特集「令和IPO企業トップに聞く 〜 経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍を迎えた激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について各社の取り組みを紹介する。
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創業時からの事業変遷
—— 創業時から現在に至るまでの事業の変遷をお聞かせください。
飯野 当社の前身となるトーワ電気は、1978年に宮城県仙台市で私の父が創業した会社です。私が入社したのは1993年で、当初はインテルのCPUを用いて、大学や研究機関に計算資源を納品するビジネスを行っていました。計算資源は主にCPUで行われていたのですが、2006年、2007年頃からグラフィックプロセッサー(GPU)で行うようになっていきます。
きっかけは、NVIDIAがGPUで計算できるようにするためのソフトウェアツール、CUDAを開発したことです。2006年に開発され、2007年のアメリカで開催されたSCという学会でGPGPUの製品展示がありました。私もその学会に参加し、ぜひ日本でもこのGPGPUの技術を使ってビジネスをしたいと交渉をして、当時のトーワ電気でNVIDIAの製品を取り扱い始めることになりました。幸い、インテルのCPUを使用していた大学や研究機関とも既にお付き合いがありましたので、そういったところへGPGPUを紹介していきました。
そこから、NVIDIAがパートナー制度をしっかり設計し始めたり、新しい製品が出るたびにトレーニングを受けるなど、ともに日本のマーケットを開拓していったような形です。
—— 2007年にNVIDIAの取り扱いを始められたということで、非常に早い時期に取り組まれた印象です。
飯野 そうですね。私たちはNVIDIAの最も古いパートナーの1つとなっています。
—— 市場でGPGPUが話題になったのはもっと後の印象なので、2007年から取り組まれていたとは驚きです。
飯野 おっしゃる通り、当時はGPUがまだ市民権を得る前で、お客様に信頼していただくのは難しい時期でしたが、早い段階で取り組んだことが功を奏したと思います。
—— 先見の明をお持ちなんですね。
飯野 たまたま出会いが良かったと思っています。そしてその後、2012年には、カナダのヒントン教授がディープラーニングの手法を確立し、次のトレンドとして市場に影響を与え始めます。これを機に、NVIDIAもAIに大きくシフトし、社内リソースをAIに投入するようになりました。
次いで我々も、2015年にAIのワークステーションを日本で最初に開発し、翌年に株式会社ジーデップ・アドバンスを設立しました。ここでも、NVIDIAと共にエコシステムを作りながら市場を大きくし、日本のマーケットでの成長を遂げてきました。
上場を目指された背景や思い
—— 上場を目指された背景や想いをお聞かせいただけますか。
飯野 当社はNVIDIAだけでなく、インテル、AMDといったグローバルプロセッサメーカーのパートナー認定を取得しています。これらの製品を組み合わせて、オリジナルのソリューションを展開しています。例えば、コロナの患者さんをAIが診断するソフトウェアを安定稼働させるソリューションを提供しています。
こうした社会に実装されるシステムをオリジナル製品として提供する機会が増えてきました。監視カメラや人流解析など、社会のインフラに関わるシステム開発にも我々の製品が使われ始めています。このような状況で、プライベートカンパニーのままで良いのか、それともパブリックカンパニーとして責任を持って提供するべきかを考えた結果、後者の方が社会に貢献できると判断しました。これが上場を目指した大きな理由です。
—— 上場を目指したのは、比較的最近のことだったのですね。
飯野 2019年の夏に仙台市の上場支援企業に選ばれ、本格的に動き始めました。
—— コロナの影響が出たのはそのすぐ後だったのですね。
飯野 まさにその通りです。コロナの影響で当社では初めて単月赤字を経験しました。しかし、内部留保があったので、なんとか乗り切ることができ、結果として、増収増益を達成しましたが、その時は非常に厳しい状況でした。
社会環境が目まぐるしく変わる中、リモートセミナーなども試行錯誤しながら行いました。今では当たり前ですが、当時は新しい試みだったので大変でしたね。
—— 2019年に決断されてから、4年で上場されたのですね。
飯野 はい、実質3年ちょっとで上場できました。優秀な社員のおかげですね。IPOを目指すことで、優秀な人材と出会えるのはありがたいことです。
今後の事業戦略や展望
—— 今後の事業戦略や展望についても教えていただけますか。
