不動産売却時にかかる税金は?計算方法や節税方法、シミュレーションも紹介
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丸山 優太郎
丸山 優太郎
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。おもに企業系サイトで執筆。金融・経済・不動産系記事を中心に、社会情勢や経済動向を分析したトレンド記事を発信している。

不動産を売却した際、利益が発生すると税金が課されます。しかし、税負担を軽減するためのさまざまな優遇措置も設けられています。どのような税金がかかり、どういった控除や特例が利用できるのでしょうか。本記事では、不動産売却に伴う税金の仕組みを解説し、税額の計算方法やシミュレーションについても紹介します。

目次

  1. 1.不動産の売却手続き時に発生する税金
    1. 1-1.印紙税
    2. 1-2.登録免許税
    3. 1-3.仲介手数料の消費税
  2. 2.不動産売却で譲渡所得を得たときに発生する税金
    1. 2-1.譲渡所得税とは
    2. 2-2.譲渡所得にかかる税率は所有期間で変動
  3. 3.不動産売却時の譲渡所得税の計算方法
    1. 3-1.①譲渡所得を把握
    2. 3-2.②特別控除額を差し引いて課税譲渡所得を算出
    3. 3-3.③税率をかけて譲渡所得にかかる税金を算出
  4. 4.不動産売却時に活用できる税金の控除・特例
    1. 4-1.居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例
    2. 4-2.マイホームを売ったときの軽減税率の特例
    3. 4-3.特定の居住用財産の買換えの特例
    4. 4-4.事業用資産の買換えの特例
    5. 4-5.被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例
  5. 5.投資用不動産の売却にかかる税金計算シミュレーション
    1. 5-1.買換資産が5,000万円の場合(買換資産のほうが高い)
    2. 5-2.買換資産が3,000万円の場合(買換資産のほうが安い)
  6. 6.不動産売却で発生する税金の納付時期や納付方法
  7. 7.不動産売却にかかる税金を把握して出口戦略をシミュレーションしてみよう

1.不動産の売却手続き時に発生する税金

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不動産投資は家賃収入を得ることを目的にするのが一般的ですが、値上がりしたタイミングやローンを完済した段階で売却を考える人もいます。不動産投資では「出口戦略」と呼ばれる重要なポイントです。不動産を売却する際には税金が発生するケースもあるので、どのような税金がかかるのか把握しておく必要があります。

1-1.印紙税

不動産売買契約書などの課税文書に印紙を貼付する形で納税するのが印紙税です。納税する金額は契約書に記載された売買代金によって決まります。売買契約代金による印紙税額は下表のとおりです。

▽印紙税税額表(不動産)

記載された契約金額 税額
1万円未満 非課税
10万円以下 200円
10万円を超え50万円以下のもの 400円
50万円を超え100万円以下のもの 1,000円
100万円を超え500万円以下のもの 2,000円
500万円を超え1,000万円以下のもの 1万円
1,000万円を超え5,000万円以下のもの 2万円
5千万円を超え1億円以下のもの 6万円
1億円を超え5億円以下のもの 10万円
5億円を超え10億円以下のもの 20万円
10億円を超え50億円以下のもの 40万円
50億円を超えるもの 60万円
契約金額の記載のないもの 200円

なお、2027年3月31日までに作成される、不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税は税額の軽減措置が適用されます。

1-2.登録免許税

登録免許税は、不動産や会社などを登記するときに納税する税金です。納税は登記申請時に収入印紙で行います。

売却する物件に抵当権が設定されている場合は、売却資金でローンを完済します。その際、抵当権を抹消するために、「抵当権抹消登記」が必要です。抵当権の抹消は「所有権移転登記」の前に行っておく必要があります。売主は抵当権抹消登記と買主への「所有権移転登記」を決済日に続けて申請を行います。

登録免許税の税額は、抵当権抹消登記の場合、不動産1件につき1,000円です。

また売却する時点で登記簿に登録されている売主の住所が古い場合は、「住所変更登記」が必要になるので注意が必要です。

1-3.仲介手数料の消費税

不動産会社に支払う仲介手数料にも10%の消費税が課税されます。不動産を売却する際の仲介手数料は以下のように計算します。

仲介手数料=売買価格×3%+6万円+消費税(速算式、売買価格400万円超の場合)

売買価格が5,000万円の場合は、5,000万円×3%+6万円=156万円(仲介手数料)

156万円×10%=15万6,000円(消費税)

なお、居住用不動産の家賃には原則として消費税はかかりません(1ヵ月未満の契約を除く)。

2.不動産売却で譲渡所得を得たときに発生する税金

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不動産を売却するとき、取得価格(購入価格+諸費用)を売却価格(売却価格+諸費用)が上回っていれば利益が出るため「譲渡所得税」が発生します。譲渡所得には所得税、住民税、復興特別所得税が課税されます。

