

「年収1000万円」と聞くと、誰もがうらやむ高収入というイメージを抱くかもしれません。しかし、実際に手にする「手取り額」は想像よりも少ないと感じる方も少なくないでしょう。高収入になるほど税金や社会保険料の負担は重くなり、節税対策の重要性は増します。この記事では、年収1000万円の人が知っておくべき手取りの現実から、効果的な節税・資産形成術まで、具体的な方法を分かりやすく解説します。
目次
【現実】年収1000万円の手取り額は700〜750万ほど

年収1000万円は、多くの方にとって目標となる金額かもしれません。しかし、額面上の年収と実際に手元に残る金額には大きな隔たりがあります。
年収1000万円プレーヤーの割合と実際の手取り額
国税庁の調査によると、年収1000万円を超える給与所得者は全体の約5%に過ぎません。このデータは、年収1000万円がいかに高い水準であるかを示しています。
所得階級 | 2022年 人数(人) | 2022年 割合(%) |
---|---|---|
100万円以下 | 4,136 | 8.1 |
100万円超 200万円以下 | 6,226 | 12.3 |
200万円超 300万円以下 | 7,093 | 14.0 |
300万円超 400万円以下 | 8,255 | 16.3 |
400万円超 500万円以下 | 7,817 | 15.4 |
500万円超 600万円以下 | 5,504 | 10.8 |
600万円超 700万円以下 | 3,621 | 7.1 |
700万円超 800万円以下 | 2,488 | 4.9 |
800万円超 900万円以下 | 1,638 | 3.2 |
900万円超 1000万円以下 | 1,191 | 2.3 |
1000万円超1500万円以下 | 2,035 | 4.0 |
1500万円超2000万円以下 | 451 | 0.9 |
2000万円超 2500万円以下 | 143 | 0.3 |
2500万円超 | 162 | 0.3 |
合計 | 50,761 | 100.0 |
年収1000万円の手取り額は、扶養家族の有無や加入している社会保険の種類によって異なりますが、一般的にはおよそ700万円から750万円程度です。
額面の年収と手取り額との差額は、所得税、住民税、社会保険料(健康保険、厚生年金、雇用保険)が主な要因です。特に社会保険料は、年収に比例して増加するため、高所得者ほど負担が大きくなります。
なぜ手取りが増えない?所得税率の上昇と各種手当の所得制限
年収が上がるにつれて手取りが増えにくくなるのは、所得税率が所得額に応じて高くなる「累進課税制度」を採用しているためです。
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から194.9万円まで | 5% | 0円 |
195万円から329.9万円まで | 10% | 9.75万円 |
3,30万円から694.9万円まで | 20% | 42.75万円 |
695万円から899.9万円まで | 23% | 63.6万円 |
900万円から1799.9万円まで | 33% | 153.6万円 |
1800万円から3999.9万円まで | 40% | 279.6万円 |
4000万円以上 | 45% | 479.6万円 |
日本の所得税率は、所得が195万円未満は5%ですが、年収1000万円の場合には、所得税率が23%(課税所得695万円以上900万円未満)から33%(課税所得900万円以上1800万円未満)の範囲で適用されます。
さらに、児童手当など、所得が高い世帯では支給額が減ったり、支給対象外となったりする各種手当の所得制限も、実質的な手取り額に影響を与えます。
つまり、高所得者だからこそ、税金に関する知識を深め、適切な節税対策を行う必要があるのです。
年収1000万円超えの人が絶対にやるべき3大節税・資産形成術

