この記事は2025年5月16日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:日銀の利上げは失敗であった」を一部編集し、転載したものです。

シンカー
フランス政治:2027年大統領選に向けて
フランスでは予算審議は常に無風(ノーイベント)であった。大統領が与党として過半数を占めていたため、政府が提出する予算案は国民議会で問題なく採択されてきた。2022年以降、予算法の可決は困難になり、2025年度予算案に至ってはバルニエ政権の崩壊と新たな連立政権の樹立のきっかけに繋がった。
2025年度予算案は、予算が政局にどのような影響を与えるかを示す最初の例であった。今後の予算に関する議論も同様の影響を及ぼす可能性があり、政府が転覆し解散に繋がるリスクとなる。 2027年5月か6月の実施が予想される大統領選までの間(マクロン大統領が辞任するという極めて可能性の低い状況を除き)、2026年度と2027年度の予算など、いくつかの要素がフランスの政治を揺るがす可能性がある。
2025年は、7月以降、マクロン大統領は再び国民議会を解散する可能性がある。もし解散を決断すれば、9月初旬に新たな総選挙が実施される可能性が高い。7月中旬までに、バイル首相は政府の予算方針を発表する予定である。秋までに、年金改革委員会は結論をまとめる予定である。10月には、政府は予算案と社会保障法案を提出する予定である。
これには年金改革に関する結論も含まれる可能性がある。そして、12月までに、国民議会は予算案を採決する必要がある。現在の状況は異様なほど落ち着いているものの、これは主に、政府が重要な政治決定に直面していないことが理由である。現在議論されている議題はまだ結論が出ておらず、政府には生き残るための時間的余裕が与えられている。
2026年度予算は強硬路線となるものの、その前に、選挙法の改正と年金改革が政治的な変動を引き起こす可能性がある。とはいえ、フランス政治における唯一の、あるいは最大の議題は予算である。年金改革と投票制度はある程度重要になる可能性はあるが、結局のところは、政府の唯一の必須任務は予算を可決することである。次の大統領選挙までの2回の予算採決は非常に複雑になる可能性が高く、解散、国民投票、政情不安といった政治的変動が絡むリスクとなる。(松本賢)
日銀の利上げは失敗であった
■ 昨年3月のマイナス金利政策の解除、7月の利上げ、そして今年1月の追加利上げにつながった日銀の金融政策は失敗であった。利上げが足かせとなって株式市場は停滞を続け、住宅ローンの先行きの金利上昇の懸念も大きくなり、消費活動が鈍り、2024年の実質消費は減少してしまった。先行きの金利上昇を懸念しているのは中小企業も同じだ。中小企業の賃上げや設備投資の動きに水を差してしまった。中小企業の賃上げ率や設備投資の伸び率には減速感が出てきている。結果として、2024年の実質GDP成長率は+0.2%とほぼゼロ成長となり、2025年1-3月期も前期比マイナス成長となってしまった。利上げが内需の回復を抑制してしまったことで、1-3月期の実質民間内需はコロナ前の2019年平均とまだほぼ同水準(+0.2%)で弱いままだ。内需の拡大によって、トランプ関税による外需の停滞の下押しを軽減する余地がなくなってしまった。4-6月期の実質GDPも2四半期連続の前期比マイナス成長となり、テクニカル・リセッションとみなされるリスクもある。
■ 4月の金融政策決定会合で政府は、「米国との協議状況や、関税措置による輸出産業、関連する中小企業や地域経済、さらには国民生活への影響をよく注視し、資金繰り支援など必要な支援に万全を期する」と、経済政策の方針を明らかにしている。政府の経済政策の方針と整合的な金融政策運営を求められている日銀が、年内の利上げによって企業の資金繰りを困難にし、内需に下押し圧力をかけてきた間違いを続けることはできなくなったとみられる。日銀が利上げを最速で再開できるのは、11月に公表される7-9月期のGDPが底割れなかったことを確認した後、展望レポートで経済・物価のシナリオを確認する来年1月になるだろう。
1-3月期の実質GDPは前期比-0.2%(年率-0.7%)と、4四半期ぶりのマイナスとなった。実態は見かけ上の結果より悪い。実質輸出が-0.6%となったが、トランプ関税前の駆け込み需要があったにも関わらず弱く、グローバルな景気減速の影響が出ている。実質消費も同0.0%となったが、基礎統計であるサービス産業動態統計のサンプルなどの見直しによってテクニカルに押し上げられているようだ。需要が弱いことを反映して、実質民間在庫の実質GDP前期比寄与度は+0.3%となり、在庫の積み上がりがみられる。トランプ関税と弱い内需によって、4-6月期の成長率の落ち込みが懸念されている。在庫の取り崩しもあり、4-6月期の実質GDPは引き続き弱くなる可能性が高い。2四半期連続の前期比マイナス成長となり、テクニカル・リセッションとみなされるリスクもある。
