不動産投資の「デッドクロス」とは|節税目的なら避けられない?回避するポイントも解説

不動産投資における「デッドクロス」という言葉をご存知でしょうか。デッドクロスとは、ローンの元金返済額が減価償却費を上回る状態を指します。この状態になると、帳簿上の利益が増加し、所得税額が増えるため、資金繰りが悪化する可能性があります。

本コラムでは、デッドクロスの発生原因やキャッシュフロー悪化につながるメカニズム、デッドクロスを避けるための物件購入前後の対策、キャッシュフローが悪化するリスクに対処する方法も解説します。デッドクロスを正しく理解し、不動産投資の成功に役立てましょう。

不動産におけるデッドクロスとは?

不動産投資の「デッドクロス」とは|節税目的なら避けられない?回避するポイントも解説
(画像:PIXTA)

不動産投資におけるデッドクロスは、金融や証券で使われる意味とはやや異なります。金融や証券の分野では一般的に移動平均線の短期線が長期線を下回ることを指し、市場における下落トレンドの兆候とされます。

これに対して、不動産投資のデッドクロスは、ローンの元金返済額が減価償却費を上回る状態を指します。この状態になると、帳簿上での利益が増加することで所得税額が増えるため、結果として資金繰りが悪化する可能性があります。特に減価償却率の高い中古木造のアパートなどを所有している場合や長期ローンを組んで保有する場合、デッドクロスは避けられないことも少なくありません。

デッドクロスが起こる原因

建物や機械などを減価償却資産といいますが、これらは時間の経過によってその価値が減少します。法定耐用年数が短い木造のアパートなどでは、早期に減価償却費の経費計上が終了することで帳簿上の利益が増加するため、その分にかかる所得税負担が増えます。これがデッドクロスの大きな要因です。

また、ローンの返済方法には、元利均等返済と元金均等返済があります。このうち元利均等返済は毎月支払う返済額が一定になる返済方法ですが、返済の終盤にかけて利息の支払い部分が減っていきます。利息は経費として計上できますが、元金返済額は経費として計上できません。そのため、この状態では帳簿上は黒字でも、実際のキャッシュフローは悪化してしまいます。

しかし、本来的にはデッドクロスが発生することが問題ではなく、キャッシュフローが悪化し、マイナスになることが問題になります。そのため、デッドクロス後にキャッシュフローがマイナスにならないように事前にシミュレーションをしておくことが重要です。

ローンの返済方法特徴
元利均等返済 毎月支払う返済額が一定になる返済方法。返済が進むと元金が減ることに伴い利息額が減り、その結果、元金返済部分が増えていく。経費として計上できる利息部分が減ることがデッドクロスの要因になる。
元金均等返済 元金の返済額が一律の返済方法。返済が進むと利息額が減り、その分返済額も減っていく。同じ借入期間であれば元利均等返済より総返済額は少ないが、返済開始当初の毎月の返済額負担が大きい。

2つの返済方法については下記の記事で詳しく解説していますので、こちらもぜひ参考にしてください。

【関連記事】元利均等返済と元金均等返済はどっちがいい?それぞれの違いやおすすめの人を解説

デッドクロス発生のシミュレーション

不動産投資の「デッドクロス」とは|節税目的なら避けられない?回避するポイントも解説
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以下の前提条件で、デッドクロスではない状態とデッドクロスとなった後の収支シミュレーションを行います。ローンの返済は元金均等返済方式を想定します。なお、以下の数値は簡易的なものであり、実際の数値とは異なる場合がありますので、あくまで参考程度としてください。

【前提条件】
・元金均等返済方式
・物件価格:5,000万円
・融資額:4,500万円
・年間家賃収入:260万円
・ローン金利:年率1.5%
・返済期間:35年
・減価償却期間:20年

デッドクロスではない状態…ローン返済1年目

収入 支出
家賃収入 260万円 管理委託費 13万円
修繕積立金 26万円
固定資産税 20万円
減価償却費 250万円
利息返済額 67万円
元金返済額 128万円
経費計上額 376万円
実際の支払額 254万円

