
創業時からの事業変遷
—— 創業時からの事業編成についてお伺いしたいのですが。
株式会社Schoo 代表取締役・森 健志郎氏(以下社名、氏名略) 2011年に会社を創業し、2012年から社会人向けの動画学習サービスを提供し始めました。その後、2015年に法人向けサービスを開始し、いくつかの新規事業も展開しています。基本的には法人向けのサービスを主力事業として、2024年10月に上場しました。
—— もともとは個人向けのサービスからスタートされたのですね。そこから法人向けに展開されたきっかけは何だったのでしょうか。
森 もともと個人向けにサービスを提供していましたが、コンテンツやプロダクトを会社全体で使いたいというニーズがありました。そういったお客様の声に応える形で、法人向けサービスの提供を開始しました。
—— 創業された時期についてお伺いします。創業は24歳の時だったと思いますが、若い頃から起業を考えていたのでしょうか。それとも何か特別なきっかけがあったのでしょうか。
森 後者です。会社をやることは全く考えていませんでした。東日本大震災の時に、私が関わっていた新築マンションの住宅広告のプロモーションが全てストップしました。その時に、偶然つまらないeラーニング動画を見ていて、ニコニコ動画が好きだったことが重なり、魔が差したという感じです。
—— そのつまらないeラーニング動画を見た際に「もっと面白くできるのではないか」と思われた訳ですね。
森 そうですね。社会人2年目の終わりに企業研修としてEラーニングを使うことになりました。内容は学びたいものでしたが、面白くありませんでした。講師の表情は硬く、ただカメラ目線で語る内容を見るという苦行のようなものでした。面白くないと学びが進まないというのは、多くの方が共感できる部分だと思います。だからこそ、もっと良いものを作りたいと感じました。
上場を目指された背景や思い
—— 上場を目指された背景や目的についてお聞かせください。
森 社会人教育の分野で、我々は日本国内でまだ誰もが思い浮かべる会社がないと考えています。少子高齢化が進む中で、大人が学び続けて生産性を高めたり、新しい職域にリスキリングすることが経済成長において重要です。我々はそのポジションを取り、社会人教育の代表的な存在になることを目指しています。
—— 上場を決断されたタイミングについてもお聞かせください。
森 ここ数年、リスキリングや人への投資が国策として注目されています。このタイミングで社会的に名前を覚えていただくことで、我々の中長期的な目標である社会人教育の第一想起を実現するスピードが上がると考えました。上場するには総合的な判断が必要ですが、内部関係者と目線を合わせてこのタイミングで実行しました。
——上場前と上場後で何か変化はありましたか?
森 本質的なところはあまり変わっていないと思います。我々の会社を選ぶ人は、上場を目的としているのではなく、ミッションやビジョンに共感している人たちです。上場は一つの手段であり、プロセスとしての喜びはありますが、それ以上でもそれ以下でもないと考えています。
今後の事業戦略や展望
—— 今後の事業戦略や展望についてお聞かせいただけますか。
森 短期的な成長戦略と中長期の戦略があります。 短期的には、弊社の基幹事業である「Schoo for Business」というサービスを大企業のお客様にもっと広めていくことが目標です。コロナ禍以降、企業のオンライン化が進み、人的資本経営が注目されています。今、日本の大企業はリスキリングや人的資本経営について本気で考え始めています。大企業のニーズをより深く理解し、それをプロダクトや新しいオプション商品に反映するサイクルを回すことで、大企業のお客様を広げ、収益を拡大することが短期の成長戦略です。
中長期的な戦略としては、社会的な学びの第一選択肢をいかに獲得するかが重要です。我々は法人・個人向けサービス、大学のDX支援サービスを通じて、学び手の顧客基盤と教えるパートナーシップという二つの資産を積み上げています。これらを弊社のブランド上でマッチングさせるマーケットプレイスのようなサービスを作り、学びの選択肢が減っている地域の方々にも学びを届ける独自のモデルを構築します。
—— 短期的な戦略について、法人のお客様のニーズを聞いてプロダクトが増えていく可能性もあるのですか。
森 はい、現状では「Schoo for Business」のオプションとして追加のサービスを提供していますが、ニーズを深く把握しビジネス化できるものがあれば、内製で開発することも考えています。また、類似の事業者様との連携やM&Aを含めた協力も視野に入れています。人的資本経営やリスキリングに悩む大企業の方々を支援するサービスラインナップを、「Schoo for Business」起点に拡充していくことが短期戦略です。
今後のファイナンス(調達・投資)計画について
—— 今後のファイナンスや投資計画について教えてください。
森 まずSchooはソフトウェア産業の会社として、やはり人的資源への投資が大きなテーマです。具体的には、エンジニアやコンテンツの企画者、セールス、カスタマーサクセスなど、私たちの競争力を支える人員への体制整備が最優先となります。株主の皆様からお預かりした資金を、このような領域に充てることが最も重要だと考えています。
同時に、我々の現状はしっかりと利益を出しながら成長を目指す段階です。規律ある投資を行い、利益と売上の両方で高い成長率を維持するバランスを大切にしています。
—— 協業やアライアンスについて、どのようにお考えでしょうか?
