この記事は2024年12月18日に「第一生命経済研究所」で公開された「成長分野を5つ挙げられますか?」を一部編集し、転載したものです。


分野
(画像=Intelligent Horizons / stock.adobe.com)

目次

  1. ランキング
    1. 過去約9年間での高成長業種>
  2. なぜ、クレジットカードが伸びたか?
  3. 高齢化の派生需要
  4. 日本経済の縮図

ランキング

私たちは、「成長産業」という言葉を気軽によく使う。例えば、「ベンチャー投資を成功させるためには、次の成長産業を探し出して投資すればよい」などと言う。しかし、具体的に「成長産業って何?」と聞かれると、途端に言葉に詰まってしまう。そのくらいに成長産業を特定することは難しいのだ。

今、思考実験として、読者の皆さんに「成長産業を5つほど例示してください」と質問したとする。多くの人は、2つ3つはすぐに答えが挙がるとして、その数を5つにすることは容易ではないだろう。増して10近くの成長産業をリストアップすることは著しく困難だと思う。

同じことは、DXについても言える。私たちは、デジタルを使って、事業転換に成功することをDXと称している。では、「DXは何の分野か?それはどこにあるのか?」と問われると、そこでも答えに窮する。全国でDXセミナーが開催されて、多数の講師がDXについて指南しているが、彼らでさえ具体的な成長産業を例示をすることは、それほど容易ではないと思う。具体化、見える化、特定することは、実際は難しい。

そこで、筆者は何が成長産業なのかを経済産業省「第三次産業活動指数」を使って具体的に洗い出してみた。この指数は厳密には、業種別に比較可能な付加価値のようなものではないが、参考にはなる。そうした限界に目を瞑って、この指数が2015年比較で直近(2024年7-9月)までにより大きく伸びたものをリストアップしてみた。分類は筆者が少し恣意的に区分していることも大目にみてほしい。

過去約9年間での高成長業種>

1位 クレジット業
2位 公営ギャンブル
3位 インターネット広告
4位 証券業(含む商品先物)
5位 情報関連機器レンタル
6位 ソフトウェア(含むゲームソフト)
7位 医薬品・化粧品等卸売
8位 ペットクリニック
9位 自動車レンタル・個人向け
10位 宅配業
11位 ホテル
12位 廃棄物処理
13位 その他の洗濯・理容・美容・浴場
14位 貸金業
15位 医薬品・化粧品小売

この15業種は、約9年間の期間で1.3倍から1.9倍も活動指数が大きく伸びている。第三次産業全体では、僅かに2.5%しか伸びていないから、この15業種の成長は飛躍的と言ってよいだろう。

なぜ、クレジットカードが伸びたか?

首位のクレジットカード業は、この約9年間に1.9倍も伸びている。まさしく高成長の業種である。ところで、なぜ、クレジットカード業がこれほど大きく伸びたのか。大手クレジット会社には、銀行系、流通系、ネット系などがあり、いずれにも属さない独立ブランドもある。

伸びている市場は販売信用である。高成長の理由には、EC取引の拡大があろう。インターネット通販などのサイト決済では現金を使うことはない。だから、そうしたEC取引が増えれば、自ずとクレジットカード利用も増える。経済産業省のサイトでEC取引金額の推移を調べると、2015年から2023年までに13.8兆円から24.8兆円へと1.8倍に規模が膨らんでいる。拡大するネット取引の決済手段として、クレジットカード業も成長したということだ。

次に、2位の公営ギャンブル=競馬、競輪、競艇、オートレースは意外な結果だろう。実は、この4つのうち、最も伸びているのは競艇(2.5倍)だ。そして競輪(2.1倍)、オートレース(1.8倍)である。競馬は4つのうち最も低い(1.5倍)。おそらく、同じ競馬でも地方競馬は、上昇率ではより大きく伸びていると思われる。理由は、ネット取引(ネット投票)という賭け事の手段が、コロナ禍で普及したことが大きいと思われる。遠隔地の参加者を、ネット取引は大きく取り込んだ。最近、筆者が飲食店で相席した隣の男性の手元には競馬新聞があって、熱心に紙面を凝視していた。遠くの地方競馬の欄に赤鉛筆で丸が付けられていて、研究の跡があった。筆者は賭け事の知識が乏しいが、この人はネット投票で遠隔地の競馬を楽しんでいるのだと直感した。ネット取引で賭け事ができると、都市部ではなく地方にあるレースにも関心が及ぶ。こうした賭け事の人気は、まさしくDXの好事例だと思える。また、ギャンブルは、政府が住民税非課税世帯向けに、給付金支給を最近頻繁に行っていることも、一因になっているようだ。この話は、困窮者支援事業に関係している人からも聞いた。

