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米景気への懸念が後退し、市場の局面が変化
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米景気への懸念が後退し、市場の局面が変化
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要旨

9月分雇用統計で米景気の堅調さが浮き彫りに

9月分の米国雇用統計は、米国景気が想定外に堅調であることを示唆する内容となりました。これによって、金融先物市場における年内の追加的な利下げの織り込み回数は2回程度に下方修正されました(1回の利下げを25bp⦅=0.25%⦆として計算、以下同様)。

テクノロジー銘柄以外の株価はレンジ相場となる公算

私は、これまでFRB(米連邦準備理事会)の利下げに対する織り込みが短期的に株価を押し上げるとみてきましたが、9月分雇用統計による利下げ期待の後退を受けて、テクノロジー銘柄を除く株価の上昇局面はいったん最終盤に達した可能性があると考えます。

FRBは25年央までは利下げ継続か。一方で、インフレへの警戒も続く

インフレの落ち着きが続く限り、FRBは、景気が大幅に減速するリスクを回避する観点から、2025年前半くらいまでは9月FOMCの想定通りに利下げを実施すると見込まれます。その後の追加的な利下げの有無はインフレ情勢に左右されるでしょう。一方で、短期的なインフレの再加速は考えにくいものの、今後物価統計が上振れる場合には、金融市場のボラティリティーが上昇するリスクが高まることに注意が必要です。

9月分雇用統計で米景気の堅調さが浮き彫りに

 米国の景気の強さを巡る見方が大きく変わってきました。振り返ってみると、8月上旬に公表された7月分の米国雇用統計で雇用者増加ペースの大幅な減速が明らかになった際、グローバル金融市場での米国景気の見方は悲観論に大きく傾きました。景気後退の可能性が久しぶりに視界に入ったことで、金融市場では、FRB(米連邦準備理事会)による大幅な利下げが織り込まれ、長期金利の低下と株価の下落につながりました。しかし、その後に公表された各種経済指標では、米国経済がおおむね底堅い動きをしていることが明らかとなったことから、グローバル金融市場では、米国景気への後退に対する懸念が薄らぎ、長期金利と株価が緩やかに上昇するトレンドが続いていました。ただし、米国景気が後退する可能性は金融市場における大きなリスクとして依然として引き続き強く意識されたままでした。

 こうした中で10月上旬に公表された9月分雇用統計では、同月における非農業部門の雇用者増加数が22.3万人と、市場予想の12.5万人を大きく上回るとともに、パウエルFRB議長が9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)会合後の記者会見で「最も重要な指標」とした失業率も4.1%と、前月の4.2%から低下しました。これらの指標は、米国の労働市場がタイトであることを強く印象付ける内容であり、金融市場にあった米国景気後退への懸念を大きく和らげることになりました。一定の前提をおいて計算すると、民間部門の実質総賃金の伸びは9月も前年同月比で2%台後半を維持しており、所得環境の改善が続いています(図表1)。所得の改善は消費の緩やかな増加につながっており、民間消費の3カ月移動平均値のその3カ月前と比較した際の伸び率でみたモメンタムも比較的強いままの状況です(図表2)。

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 9月分雇用統計を受けて、金利先物市場での2024年末までの追加的なFF金利引き下げ幅についての織り込みは、直前の2.9回(1回の利下げ幅を25bpとして計算)から2.2回へと縮小する一方、2025年中についても、直前の4.5回から、4回へと低下しました(図表3)。これにより、2024、2025年中の利下げ幅は、9月のFOMCで示されたFOMC参加者の見通し(中央値ベース)とほぼ同水準となりました。

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テクノロジー銘柄以外の株価はレンジ相場となる公算

 強めの雇用統計に対する株式市場の反応をみると、発表前日から直近(10月8日)までのS&P500種指数の上昇率は0.9%となっています。景気の堅調さによる企業業績上振れへの期待感が強まったことによる株価への上昇圧力が、FRBの利下げへの期待が低下したことによる株価への下落圧力をやや上回ったと考えられます。この間のS&P500種指数の騰落率を業種別にみると、利下げの恩恵が及びやすい、不動産や公益事業といったセクターの株価が下落した一方、一般消費財・サービスや資本財・サービスといった景気敏感セクターの株価が上昇しました(図表4)。

