この記事は2024年2月1日に「第一生命経済研究所」で公開された「自動車減産によるインパクト試算」を一部編集し、転載したものです。


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(画像=prasit2512/Shutterstock.com)

目次

  1. 一部自動車メーカーの工場停止を受け、1~3月に▲18.1万台の減産見込み
  2. 1-3月期の名目GDPを最大で約▲0.35兆円押し下げか

一部自動車メーカーの工場停止を受け、1~3月に▲18.1万台の減産見込み

昨年12月に一部の自動車メーカーでの品質認証問題を巡り、12月26日から現在まで国内の主力4工場が全面停止された。これを受けて、1月以降の国内における自動車工業の生産計画は大きく下振れることが必至の情勢だ。1月31日に公表された、鉱工業生産の予測指数である製造工業予測指数によると、24年1月は前月比▲10.5%(経産省による補正試算値)もの低下となることが見込まれており、製造業の約12%を占める自動車工業の減産が与える負の影響は小さくない。本レポートでは、こうした自動車生産の下振れが日本経済に与える影響を試算した。

執筆時点での各種報道によると、12月26日~1月31日の間、国内の主力4工場が全面停止されており、うち2工場は3月1日まで停止期間が延長されている。依然として不透明感が強い状況であるが、これらを受けて1~2月の国内の減産は約▲13.6万台程度と推定される。また、生産再開は段階的となるだろうことを鑑みれば、3月も生産停止の影響が残る可能性は高く、本レポートでは現在停止中の工場における昨年同月の実績から約5割減となる約▲4.5万台の減産を仮定した。

上記をまとめると、1-3月期の国内自動車生産は約▲18.1万台の減産が見込まれる。2022年の乗用車1台当たりの平均生産額が245.0万円(経済産業省「生産動態統計調査」)であるから、金額ベースでは▲0.4兆円程度、乗用車の生産額が下振れることとなる。

1-3月期の名目GDPを最大で約▲0.35兆円押し下げか

上記を踏まえて、総務省「平成27年(2015年)産業連関表」を用いて、自動車生産の下振れが名目GDPに与える影響について試算した。図1に結果を示している。これを見ると、2015年の経済構造を前提とすれば、乗用車の生産金額が▲0.4兆円減少することで、輸送機械を中心に関連産業でGDPが減少し、最大で名目GDPを▲0.35兆円程度押し下げることが分かる。

内訳としては、まず2015年時点で乗用車の生産額に占める付加価値(GDP)の割合が約17%であることから、乗用車の生産額が▲0.4兆円減少することで、名目GDPも▲750億円程度減少する(直接効果)。加えて、乗用車の生産が減少すると、関連産業での生産も減少させることとなる。特に自動車産業は裾野が広く、自動車部品をはじめとして鉄鋼やプラスチック、電子部品など関連産業が多い。これらの産業でも間接的に生産が押し下げられることで、名目GDPは▲2,700億円程度減少することとなる(間接効果)。

これらを合計すると、1-3月期の名目GDPは約▲0.35兆円程度の減少、成長率では▲0.2%pt(年率換算で▲0.9%pt)程度押し下げられるものと推定される。

留意点として、今回のケースでは消費者が別のメーカーを代替的に選択することで、乗用車の減産台数はある程度カバーされる可能性が考えられる。こうした代替効果が働いた場合は、名目GDPの押し下げ効果も軽減されると考えられる。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

(補論)

典型的な産業連関分析に則った効果の算出では、本レポートで試算した「直接効果」と「間接効果(第1次間接効果)」に加えて、生産額の減少が雇用者所得の減少に繋がることで、個人消費の減少を通じて自動車とは直接関連性の薄い産業の生産にも悪影響が波及する「第2次間接効果」も推定する。これを試算すると、名目GDPはさらに▲1,300億円程度押し下げられることとなる。

ただし、①こうした所得や個人消費への悪影響は波及までに時間を要するものであることから、1-3月期に直ちに発現するとは考えにくいこと、②工場の稼働再開後に、積み上がった受注残を受けて生産の挽回が行われれば、所得や消費への影響は相殺される可能性があること等の理由から、「第2次間接効果」は除いた。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

(参考文献)

総務省「産業連関分析について」

第一生命経済研究所 経済調査部 副主任エコノミスト 大柴 千智