2-1.譲渡所得税とは

譲渡所得税とは、不動産や株式などの資産を譲渡(売却)したときに課税される税金です。個人に関する所得には以下の10種類があります。

給与所得、譲渡所得、不動産所得、事業所得、山林所得、退職所得、利子所得、配当所得、一時所得、雑所得

個人が不動産を売却した場合の所得は「不動産所得」ではなく「譲渡所得」となります。家賃収入は不動産所得、売却益は譲渡所得と覚えておきましょう。

譲渡所得は以下の計算式で計算します。

譲渡所得=譲渡価額(売却価格)-(取得費用+譲渡費用)

なお、建物の取得費は、所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて計算します。不動産は築年数が古いと取得したときより価格が下がってしまうことも多いですが、譲渡所得がマイナスになれば税金はかかりません。

2-2.譲渡所得にかかる税率は所有期間で変動

譲渡所得にかかる税率は、不動産を所有していた期間によって違いがあります。

譲渡所得の区分 譲渡所得税率 住民税 合計
課税長期譲渡所得税率 15.315% 5% 20.315%
課税短期譲渡所得税率 30.63% 9% 39.63%
※2013年以降、2037年まで譲渡所得税率に復興特別所得税2.1%が上乗せされます

所有期間が5年未満の場合は「短期譲渡所得」、5年を超えると「長期譲渡所得」となります。5年を境に

して税率が大幅に変わってしまうため、所有期間が4年6ヵ月というケースでは、あと6ヵ月以上待って5年超になってから売却したほうが得です。

ただし、注意しなければいけないのは、5年超の分岐点です。所有年数の区分は、譲渡した年の1月1日時点で判定されます。例えば、2019年8月10日に購入した物件は、2024年8月10日を超えると5年経過しますが、その年の1月1日時点では5年超になっていないため、長期譲渡所得には該当しません。このケースでは2025年1月1日で5年超と判定されます。

3.不動産売却時の譲渡所得税の計算方法

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不動産売却時の譲渡所得税がどの程度課税されるのか、投資用不動産を例に具体的な計算方法を確認しておきます。

【設定条件】
RC造マンションを新築時に購入、物件購入代金4,000万円(土地価格2,000万円、建物価格2,000万円)、購入時諸経費250万円、減価償却費(償却率0.022、定額法)、経過年数7年、譲渡価格5,000万円、譲渡時諸経費300万円

3-1.①譲渡所得を把握

はじめに譲渡所得がいくらになるか計算します。減価償却費はすでに毎年必要経費として控除されているので、取得費用から差し引きます。

・減価償却費
2,000万円×0.9×0.022×7年=277万円(1万円未満四捨五入、以下同)

0.9をかけるのは旧定額法で、取得価格から10%の残存価格を控除した金額に償却率をかけるというルールになっているためです。

・取得費用
4,000万円-277万円+250万円=3,973万円

・譲渡所得
5,000万円-(3,973万円+300万円)=727万円

3-2.②特別控除額を差し引いて課税譲渡所得を算出

次に譲渡所得から「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」などの特別控除額があれば差し引いて、「課税譲渡所得」を算出します。ここでは適用がないものとします。

3-3.③税率をかけて譲渡所得にかかる税金を算出

最後に譲渡所得税率をかけて課税譲渡所得にかかる税金を算出します。7年間所有したので長期譲渡所得税率が適用されます。

727万円×20.315%=148万円(納税額)

もし所有期間5年未満の短期保有で売却した場合は短期譲渡所得税率が適用されるため、以下のような計算結果となります。

727万円×39.63%=288万円

288万円-148万円=140万円で、長期譲渡にしたほうが140万円も納税額が少なくなります。

4.不動産売却時に活用できる税金の控除・特例

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不動産売却時に譲渡所得から控除できる特例がいくつかあります。居住用不動産のみ適用される特例と、事業用不動産に適用される特例があるので、該当するものがあれば利用するようにしましょう。

4-1.居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例

マイホーム(居住用財産)を売ったときは、一定の要件を満たすと所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除できます。一定の要件とは、「現に自分が住んでいる家屋」「以前に住んでいた家屋(住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る場合に限る)」など細かく定められています。

この特例を利用できるなら、多くのケースで譲渡所得税が非課税になるでしょう。

参照:国税庁「№3302 マイホームを売ったときの特例」

4-2.マイホームを売ったときの軽減税率の特例

10年以上所有したマイホームを売却する場合、一定の要件を満たすと軽減税率が適用されます。一定の要件は上記3,000万円控除とほぼ同じ内容です。

税率は以下のように区分されています。この特例は、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」と併用が可能です。

課税長期譲渡所得金額(=A) 税額
6,000万円以下 A×10%
6,000万円超 (A-6,000万円)×15%+600万円

4-3.特定の居住用財産の買換えの特例

特定のマイホームを、2025年12月31日までに売って、代わりのマイホームに買い換えたときは、一定の要件を満たすと、譲渡益に対する課税を将来に繰り延べることができます。ただし、譲渡益が非課税になるわけではありません。