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私はFRBの利下げに対する織り込みが短期的に株価を押し上げるとみてきましたが、9月分雇用統計による利下げ期待の後退を受けて、テクノロジー銘柄を除く株価の上昇局面はいったん最終盤に達した可能性があると考えます。マグニフィセント7(エヌビディア、メタ・プラットフォームズ、アルファベット、マイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、アップル、テスラの7銘柄)を除く米国の大型株価は、既に史上最高値を更新しており、利下げ期待が株価にほぼ織り込まれたと考えられるためです。今後は、11月5日に実施される米国大統領選挙・議会選挙の勝者が決定すれば、選挙の実施に伴う不透明感が和らぐことで株価は短期的に上昇すると見込まれます。しかし、その後については、米国景気の「強すぎもせず弱すぎもしない」局面への移行が視野に入ることを前提に、テクノロジー銘柄を除く米国株は年末から2025年にかけてレンジ圏に入ると見込まれます(当レポート8月22日号『戻ったものと、戻っていないもの―日米株市場を展望』をご参照ください)。一方、マグニフィセント7の銘柄群については、個別企業の今後の業績についての評価や期待感に左右される形で比較的高いボラティリティーが続くとみられます。

FRBは25年央までは利下げ継続か。一方で、インフレへの警戒も続く

  9月のFOMCで参加者の見通しの中央値として示された政策金利の追加的な引き下げ回数(1回の利下げ幅を25bpとして計算)は、2024年内に2回、2025年は4回でしたこれは、現在の金利先物市場における織り込みとほぼ同様の水準です。ここで注意が必要なのは、9月のFOMCで示されたFOMC参加者の実質GDP成長率についての2024年10-12月期の見通し(参加者の中央値ベース)が2.0%であった点です。これは、前年同期比ベースでの成長率ですが、2024年7-9月期の成長率が2024年前半とほぼ同様になりそうというパウエル議長の9月の記者会見での発言を踏まえると、FOMC参加者は、2024年10-12月期の前期比年率ベースでの成長率として1.2%程度を想定していたことになります。つまり、FOMC参加者は、成長率がいったん潜在成長率を下回る水準まで弱まることを前提として、2025年末までに合計で6回の利下げを想定していたことになります。しかし、9月分の雇用が米国景気の堅調さを示すものになったことをふまえると、2025年末までに6回の利下げが実際に実施される可能性は低下したと言えるでしょう。

とはいえ、私は、FRBは景気が大幅に減速するリスクを回避する観点から、インフレの落ち着きが続く限り、2025年前半くらいまでは9月FOMCの想定通りに利下げを実施すると見込みます。そうすると、2024年11月、12月のFOMC会合で、それぞれ25bp(=0.25%)の利下げを決定、2025年についても、1月、3月、5月、6月に開催される4回のFOMCのうち、2回のFOMCで利下げを実施する公算が大きいと見込まれます。この通りになるとすれば、2025年央時点でのFF金利の誘導目標は3.75~4.00%となります。これはまだ中立金利よりも高い水準ですが、2025年後半については、そこまでの利下げがもたらす景気浮揚効果がある程度顕在してインフレ圧力も相応に高まる可能性があることから、FRBが追加的な利下げに対してより慎重なスタンスで判断していくことになるでしょう。2025年後半についてはインフレが落ち着いたままであれば、さらに2回程度の利下げが実施されることになるでしょうが、逆にインフレリスクがより強く意識されるのであれば、利下げが停止される可能性が高まります。

金融市場では、9月分雇用統計や9月分米ISMサービス指数が上振れたことで、インフレに対する警戒感が再び意識されつつあります。PPI(生産者物価指数)も比較的落ち着いていることをふまえると、短期的にインフレが再加速することは考えにくい状況ですが、仮に今後公表される米CPI(消費者物価指数)統計が市場の想定を大きく上回るような場合には、金融市場のボラティリティーが上昇する公算が大きいと思われ、リスクとして注意が必要です。

木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト

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