この記事は2024年10月2日に「第一生命経済研究所」で公開された「9月日銀短観から見た24年度業績見通し」を一部編集し、転載したものです。


堅調な企業業績を材料に、年末は日経平均4万5,000円も視野
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目次

  1. 増収減益計画は変わらず
  2. 売上高上方修正は「業務用機械」「鉱・採石・砂利採取」「宿泊・飲食サービス」
  3. 経常利益上方修正期待は「鉱・採石・砂利採取」「業務用機械」「その他輸送用機械」
  4. 為替レートの変動で業績が修正される可能性も

増収減益計画は変わらず

10月1~2日にかけて公表された9月日銀短観の大企業調査は、8月下旬~9月下旬にかけて資本金10億円以上の大企業約1700社に対して行った調査であり、先月公表された法人企業景気予測調査に続いて、今期業績予想の先行指標として注目される。

そこで本稿では、同調査を用いて10月下旬から本格化する四半期決算発表で、今年度業績計画の上方修正が見込まれる業種を予想してみたい。

資料1は、9月短観の調査対象大企業(全産業、除く金融)が計画する半期別売上高・経常利益前年比の推移を見たものである。まず売上高を見ると、24年度は上期・下期とも若干上方修正となっている。

一方、経常利益を見ると、伸び率だけを見れば24年度は上期を中心に大幅上方修正になっている。しかし、業種別に着目すれば、非製造業だけ下期も上方修正となっている。このことから、非製造業では次の四半期決算発表で24年度の企業業績見通しを上方修正してくることが予想される。

つまり、産業全体で見れば、売上高の半期ごとの伸び率は前年比で若干の上方修正にとどまるが、経常利益については製造業のうち素材業種以外は上方修正になっているということである。

第一生命経済研究所
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売上高上方修正は「業務用機械」「鉱・採石・砂利採取」「宿泊・飲食サービス」

続いて、9月短観の売上高計画を基に、大幅上方修正が見込まれる業種を選定してみたい。資料2は24年度の業種別売上高計画の前年比と修正率をまとめたものである。

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結果を見ると、24年度は「物品賃貸」「通信」「電気・ガス」を除く全ての業種で増収計画となる中で、最大の上方修正率となっているのが「業務用機械」である。それに続くのが「鉱・採石・砂利採取」「宿泊・飲食サービス」と続く。

まず、「業務用機械」については、自動販売機や両替機などが含まれる。このため、新紙幣発行に伴い特需が発生したことが上方修正の後ろ盾になっている可能性がある。また「鉱・採石・砂利採取」では、7月までの想定以上の円安や素材価格の上昇が影響している可能性が示唆される。一方、「宿泊・飲食サービス」では、好調だった夏のインバウンドやレジャーなどが寄与したと考えられる。

従って、次の四半期決算における業績見通しでは、こうした業種に関連する企業について売上高計画がどの程度上方修正されるかが注目されよう。

経常利益上方修正期待は「鉱・採石・砂利採取」「業務用機械」「その他輸送用機械」

続いて、9月短観の経常利益計画から上方修正が期待される業種を見通してみよう(資料3)。結果を見ると、上方修正率が最も大きいのは「鉱・採石・砂利採取」となっている。これは、売上高同様に7月までの想定以上の円安や素材価格の上昇等が反映されたことが推察される。

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それに続くのが「業務用機械」である。背景には、これも売上高同様に新紙幣発行特需が寄与していることが推察される。

それに続く「非鉄金属」については減益計画のままだが、こちらは主要な供給先である自動車の認証不正問題に伴う生産水準落ち込みからの回復が、上方修正の後ろ盾になっている可能性がある。

なお、それに続く「造船・重機、その他輸送用機械」は唯一売上高計画が二けた増収となっていることから、世界的な地政学リスクの高まりに伴う防衛を中心とした需要増が寄与していることが予想されるが 、

それに関連して「運輸」については全体では減益計画ではあるものの、中東情勢の緊迫化に伴い海運の増益が上方修正に寄与していることが推察される。

このように、次の四半期決算で経常利益見通しの上方修正が期待される業種としては、円安や素材価格の上昇が寄与する鉱業に加え、新紙幣特需に伴う業務用機械、世界的な地政学リスクの高まりに伴う防衛関連産業等が指摘できる。

為替レートの変動で業績が修正される可能性も

なお、9月短観の収益計画では、企業の想定為替レートも公表されることから、業種別の想定為替レートも今後の業績見通しの修正の可能性を読み解く手がかりとして注目したい。

資料4にて実際に今年度の想定為替レートを確認すると、ドル円で145.2円/$、ユーロ円で156.8円/€となっている。しかし、足元のドル円レートは140円台前半となっている。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

中でも、足元のドル円レートよりも特に円安で今期の為替レートを想定しているのが「紙・パルプ」「建設」「鉱・採石・砂利採取」「木材・木製品」となっている。

なお、輸入依存度の高い内需関連産業は円高でむしろ業績の押上要因となる企業も含まれており注意が必要だが、最も円高の悪影響を受けやすい業種の一つとされる製造業の「加工業種」が足元の水準より円安気味の想定をしていることに注目すべきだろう。

以上の結果を踏まえれば、今後は欧米において想定以上の景気減速懸念などに伴うリスクオフを通じて、各国中銀がこれまでよりも金融緩和に前向きな姿勢を示す等して為替レートの水準が円高方向に進めば、こうした今期の為替レートを円安気味に想定している業種に属する企業を中心に今期業績が修正される可能性があることにも注目すべきだろう。

第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