一定の要件とは、「売ったマイホームと買い換えたマイホームがともに日本国内にあること」「居住期間が10年以上、かつ、売った年の1月1日時点で所有期間が10年以上」「売却代金が1億円以下であること」「売った年の前年から翌年までの3年の間に買い換えること」など細かく定められています。

参照:国税庁「№3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例」

4-4.事業用資産の買換えの特例

個人が事業用の土地・建物を譲渡して、一定期間内に代わりになる事業用資産を購入し、1年以内にその買換え資産を事業の用に供した場合、一定の要件を満たすと譲渡益に対する課税を将来に繰り延べることができます。ただし、譲渡益が非課税になるわけではありません。

一定の要件とは、「2026年3月31日までに譲渡すること」「譲渡する年の1月1日時点で所有期間が10年を超える国内にある事業用の土地・建物であること」など細かく定められています。

参照:国税庁「№3405 事業用の資産を買い換えたときの特例」

4-5.被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例

相続または遺贈によって取得した被相続人の居住用家屋または敷地等を2027年3月31日までに売って、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できます。

一定の要件とは、「1981年5月31日以前に建築されたこと」「区分所有建物登記がされている建物でないこと」「相続の開始直前に被相続人以外に居住していた人がいなかったこと」など細かく定められています。

参照:国税庁「№3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」

5.投資用不動産の売却にかかる税金計算シミュレーション

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投資用不動産を買い換える場合、どれくらいの税金がかかるのかシミュレーションしてみます。「事業用資産の買換えの特例」を適用する場合、売った金額より買い換えた金額のほうが多い場合は、売った金額に20%を掛けた額を収入金額として譲渡所得の計算を行います。

【設定条件】
RC造賃貸マンション、所有期間11年、課税割合20%、減価償却費326万7,000円(償却率0.022、定額法)、譲渡価格4,000万円、譲渡時諸経費250万円、取得価格3,000万円(土地価格1,500万円、建物価格1,500万円)、取得時諸経費200万円、「事業用資産の買換えの特例」を適用

・減価償却費の計算
1,500万円×0.9×0.022×11年=327万円(1万円未満四捨五入、以下同)

・取得費の計算
3,000万円-327万円+200万円=2,873万円

5-1.買換資産が5,000万円の場合(買換資産のほうが高い)

・売却収入
4,000万円×0.2=800万円

・経費
(2,873万円+250万円)×0.2=625万円

・譲渡所得
800万円-625万円=175万円

・譲渡所得税
175万円×20.315%=36万円

5-2.買換資産が3,000万円の場合(買換資産のほうが安い)

・収入
(4,000万円-3,000万円)+(3,000万円×20%)=1,600万円

・経費
(2,873万円+250万円)×(1,600万円÷4,000万円)=1,249万円

・譲渡所得
1,600万円-1,249万円=351万円

・譲渡所得税
351万円×20.315%=71万円

計算の結果、買い換えた資産のほうが安い場合のほうが譲渡所得税は安くなることがわかります。

6.不動産売却で発生する税金の納付時期や納付方法

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不動産売却は、税金を納めて完了となります。未納がある場合は延滞税が課される恐れがあるので、いつどのような方法で納付したらよいか把握しておく必要があります。各種税金を納付する時期と納付方法は以下のとおりです。

・印紙税
売買契約を結んだときに、収入印紙を契約書に貼付し、消印することで納付します。

・登録免許税
抵当権の抹消登記など登記申請するときに、収入印紙で納付します。

・譲渡所得にかかる税金(所得税)
物件の引渡しが完了した翌年の確定申告後に、納付書によって納付します。復興特別所得税も一緒に納付します。

・譲渡所得にかかる税金(住民税)
物件の引渡しが完了した翌年の確定申告後に、納付書によって納付します。給与所得者は手続き不要です。

7.不動産売却にかかる税金を把握して出口戦略をシミュレーションしてみよう

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不動産投資にとって出口戦略は極めて重要です。不動産投資が成功したといえるケースは主に以下の3つです。

・好立地物件で入居者が安定し、多くの家賃収入を得た(インカムゲイン)
・物件が買値より高く売れて売却益を得た(キャピタルゲイン)
・ローンを完済して、老後の住まいを得た

このうち、キャピタルゲインを得られるか考えるのが出口戦略です。

また、利益が出た場合、さまざまな控除や特例を利用することで納税額を少なくできます。税金についてあらかじめ知っておくことは有意義です。特に不動産は高額な商品なので、少しの税率の差や、控除適用の有無で納税額が大きく異なる可能性があります。

近いうちに売却を検討している場合は、譲渡所得税がどれくらいかかるのか、適用できる控除や特例がないか、記事中の計算例を参考にしながら、出口戦略をシミュレーションしてみましょう。

※本記事は2024年11月23日現在の情報をもとに作成しています。不動産に関する税制は変更または延長・終了する場合があります。売却を検討する際は最新の情報をご確認ください。また、記事中のシミュレーションは一例です。設定条件によって計算結果は異なりますので、参考程度にお考えください。

(提供:Dear Reicious Online



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