森 広い意味でのHR(人材)関連が中心です。私たちは企業内教育をプロフェッショナル領域として取り組んでいますが、教育だけに留まらず、人材採用や定着、エンゲージメント向上といった課題も重要視しています。 そのため、HRテックの企業や場合によっては地方自治体などとの連携も視野に入れています。
—— 地方創生への取り組みについて伺います。考えられるハードルについて教えてください。
森 地方創生を推進する理由として、マクロとミクロの視点があります。マクロでは、日本が少子高齢化を迎える中で、一極集中に歯止めをかける必要があると考えています。日本の地域には多様な文化資産や資源があり、それを活かして分散型社会を構築することが国際競争力を高める鍵だと思っています。
ミクロでは、我々のようなオンライン教育サービスは地方にこそ大きな価値を提供できます。都市部では教育の選択肢が多い一方、地方には情報や選択肢が少ないのが現状です。Schooが地方の社会人に届けば、選択肢が増え、その結果として人生を変える可能性が生まれます。このように地方のニーズに応えることが私たちの使命だと考えています。
一方で、地方では古くからの人間関係や経済合理性を超えた文化が根付いており、信用を得るまでに時間がかかります。ただ、その時間をかけて信頼関係を築ければ、長期的なパートナーシップや新しいビジネスの創出が可能になると信じています。
—— 経営判断の軸について伺います。譲れないポイントや判断基準は何でしょうか?
森 ミッション・ビジョンに忠実であること、そして決めた戦略を徹底することが基本です。その上で、会社の「得意な戦い方」を理解することが重要だと考えています。我々は時間をかけてコツコツと取り組める組織です。短期的な利益を追うのではなく、長い目で見て社会的にも経済的にも価値のあるテーマを選び、結果が出るまで粘り強く取り組むことができます。
例えば、今では「リスキリング」や「人への投資」が注目されていますが、13年前の創業当初から我々は同じことを続けてきました。当時は儲からないと言われても、将来的な必要性を信じて取り組んだ結果、今の評価に繋がっています。このような長期視点で物事を選び取ることが私たちの軸です。
メディアユーザーへ一言
—— メディアユーザーに向けて一言お願いできますか?
森 我々の会社では「正しいこと」に重きを置いています。ここで言う「正しい」とは、単に社会的に正しいというだけではなく、長期的に見て経済的に正しいことも含みます。社会性と経済性の両方が交わる地点に、時間という資産を徹底的に投資し、長くやり抜くことが我々のチームスタイルです。そのため、今後も我々が設定するテーマは、一見面倒くさそうで、時間がかかるけれども、いつか成功する可能性があるものを選んでいきます。
長く応援していただくことで、私たちも大きな成果を返すことができると信じています。このような戦略を今後もブレずに続けていくつもりです。ぜひ、そのような視点で見ていただけると嬉しいです。
- 氏名
- 森 健志郎(もり けんしろう)
- 社名
- 株式会社Schoo
- 役職
- 代表取締役社長CEO