3位のインターネット広告、4位のソフトウェア開発も、ネット産業の隆盛を反映する。5位の証券は、ネット株式取引もあるが、暗号資産取引やFX取引の市場拡大によって事業が大きくなっていることを反映しているのであろう。やはり、金融取引のネット化の影響である。

少し順位は下がって、10位の宅配業も、EC取引が普及したことで、自宅に届ける宅配ニーズが飛躍的に伸びたのだろう。ネット取引そのものではなくても、周辺分野でそれに連動するかたちで取引量が増えているのだ。クレジットカード=販売信用や、宅配の利用拡大は、ネット取引の派生需要が膨らんだためだと説明できる。昔から、「ゴールドラッシュで儲けたのは、金を掘った人ではなく、ツルハシを売った人だった」と言われる。

高齢化の派生需要

日本の成長産業のベスト10のうち、7つまでがIT関連またはデジタル化の派生によって成長した産業であった。そうした意味で、DX関連が日本の高成長分野だという表現は間違いではない。次に、そうしたデジタル関連以外の成長分野に注目してみたい。以下に挙げるのは、ベスト15のうち、デジタル関連以外のランキングである。

7位 医薬品・化粧品等卸売
8位 ペットクリニック
9位 自動車レンタル・個人向け
11位 ホテル
12位 廃棄物処理
13位 その他の洗濯・理容・美容・浴場
14位 貸金業
15位 医薬品・化粧品小売

このランキングからは、人口高齢化という流れが見えてくる。7位の医薬品・化粧品等卸売は、医療需要がコロナ禍で高まったことや、高齢者医療の需要拡大がある。化粧品の世界では、アンチエイジング市場の成長もある。美肌、細胞活性化などの謳い文句は、年齢層の高い消費者向けであろう。ほかにも、13位のその他の洗濯・理容・美容・浴場にも、美容ビジネスが含まれている。15位の医薬品・化粧品小売も同じくアンチエイジング市場の成長がある。

8位のペットクリニックも、微妙に高齢化が絡んでいる。ペットの犬と猫の数では、猫が逆転して増えたことが、数年前にニュースになった。飼い主が高齢化していることも影響しよう。子供が独立した家庭では、犬や猫を飼い始めるケースは少なくない。その犬や猫も高齢化していて、クリニックのお世話になる機会も増えている。  

日本経済の縮図

成長産業と言えば、全体を牽引しているように思えるが、デジタル化の裏側では縮小する分野もある。第三次産業活動指数のカテゴリーでは、「情報通信」の中でデジタル系は伸びているが、紙系は低迷している。新聞・出版・週刊誌・月刊誌・書籍は厳しい。非デジタルが中心の分野には、映画・ビデオ・テレビ・ラジオもある。これらは、デジタルの隆盛で市場を食われている分野だ。広告需要も、非デジタルからデジタルにシフトして明暗が分かれている。

実は、上記のランキングには含めなかったが、製造業も厳しい。鉱工業生産指数は、同じ分類で、2018年から2024年7-9月まで比較可能である。鉱工業生産全体は、この約6年間で▲11.5%ほど指数が低下している。全体の指数を2015年以降で遡及しても、最近との比較で▲8.7%となっている。

細かい分類ごとに、2018年から約6年間の上昇ランキングを作ってみると、

1位 集積回路(IC)
2位 事務用機器
3位 航空機部品
4位 分析機器・試験機
5位 玩具

となっている。やはり、半導体関連は強い(1.6倍)。4位の玩具とは、ゲーム機なのだろう。しかし、製造業を調べて驚くのは、約6年間でプラスになっている分類が僅かに14しかないことだ。つまり、ほとんどの分類は市場が2018年比で縮小している。これは、製造業の全般的な衰退を意味する。このことは危機感を感じずにはいられない。政治の世界はこの事実をどれだけ真剣に捉えているだろうか。

第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生