親子上場の解消を目的とするTOB(株式公開買い付け)が勢いを増している。前年は年間11件だったが、今年は5月半ば時点で8件を数え、過去10年で最多ペースで推移中。各社の背中を押すのがコーポレートガバナンス(企業統治)強化や市場改革の流れだ。
TOBで親子上場解消、5月だけで4件
TOBによる親子上場解消の発表は大型連休明け後の5月だけで4件。NTTはNTTデータグループ、三菱商事は三菱食品、清水建設は日本道路、VTホールディングスはトラストを完全子会社化し、非公開化することになった。
NTTはTOBに最大2兆3700億円を投じる。これ以前、同社は2020年にNTTドコモを4兆円超、2018年にNTT都市開発を約1800億円で完全子会社化しており、今回、グループ内再編が一段落する形だ。
清水建設は2022年に持ち分法適法関連会社だった日本道路をTOBで子会社化していたが、再度のTOBで完全子会社化し、親子上場を解消する。
1~3月段階では、日本製鉄(対象企業・山陽特殊製鋼)、イオン(同・イオンディライト)など4件の親子上場解消を目的とするTOBがあり、5月分と合わせて8件となった。
このペースでいけば、前年の年間11件を上回り、3年連続で2ケタ(10件)台をキープするのはもちろん、2020年、23年の各15件を超え、これまでの最多圏をうかがう展開が見込まれる。

TOB以外に、株式交換や他社への売却も
TOBを活用する以外に、株式交換による完全子会社化や他社への売却を含めると、今年に入って親子上場解消の案件はすでに10件を超える。
イオンは別の上場子会社であるイオンモールを株式交換の手続きで完全子会社化。一方、JTは上場子会社の鳥居薬品を塩野義製薬に、神戸製鋼所も同じく上場子会社の日本高周波鋼業を大同特殊鋼に売却することを決めた。
東証に加え、物言う株主のプレッシャー
親子上場をめぐっては資本の効率的な活用を妨げるうえ、親会社と子会社の間で利益相反が生じやすく、子会社の少数株主の利益が損なわれるリスクがあることなどが国際的にも批判を招く中で、解消の動きが緩やかに続いていた。野村資本市場研究所によると、親子上場の数は2024年3月末で190社と30年ぶりに200社を下回った。
上場企業に対しては近年、東京証券取引所からのプレッシャーも高まっている。東証は2023年3月、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を要請。同年12月には親子関係や持ち分法適用関係にある企業に対して少数株主保護やグループ経営に関する考え方などの開示を求めた。
親子上場については物言う株主(アクティビスト)に口実を与える場合が少なくない。例えば、日本製鉄は現在4社の上場子会社を抱えるが、このうち大阪製鉄、日鉄ソリューションズが標的になっており、親会社として静観していられない情勢だ。
物言う株主として知られる国内投資ファンドのストラテジックキャピタル(東京都渋谷区)は大阪製鉄に対し、2008年以降、解散価値のPBR(株価純資産倍率)1倍を一度も超えておらず、日本製鉄の上場子会社であることから支配株主と一般株主との間の利益相反リスクが生じていると指摘。6月末の株主総会に株主価値向上・非公開化委員会設置などを求める株主提案を行う予定としている。
日鉄ソリューションズに対しては、シンガポール投資ファンドの3Dインベストメント・パートナーズが日本製鉄との間で独立性が確保されておらず、企業価値最大化のための経営がなされていないと批判している。
上場子会社以外で、日本製鉄は2023年に持ち分法適用関連会社の日鉄物流を子会社化したうえで、非公開化(日鉄80%、三井物産20%出資)している。