年収1000万円の人はもとより、年収1000万円を目指す人が、手取りを増やし、効率的に資産形成を進めるためには、効果的な節税と資産運用の両面からのアプローチが欠かせません。まずはおさえたい3つの代表的な手段を確かめましょう。
① iDeCo(個人型確定拠出年金)──現在の税金を減らす最強の所得控除
iDeCo(イデコ)は掛け金が全額所得控除の対象となるため、所得税と住民税を大きく減らせます。たとえば、企業年金のない会社員(※)が毎月の上限額である2.3万円(年間27.6万円)を拠出した場合、所得税率20%の人であれば年間5.5万円、住民税10%の人であれば年間2.7万円、合計で年間8.2万円もの税金を安くできます。
(※掛金の上限額は加入者の種別により異なります)
特徴として、運用益も非課税で再投資され、将来年金として受け取る際にも公的年金等控除の対象となるため、税制優遇のメリットが非常に大きいこともあります。
ただしiDeCoの注意点として、原則60歳まで引き出せないため、当面使う予定のない資金を充てるようにしましょう。
参考:iDeCo公式サイト
② NISA──将来の利益を非課税にする最強の資産運用制度
iDeCoと並ぶ強力な資産形成ツールであるNISA(少額投資非課税制度)は、投資で得た売却益や配当金、分配金に通常かかる約20%の税金が一切かからないため、効率的に資産を増やせます。
2024年から新NISA制度が始まり、年間投資枠が最大360万円、生涯投資枠が1800万円に広がり、非課税で運用できる期間も無期限となりました。つみたて投資枠と成長投資枠があり、つみたて投資枠では投資信託などを積立でき、成長投資枠では個別株や投資信託などをまとめて買えます。
NISAにも注意点はあり、NISA以外の口座(特定口座や一般口座)ではできる損益通算ができません。また、iDeCoもNISAも、あくまで投資であり、元本が必ずしも保証されるわけではない、絶対に増やせるというわけではないことは、忘れないようにしましょう。
iDeCoとNISAは「どちらか」ではなく「どちらも」が最適解
iDeCoとNISAはそれぞれ異なる税制優遇を持つため、どちらか一方ではなく、両方を活用することが、年収1000万円の人にとって最適な資産形成戦略となります。
iDeCoには「今の税金を減らす」所得控除のメリットがあり、NISAには「将来の運用益を非課税にする」メリットがあります。
iDeCoで所得税・住民税を減らしながら老後資金を着実に準備し、NISAでそれ以外の資金を効率的に運用して将来の資産を増やせます。
どちらか一方に偏るのではなく、ライフプランやリスク許容度に合わせて両制度をバランス良く利用することで、税制優遇を最大限に享受し、賢く資産を増やせるでしょう。
③ ふるさと納税──純粋な支出削減につながるお得な制度
ふるさと納税は、応援したい自治体に寄付をすることで、寄付金のうち2,000円を超える部分が所得税と住民税から控除される制度で、実質2,000円の自己負担で、地域の特産品などのお礼の品(返礼品)を受け取れます。
年収1000万円の場合、控除上限額が一般的に15万円から18万円程度になるため、この範囲内で複数の自治体に寄付をすれば、食料品や日用品などを実質2,000円の負担で手に入れられます。
これは、純粋な支出削減につながり、家計の助けとなります。寄付の上限額は収入や扶養の有無・数によって異なるため、総務省のふるさと納税ポータルサイトの詳細や、各ふるさと納税サイトで簡単にシミュレーションなどで確かめましょう。
条件が合えば確実に活用したい控除制度

これらの3大節税・資産形成術に加えて、特定の条件に該当すれば使える控除制度もあります。
住宅ローン控除(減税)──対象者には効果絶大の「税額控除」
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、住宅ローンを利用してマイホームを新築、購入、またはリフォームした場合に、年末のローン残高に応じて所得税から一定額が控除される制度です。所得税から直接差し引かれる「税額控除」であるため、非常に節税効果が高いのが特徴です。
控除額は、住宅の種類や入居時期によって異なりますが、所得税で控除しきれない分は住民税からも控除されます。住宅ローンを組んでいる年収1000万円の方であれば、大きな節税効果が期待できるため、必ず年末調整や確定申告で申請しましょう。
参考:一般住宅の新築等をした場合(住宅借入金等特別控除)(国税庁)
各種所得控除(扶養・生命保険・医療費など)──年末調整・確定申告で漏れなく
所得控除は、所得税や住民税の計算の元となる「所得」から一定額を差し引ける制度です。代表的なものには、以下のようなものがあります。
- 扶養控除……扶養している親族がいる場合に適用される控除です。
- 社会保険料控除……支払った社会保険料の全額が控除対象です。
- 生命保険料控除……生命保険や介護医療保険、個人年金保険の保険料に応じて控除されます。
- 地震保険料控除……地震保険の保険料に応じて控除されます。
- 医療費控除……一定額以上の医療費を支払った場合に適用されます。生計を共にする家族の医療費も合算できます。
- 寄付金控除:……国や地方公共団体、特定の公益法人などに寄付した場合に適用されます。
これらの控除は、年末調整や確定申告で申請することで適用されます。
特に医療費控除は、家族全体の医療費を合算できるため、高額な医療費がかかった年には積極的に活用しましょう。生命保険料控除なども忘れずに申請することで、節税につながります。
【特定ケース向け】万一の時に役立つ税金の知識