・経費計上額=管理委託費+修繕積立金+固定資産税+利息返済額+減価償却費
・実際の支払額=管理委託費+修繕積立金+固定資産税+利息返済額+元金返済額

帳簿上の収支は260万円-376万円=-116万円となり、帳簿上は年間116万円の赤字になります。しかし、実際の収支は260万円-254万円=6万円となり、キャッシュフローとして6万円のプラスになります。

また、年間116万円が赤字なので、その分所得税も低くなります。仮に所得税率20%だと仮定すると、23万円ほど所得税が低くなります。最終的に6万円+23万円=29万円ほどキャッシュフローがプラスになります。

デッドクロス状態 ローン返済21年目 

収入 支出
家賃収入 234万円
※新築時から10%程度家賃収入が下がると仮定。
管理委託費 13万円
修繕積立金 26万円
固定資産税 20万円
減価償却費 0万円
利息返済額 27万円
元金返済額 128万円
経費計上額 86万円
実際の支払額 214万円

減価償却期間が20年の仮定で、21年目に減価償却がなくなります。実際の収支は234万円-214万円=20万円となり、キャッシュフローとして20万円のプラスになります。

しかし、帳簿上の収支は234万円-86万円=148万円となり、帳簿上は年間148万円の利益が出ていることになります。その148万円に所得税がかかるので、その分、キャッシュフローはマイナスになります。

仮に所得税率20%とすると、この場合約30万円の所得税がかかります。最終的に手元からは約10万円が出ていくことになります。

デッドクロスを遅らせるためのポイント〜物件購入前〜

それでは、デッドクロスを遅らせるためにはどのようなことをしたらよいのでしょうか。デッドクロスを回避するポイントは物件購入の前後、どちらにもあります。まずは物件購入の前に気をつけるべき以下のポイントを解説します。

  • 自己資金を多く用意する
  • 減価償却期間が長い物件を選ぶ
  • 元金均等返済を選択する

自己資金を多く用意する

物件購入時に自己資金を多く用意することで、ローンの借入額を減らし、元金返済額を抑えることができます。毎月のローン返済額が少なくなり、デッドクロスの発生を遅らせることにより、その影響を軽減することができます。

自己資金を増やすことで、長期的な資金繰りの改善にもつながり、安定した不動産投資を行うための基盤を築くことができます。ただし、急な出費や修繕などに備え、ある程度の資金は残しておくことも必要です。バランスを見て検討しましょう。

減価償却期間が長い物件を選ぶ

新築や築浅の物件など、残存耐用年数が長い物件を選ぶこともデッドクロスを遅らせるための重要なポイントです。前述したとおり、デッドクロスの発生要因は減価償却費が計上できなくなることにあります。そのため、長期間にわたって減価償却費を計上できれば、デッドクロスの発生を遅らせることができます。

例えば、鉄筋コンクリート造の物件は木造に比べて耐用年数が長いため、減価償却費を長期間にわたって計上できます。ただし、減価償却期間が長くなると単年当たりの減価償却費は少なくなるため、短期的な節税効果は薄れる点には注意が必要です。

元金均等返済を選択する

前述したように、ローンの返済方法として元利均等返済と元金均等返済がありますが、元金均等返済を選択することも1つの方法です。この方法を選択すると、毎月の元金返済額は一定となるため、返済が進むにつれて元金返済の割合が増えていく元利均等返済よりもデッドクロス状態に陥りにくくなります。

ただし、すべての金融機関で元金均等返済を利用できるわけではありません。また、返済初期は元金の残高が多いため、利息部分も多くなり、ローンの負担が大きくなる点にも注意が必要です。元金返済を選択しても結果としてキャッシュフローが回らなければ意味がありません。