本来であれば、3月末に2025年度の政府予算が国会を通過した後、政府が経済対策の補正予算をすぐに組み、減税や給付金などで家計を支え、需要の底割れとマイナス成長を回避するはずであった。しかし、消費税率引き下げの議論につながることを懸念し、大胆な対策が打てず、予備費による対応しかできなかった。大規模な経済対策で需要の回復を促進するのは、7月の参議院選挙後、秋の臨時国会まで遅れそうだ。どれほどの規模のものとなるのか、減税を含んだ積極財政的なものとなるのかは、参議院選挙の結果で国民の支持を多く集めた政党の意見に左右されることになる。現在のところ、自民党は消費減税に消極的であるが、消費減税は国民の支持を得ているとみられ、7月の参議院選挙で自公政権は消費減税を主張する野党に対して敗北するリスクが高い。
昨年3月のマイナス金利政策の解除と、7月の利上げ、そして今年1月の追加利上げにつながった日銀の金融政策は失敗であった。利上げが足かせとなって株式市場は停滞を続け、住宅ローンの先行きの金利上昇の懸念も大きくなり、消費活動が鈍り、2024年の実質消費は前年比-0.0%と減少してしまった。先行きの金利上昇を懸念しているのは中小企業も同じだ。中小企業の賃上げや設備投資の動きに水を差してしまった。中小企業の賃上げ率や設備投資の伸び率には減速感が出てきている。結果として、2024年の実質GDP成長率は+0.2%とほぼゼロ成長となり、2025年1-3月期も前期比マイナス成長となってしまった。利上げが内需の回復を抑制してしまったことで、1-3月期の実質民間内需はコロナ前の2019年平均とまだほぼ同水準(+0.2%)で弱いままだ。内需の拡大がなされていないことで、トランプ関税による外需の停滞の下押しを軽減する余地がなくなってしまった。
コロナ前の水準を下回る内需の弱さを軽視して、経済の「正常化」より金融政策の「正常化」を優先する日銀の前のめりな姿勢は問題がある。その前のめりな姿勢は、利上げを正当化する経済・物価の見方にも反映されている。日銀は、需給ギャップが小さいにもかかわらず、強い物価上昇が続いて利上げの必要がある理由として、人手不足が深刻で、設備が稼働できないことを指摘している。人手不足によって稼働できない資本の余剰があって、需給ギャップは小さく推計されるが、強い物価上昇が続くという解釈だ。日銀が正しいとすれば、人手不足の中、物価を安定させるためには、人手に頼らない資本に更新するため、投資を促進しなければならない。更に、資本と労働の代替性を強くするには、名目GDPが持続的に拡大する企業の予見可能性を高めなければならない。その予見可能性を高めるためには、政策当局が緩和的なポリシーミックスを続けるコミットメントが必要になる。資本と労働の代替性が弱いから、人手不足によって物価が強く上昇するため、利上げをするというのは真逆の対応だ。日銀は利下げの理由で利上げを正当化していることになる。結果として、実質賃金を押し上げる労働生産性の改善に寄与する非製造業や中小企業の投資活動を減速させてしまった。4-6月期の実質設備投資は前期比+1.2%とまだ堅調であるが、製造業も含め、先行き減速が見込まれる。
日銀には金融政策の手段の独立性がある。一方、日銀法では、「日本銀行は、その行う通貨及び金融の調節が経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」とされ、独立性によって日銀の論理だけで金融政策が運営され、国民の意見が届かなくなることがないようにされている。4月の金融政策決定会合で政府は、「米国との協議状況や、関税措置による輸出産業、関連する中小企業や地域経済、さらには国民生活への影響をよく注視し、資金繰り支援など必要な支援に万全を期する」と、経済政策の方針を明らかにしている。政府の経済政策の方針と整合的な金融政策運営を求められている日銀が、年内の利上げによって企業の資金繰りを困難にし、内需に下押し圧力をかけてきた間違いを続けることはできなくなったとみられる。日銀が利上げを最速で再開できるのは、11月に公表される7-9月期のGDPが底割れなかったことを確認した後、展望レポートで経済・物価のシナリオを確認する来年1月になるだろう。
図1:経済見通し


図2:フランス2027年までの政治イベント

本レポートは、投資判断の参考となる情報提供のみを目的として作成されたものであり、個々の投資家の特定の投資目的、または要望を考慮しているものではありません。また、本レポート中の記載内容、数値、図表等は、本レポート作成時点のものであり、事前の連絡なしに変更される場合があります。なお、本レポートに記載されたいかなる内容も、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。投資に関する最終決定は投資家ご自身の判断と責任でなされるようお願いします。