この記事は2024年2月9日に「第一生命経済研究所」で公開された「酒飲料・外食ランキングに映る地域社会(下編)」を一部編集し、転載したものです。
お酒のランキング
レポート・下編では、食料品のランキングの中で、2人以上世帯の酒と飲料の消費支出から調べることとしてみたい。まずは、酒に分類される清酒(日本酒)、焼酎、ビール、ウイスキー、ワイン、発泡酒・ビール風アルコール飲料、チューハイ・カクテルの7種類をみていきたい(図表1)。
日本酒と焼酎はわかりやすい。秋田市は、日本酒消費量が首位として有名で、新潟市の2位もうなずける。焼酎は、鹿児島市が首位、大分市が2位、宮崎市が3位と順当だ。産地と消費地はほぼ重なっている。別の視点でみると、いくつかの品目の上位に、同じ地域が発見できる。お酒好きの地域と呼べる先である。新潟市は、日本酒2位以外にも発泡酒・ビール風アルコール飲料で2位、ビールで3位などを占める。熊本市はワインで3位、発泡酒・ビール風アルコール飲料で3位である。青森市、盛岡市、山形市も上位が目立つ。アルコール好きな地域であることがわかる。これまでのランキングで、東京都区部が上位に来ることは少なかった。ワインの消費額は例外的に、東京都が2位に来て、首位は横浜市、4位がさいたま市である。ワインの消費は大都市型である。
ノンアル飲料のランキング
お酒以外の飲料、すなわちノンアルコール飲料はどうだろうか(図表2)。品目は、緑茶、紅茶、茶飲料、コーヒー、コーヒー飲料、果実・野菜ジュース、炭酸飲料、乳酸菌飲料、乳飲料、ミネラルウォーター、スポーツドリンクの11品目である。緑茶=茶葉のお茶は、産地を反映していて、首位は静岡市だ。佐賀市、浜松市と続く。しかし、それが茶飲料=ペットボトルのお茶になると産地との関係性は薄らぐ。日本人のお茶の消費額は、緑茶よりもペットボトルが多くなっている。紅茶は、ワインに似ていて、東京都が首位、神戸市が2位、川崎市が3位と大都市中心である。不思議なのは、盛岡市が果実・野菜ジュース、炭酸飲料の首位であることだ。青森市は、ともに2位は青森市、山形市はともに6位になっている。両飲料には何か補完効果があるのだろうか。ノンアル飲料の品目をみて感じるのは、いくつかの品目の中でペットボトルのお茶が最も大きな市場になっている点だ。先の果実・野菜ジュース、炭酸飲料も大きい。ペットボトルのお茶のランキングは、首位が前橋市、2位が富山市、3位が宇都宮市、4位が福島市である。敢えて特徴を探すと、夏の最高気温が高く、ペットボトルのお茶が欲しくなるという理由なのだろうか。
外食ランキング
外食の消費支出ランキングは、地域色が一層際立っている(図表3)。種類は、日本そば・うどん、中華そば、寿司、和食、中華食、洋食、焼肉、ハンバーガー、喫茶の9種類である。
日本そば・うどんで最も支出の多いのは高松市である。讃岐うどんと言えば、誰でもピンと来る。しかし、中華そば(ラーメン)の首位は、筆者にはすぐにわからなかった。首位は山形市である。2021年に現在2位の新潟市に抜かれることはあったが、それまで8年間は首位で、2022・23年も連続首位である。寿司は、金沢市が首位である。近江町市場や香林坊周辺に新鮮なネタの寿司屋が多く所在すると思う。実は、外食の上位には、これまで登場しなかった名古屋市が上位に来る。洋食は2位、寿司は3位、ハンバーガーも3位である。これまでのランキングには、これまで大都市は上位に現れにくかったが、外食ランキングでは登場しやすい。ほかには、東京都が喫茶の2位に来る。都内の商店街にはどこでもフランチャイズの喫茶店がある。それを抜くのが岐阜市だ。岐阜の喫茶店には、モーニング・セットが提供されていて、その内容が充実しているという。ハンバーガーでは、高知市が首位だ。ご当地グルメには、龍馬バーガーというのがあるらしい。このように、筆者が知らない地域の食文化がまだまだあることを外食ランキングから知ることができた。
各種ランキングは多様性を映す
総務省「家計調査」は、例年、発表直後にご当地ランキングの原データとして活用される。本稿は、従来、部分的に活用されていたランキングを投網をかけるように広範囲に行ったものである。有名なのは、ギョーザの消費支出ランキングだが、地域興しにこのデータが使われる様子から感じるのは、「データ分析には宝=お金が眠っている」ということだ。ランキングを作って初めて、自分の地域が全国1位だということがわかって、全国の消費者に対して、その地域の消費量が多いのだからきっとそのご当地グルメは美味しいものだと直感させる。「消費支出が日本一」というメッセージが、ご当地グルメを猛烈にアピールする構図なのだ。
筆者が多くのランキングを調べてわかったのは、首位ではなくても、上位にランクインした地域のグルメも魅力が劣らないということだ。金子みすずの「みんな違って、みんないい」という詩の通り、多様性を楽しむ感覚が大事だ。2024年初に筆者が高校生まで生まれ育った山口市が、ニューヨーク・タイムズの発表する「2024年に行くべき世界の52か所」の第3位に選ばれた。自分が馴染んできた山口市について、世界3位という高い評価が今一つ実感が湧かないが、そうだとしても地元の山口市が再評価されると嬉しい。多様性のある世界で、様々なよいコンテンツが再評価されることは歓迎すべきことである。
ご当地グルメの分析に戻ると、上位に上がった地域もさることながら、北海道や九州などが登場していなかった。その背景には、農林水産物の食材が豊富で、生鮮食品に購買力が流れているからだろう。むしろ、内陸の都市が多くランクインしたのは、内陸の都市の方が調理されたおかず、スイーツなどを好んで食べる習慣が強くあるからだろう。北陸地域がランキング上位に来やすいのは、1世帯の住居が大きく世帯人数が多くなり、1世帯当たりの消費支出が他地域よりも大きくなりやすいという性格があるからだと考えられる。そうしたデータ上のバイアスがあるとしても、「家計調査」という経済統計が地域興しの目的に利用されて、「宝」を生み出すプラットフォームになっていることは高く評価できると思う。