予期せぬ事態に備えて、特定のケースで活用できる税金の知識も押さえておくと安心です。
株式や投資信託の取引で損失が出た場合(損益通算・繰越控除)
株式や投資信託などの売買で損失が出た場合でも、その損失を他の利益と相殺できる「損益通算」という制度があります。
たとえば、株式の売却益がある一方で、投資信託で損失が出た場合、その損失を売却益と相殺して課税所得を減らせます。さらに、損益通算で相殺しきれなかった損失は、翌年以降3年間繰り越して、将来の利益と相殺できる「繰越控除」の制度もあります。これにより、将来の税負担を減らせるため、万一の損失時にも活用できる重要な制度です。
災害や盗難などで資産に損害を受けた場合(雑損控除)
予期せぬ災害(地震、台風など)や盗難、横領によって、ご自身の資産に損害を受けた場合、「雑損控除」を適用できます。雑損控除は、損害金額に応じて所得税・住民税から控除を受けられる制度です。
たとえば、自宅が災害で大きな被害を受けた場合、その修繕費用などについて控除を受けられます。災害はいつ起こるか分かりませんので、万が一の際にはこの制度を思い出してください。
配偶者との離別・死別があった場合(ひとり親控除・寡婦控除)
配偶者との離別や死別によって、ひとり親となった場合に適用されるのが「ひとり親控除」または「寡婦控除」です。
ひとり親控除は、原則として婚姻歴や性別に関わらず、ひとり親として子供を育てている方が対象となります。寡婦控除は、夫と死別または離別後に再婚していない女性が対象となる控除です。
これらの控除を適用することで、税負担を軽減できます。状況が変わった際には、速やかに税務署や税理士に相談し、適切な控除を受けられるようにしましょう。
リスクを理解して取り組む事業的節税

これまで紹介した制度以外にも、事業所得と組み合わせることで節税効果を高められる方法があります。しかし、これらは事業としての側面が強いため、リスクも理解した上で検討することが重要です。
不動産投資による損益通算
不動産投資は、家賃収入を得ながら資産形成をめざす方法の一つです。不動産所得で赤字が出た場合、その赤字を他の所得(給与所得など)と相殺できる「損益通算」を活用できることがあります。
たとえば、減価償却費やローンの金利など、現金の支出を伴わない経費が大きくなることで、会計上は赤字となり、給与所得から差し引くことで課税所得を減らせる可能性があります。
ただし、不動産投資は多額の初期費用やローンのリスク、空室リスク、修繕費など、様々なリスクを伴います。節税目的だけで安易に始めるのではなく、事業としてしっかりと収益を上げる計画を立て、リスクを十分に理解した上で検討することが大切です。
副業による経費計上
本業とは別に副業をしている場合、副業でかかった費用を経費として計上できます。
たとえば、ウェブライターであれば資料の書籍代や通信費、プログラマーであればPC購入費やソフトウェア代などが経費として認められる可能性があります。
副業で得た収入から経費を差し引くことで、課税所得を減らし、結果として所得税や住民税を安くできます。
ただし、副業が趣味の延長とみなされる場合や、事業として独立性や継続性が低い場合は、経費として認められないこともあります。
副業を始める際には、税務上の取り扱いについても事前に確認し、適切な会計処理を行うことが重要です。
参考:必要経費の知識(国税庁)
最適な節税策で手取りを増やし、賢く資産形成を進めよう

年収1000万円という高収入を得ていても、税金や社会保険料の負担は大きく、手取り額は思ったよりも少ないと感じるかもしれません。しかし、iDeCoやNISA、ふるさと納税といった制度を積極的に活用することで、現在の税金を安くし、将来に向けた資産形成も同時に進められます。
また、住宅ローン控除や各種所得控除など、自分の状況に合わせて利用できる控除制度は漏れなく活用しましょう。不動産投資や副業など、事業的な節税方法も選択肢の一つですが、メリットとデメリット、そしてリスクを十分に理解した上で検討することが大切です。
最適な節税策を講じることで、手取りを最大化し、賢く資産形成を進めていくことが、年収1000万円という恵まれた状況を最大限に活かすカギとなります。
(提供:Dear Reicious Online)
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