この記事は2024年12月23日に「第一生命経済研究所」で公開された「円安加速、1ドル160円台を目指す」を一部編集し、転載したものです。


円安
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目次

  1. インフレ懸念
  2. 日銀の謎
  3. トランプ・リスク

インフレ懸念

再び円安が加速している(図表)。米国では、長期金利が4.5%台まで上昇している。トランプ次期大統領の政策が、2025年にインフレを促すとみられるので、それを見越してFRBも利下げがしにくくなると見通しを変更した。12月のFOMCでは、25年末までに2回分▲0.50%ポイントの利下げ(前回9月4回分▲1.00%)を示した。おそらく、半年ごとに1回ではなく、2025年前半の早い時期に2回の利下げになるだろう。だから、2025年後半は政策金利据え置きになって、金融政策の方針が転換される可能性がある。心配されるのは、FRBが今度はどこかで利上げに転じるのではないかという思惑が急浮上することだ。米長期金利は、上昇基調に転じることになる。つまり、為替レートもドル高・円安のトレンドに転じていく可能性がある。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

もう一方で、日銀はどうだろうか。12月の日銀金融政策決定会合では、植田総裁が意外に慎重だということが改めて理解できた。この12月の金利据え置きで、円安圧力をかなり強めたと思う。

日米の政策金利差を考えると、FRBは2025年前半に2回の利下げを行って、日銀が1回の利上げを行うと、金利差は3.25%ポイントまで縮まる。この日米金利差の縮小自体は、円高要因だ。しかし、その後の2025年後半以降は米金利が引き上げ方向に向かうと予想されれば、現在の金利差よりも、将来の金利差予想に反応して、ドル高円安へと向かう可能性がある。

日銀の謎

「こうすれば、こうなることは事前にわかっていたはず」と思えるのが、日銀の金利据え置きだ。12月利上げを見送れば、円安が進んでいくことはわかっていた。さらに判断に慎重さを示したことで、今後も円安が進むだろう。

本年7月11・12日の為替介入では、1ドル161円で介入して157円まで円高方向に押し戻した。介入ラインが160円だとすると、現在の為替レートはその介入ラインに近づいている。日銀の金利据え置きは、きっと投機的な思惑を刺激して、円売り圧力を生じさせることだろう。おそらくドル円レートは、1ドル160円を試しに行くだろう。

為替レートの円安化を防ぐ手段には、為替介入もある。しかし、為替介入は伝家の宝刀で容易に使うことはできない。2025年1月20日以降は、トランプ政権に交代し、財務長官もベッセント氏になる。ドル売り・円買い介入は、米国側に容認されるだろうか。そこには、Noと言われるかもという不確実性がある。直感的に為替介入は、以前よりも実施しにくくなるとみられる。なお、2017~2021年の前回のトランプ政権の時期には、日本は為替介入を行っていない。

翻ってなぜ、日銀は為替介入が難しくなるような局面でわざわざ火中の栗を拾うように、円安容認的な金利据え置きをしたのであろうか。何度も繰り返すが、「こうすれば、こうなることは事前にわかっていたはず」だと思う。これが筆者が抱く日銀の謎である。

トランプ・リスク

2025年の為替レートはどう推移していきそうか。それはトランプ次期大統領の政策を受けて大きく変動しそうである。

目下、トランプ氏は連邦予算のつなぎ法案に反対し、政府閉鎖のリスクが急浮上している。そこでは、連邦債務上限を求めている。債務上限が引き上げられれば、トランプ氏が推進しようとしている法人税減税なども実行しやすくなる。政府債務拡大は、インフレ要因であり、米長期金利を上昇させる圧力となる。早くもドル高円安の要因を作るような行動を採ったようにみえる。

トランプ政策は、いずれもインフレ促進の作用を持っているので、そのメニューの実行が早いか遅いかによって、インフレ・リスクの顕在化の時期は変わってくるだろう。新政権の閣僚人事は、トランプ氏の忠臣が揃っていて、政策対応は早い時期に実行される可能性がある。すると、FRBの利下げ停止は早いタイミングになり、2025年後半はやはりドル高円安への変化が加速する可能性がある。12月のFOMCで示されたメンバーの物価予想は、2025年2.5%(9月2.1%、PCEデフレーター)である。それを上回っていけば、政策金利のスタンスも変わっていくだろう。

それに対して、日銀は素早い追加利上げができにくいと考えられる。2025年前半に1ドル160~165円を目指し、年後半はもしかすると、それ以上の円安もあり得る。

第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生