デッドクロスを遅らせるためのポイント〜物件購入後〜

デッドクロスを遅らせるためのポイントは物件を購入した後にも存在します。下記の方法を確認していきましょう。

  • ローンの借り換えを検討する
  • 繰り上げ返済をする

ローンの借り換えを検討する

金利の低いローンへの借り換えや返済期間を伸ばすことで、毎月の返済額を軽減し、キャッシュフローを改善することができます。借り換えを検討する際は、現在の金利動向や自身の信用状況を考慮し、より有利な条件を探ることが重要です。

ただし、借り換えには諸費用がかかるため、長期的な視点でのシミュレーションが不可欠になります。金利だけでなく、返済期間や手数料なども含めた総合的な判断が必要です。例えば、金利が1%下がっても、諸費用が高額な場合は借り換えのメリットが相殺される可能性もあります。また、返済期間を伸ばすことによってキャッシュフローが改善しても、総返済額が増加する可能性もあるため、慎重な検討が求められます。

繰り上げ返済をする

余裕資金がある場合、繰り上げ返済は効果的な対策となります。特にローン返済の初期は利息部分の返済額が多いため、繰り上げ返済によって返済総額を大きく減らすことも可能になります。これにより、将来的なデッドクロスのリスクを軽減できます。

ただし、繰り上げ返済は余裕資金の範囲内で行うべきです。理由は、前述した自己資金の投入と同様で、急な出費や修繕のために必要な手元資金を残すことが重要だからです。金融機関によっては繰り上げ返済に事務手数料がかかる場合もあるため、事前に確認しておくことをおすすめします。

節税目的でデッドクロスが避けられなくなった時の対策

不動産投資の「デッドクロス」とは|節税目的なら避けられない?回避するポイントも解説
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前述したとおり、節税目的で築古の物件を購入する場合や長期でローンを組んで保有する場合、デッドクロスは避けられないことが多いです。そこで、ここではデッドクロスが避けられなくなった際の対策を解説します。

  • 収益性を向上させる努力をする
  • 売却を検討する
  • 新たに物件を購入して減価償却費を増やす

収益性を向上させる努力をする

相場に合った家賃の値上げや経費の見直しなど、物件の収益性を向上させる努力をすることで、キャッシュフローを改善し、デッドクロス後のキャッシュフローを改善できます。以下の表に、物件の収益性を向上させる具体的な対策をまとめました。

対策 説明 効果
物件のリノベーション 適切なリノベーションにより物件の価値を向上させ、賃料の増額や空室率の低下を図る 賃料増額、空室率低下、減価償却費の増加
効率的な管理運営 管理費用の見直しや効率的な修繕計画の立案により、経費を削減 経費削減
入居者サービスの向上 インターネット無料や家具家電付きなど、快適な居住環境の提供により、入居者満足度を高める 入居者満足度向上、長期入居促進、空室率低下
家賃の適正化 市場動向を見極めながら、適切なタイミングで家賃の見直しを行う 収益の最適化

上記の対策においていくつか注意点があります。リノベーションや入居者サービスの向上には資金が必要になります。また、家賃の適正化においては、市場動向を見極めずに行うと空室リスクにもつながるため注意が必要です。適した方法で収益性の向上を目指しましょう。

売却を検討する

デッドクロスの影響が大きくなる前に、適切なタイミングでの売却を検討することが重要です。市場動向を見極め、物件価値が上昇している時期を狙って売却することが効果的です。

特に、売却する年の1月1日現在で所有期間が5年を超えていると長期譲渡所得として税率が優遇されるため、税金面でも有利な時期を選ぶことが大切です。また、売却によって得られるキャピタルゲインを新たな投資や負債の返済に活用することで、全体的な財務状況を改善できる可能性があります。

新たに物件を購入して減価償却費を増やす

新たな物件を購入することで、新しい減価償却費を生み出し、デッドクロスの影響を軽減することが可能です。物件選びでは、収益性や立地、将来性を十分に考慮し、特に減価償却による効果を最大化できる物件を選ぶことを検討しましょう。また、リノベーションを通じて新たな減価償却費を生み出すという方法もあります。

このような戦略を長期的な視点で実施することで、デッドクロスの影響を最小限に抑え、投資の成功につなげることができます。

(提供:manabu不動産投資

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