を引き継ぐ覚悟なども求められる。
中小企業庁の中小企業白書(2023年版)によると、企業の後継者不在率は2011年から減少傾向にあるものの、2022年時点では50%を超えている。
また、帝国データバンクが行った調査では、2023年の後継者難倒産は初めて年間500件を超えて、過去最高の件数を更新したことが公表されている。
参考:帝国データバンク「「後継者難倒産」動向調査」
一般的に、経営者が年を重ねるほど事業承継は難しくなるため、後継者不在の企業は早めに対策を考える必要がある。
事業承継が難しい3つの理由
ここからは3つの点に分けて、事業承継が難しい具体的な理由を解説しよう。
1.経営能力のある後継者が見つからない
若い親族が社内にいても、その人材が優れた経営能力をもっているとは限らない。決断力や危機管理能力など、経営者には特有のスキルや資質が求められるためだ。
帝国データバンクの調査によると、2023年の事業承継では「内部昇格」の割合が最も高かった。非同族を後継者候補にする企業が増えている事実からは、脱親族内承継の動きがうかがえる。
参考:帝国データバンク「全国「後継者不在率」動向調査(2023年)」
親族内承継を優遇する制度はあるが、だからと言って身内への承継にこだわり過ぎると、後継者を探す視野が狭まってしまう。
2.株式の買取資金を用意できない
親族外承継では、株式の買取資金が大きなハードルとなる。買取資金は企業価値に応じて高くなり、数千万円単位の資金が必要になるケースも存在するためだ。
先代経営者が負担する選択肢もあるが、この方法では贈与税がかかってしまう。仮に5,000万円分の資金を贈与すると、2,350万円の贈与税がかかるため、後継者の手元に残るのは2,650万円となる。
いずれにせよ、後継者にとって株式の買取資金は大きな負担になることが多い。特に数千万円の資金が必要になるようなケースでは、長期的な準備が欠かせないものとなる。
3.個人保証の引き継ぎに難色を示される
個人保証とは、会社が銀行などから融資を受ける際に、経営者が保証人になることである。中小・中堅企業の場合、基本的には個人保証をつけないと融資は受けられない。
これから会社を任せられる後継者にとって、個人保証は大きなリスクとなり得るものだ。もし経営が立ちいかなくなると、倒産とともに多額の債務を抱える可能性がある。
また、後継者が個人保証を受け入れたとしても、現経営者の担保が解除されるかは別の話である。後継者が相応の担保を用意できない場合は、資金調達が滞ることも考えられるだろう。