飯野 当社は、グローバルプロセッサメーカー4社の認定を受けています。この4社から同時に認定を受けているのは、実は国内では我々だけなんですね。それにより、オリジナリティのあるソリューションを提供し、模倣困難性を高めています。お客様からはその点を評価いただいていると思います。
さらに、認定だけでなく、実績も上げており、アワードも受賞しています。特にNVIDIAからは、日本にいる80社ほどのパートナーの中で、ビジネス貢献度が最も高いというアワードを2回受賞しています。
なぜそれができるかというと、我々は独自の知見を社内に蓄積しており、それを活用して独自のポジショニングを築いています。今後、AI市場はますます拡大するでしょう。デスクサイドでAIを学習させるワークステーションから、クラウドで利用される大規模な計算AI資源まで、お客様の要望に応えていきたいと考えています。
そのためには、我々だけの力ではなく、国内のデータセンターや世界中のソフトウェアベンダーとパートナーシップを築き、お客様の要望に柔軟に応えていくことが重要です。大規模なAIの需要に対して、タイムリーに対応していきます。
グローバル企業との関係も強化しています。例えば、イスラエルのRun:AIや、サンフランシスコのW&Bといった会社と提携しています。これらはChatGPTのOpenAI社でも使用されているソフトウェアツールです。我々は販売パートナーとして、こうしたグローバルな製品を国内のお客様にタイムリーに提供することが使命です。
—— AI技術の進化についても教えてください。
飯野 AIは最初、画像認識から始まりました。例えば、赤い物体がボールなのか、トマトなのかを判別することから始まりました。医療画像の自動診断や自動運転の分野でも活用されています。しかし、今ではAI自体が文章や動画を生成する時代になっています。
AI技術は1つどころか2つ、3つ上のレイヤーに進化しています。それに対応するシステムを提供することが、我々の将来戦略です。
今後のファイナンス(調達・投資)計画について
—— 今後のファイナンス計画について教えていただけますか。
飯野 大規模なAIの導入には、かなりの資金と設備が必要です。海外では、特に大手企業が日本の数倍、数百倍の予算で設備投資を行っています。しかし、国内の企業でそれだけの予算を確保して投資できるところは限られています。日本ではまだ設備投資が少なく、研究開発のスピードにも影響します。日本のAI開発はグローバルで見ると遅れを取っていると言われています。そこで、私たちの使命として、お客様に使いやすくハードルを下げた大規模AIの学習環境を提供すべきだと考えています。IPOを通じて資金調達が可能な状況にあるので、それを活用して最新のAIが学習できる環境を提供するために資金を投じていきたいと思っています。
これは設備だけでなく、開発支援や機材の安定稼働のためのファシリティ提供など、さまざまな切り口があります。ビジネスを広げる意味でも、全方向で見ながら、投資すべきところにはしっかりと投資していきたいと考えています。
—— 御社の中期経営計画や決算の説明資料を見ると、財務面は非常に強固な状態にあると思います。資金調達をする際にも、安定性を第一に考え、しっかりと地に足ついた計画で進めていかれるという印象を受けましたが、いかがでしょうか。
飯野 そうですね。ただ、ビジネスを進める上で、株主の皆様が期待するのは、資金をどれだけ効率よく使っているかという点です。足腰をしっかりさせることは必要ですが、効率よく投資すべきところにはアグレッシブに投資していきたいと考えています。
上場していなければ、安定しているだけで良いかもしれませんが、せっかく上場したので、株主の皆様に「ビジネスが面白くなりそうだ」「将来が楽しみだ」と思っていただけるような投資をしていきたいと考えています。
メディアユーザーへ一言
—— 最後に、ZUU onlineユーザーに向けて、メッセージをいただければと思います。
飯野 当社はグローバルなプロセッサーメーカーとパートナーシップを組み、彼らの知見を最速で共有し、お客様にソリューションとして提供するビジネスを行っています。彼らと組むことで、そのスピード感や市場の成長を肌で感じることができ、ワクワクする製品作りを近くで見られるのです。AIやDXの市場が急成長する中で、我々の活躍するステージも年々広がっています。
しっかりとアジリティを持ってキャッチアップしていきたいと思っています。市場に対して魅力的な投資を行い、どうアプローチするのか、そして継続的に企業価値を向上させることが重要です。ぜひ、我々のアクションや面白い取り組みを見ていただけるとありがたいです。
- 氏名
- 飯野 匡道
- 社名
- 株式会社ジーデップ・アドバンス
- 役職
- 代表取締役 社長 CEO