この記事は2025年5月30日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:年末までは緩和的なポリシーミックス」を一部編集し、転載したものです。

アンダースロー
(画像=years/stock.adobe.com)

■ 1-3月期の実質民間内需は、コロナ前の2019年平均とまだ同水準であり、内需は弱い。10-12月期の財政収支(GDP比%)は黒字となり、国民生活が困窮する中でも、石破政権の財政運営は緊縮だ。当然ながら、日本経済の成長は外需に依存する形となってしまっている。成長の外需依存は、日本経済の長年の問題であり、トランプ関税の高い税率を引き出してしまった原因となった。内需の低迷で、1-3月期の実質GDPは前期比年率-0.7%と弱かった。内需の低迷の継続とトランプ関税に対する警戒感による企業活動の鈍化で、4-6月期も2四半期連続のマイナス成長と、テクニカル・リセッションとみなされるリスクが生まれている。

■ 本来であれば、3月末に2025年度の政府予算が国会を通過した後、政府が経済対策の補正予算をすぐに組み、減税や給付金などで家計を支え、需要の底割れとマイナス成長を回避するはずであった。しかし、消費税率引き下げの議論につながることを懸念し、大胆な対策が打てず、予備費による対応しかできなかった。自民党は消費減税に消極的であるが、消費減税は国民の支持を得ているとみられ、7月の参議院選挙で自公政権は消費減税を主張する野党に対して敗北するリスクが高い。選挙の結果によって、政府の財政政策の方針は、緊縮から積極に変化していくとみられる。

■ 昨年3月のマイナス金利政策の解除と、7月の利上げ、そして今年1月の追加利上げにつながった日銀の金融政策は失敗であった。利上げが内需の回復を抑制してしまったことで、トランプ関税による外需の停滞の下押しを軽減する余地がなくなってしまった。秋の臨時国会では、政府が大規模な経済対策によって、家計への支援の拡充と、トランプ関税による企業活動への下押しを資金繰り対策を含めて緩和しようとすることは、ほぼ確実だろう。政府の経済政策の方針と整合的な金融政策運営を求められている日銀が、年内の利上げによって企業の資金繰りを困難にし、内需に下押し圧力をかけてきた間違いを続けることはできなくなったとみられる。年末までは、財政政策・金融政策の緩和的なポリシーミックスが継続するだろう。

4月の鉱工業生産指数は前月比-0.9%と、3か月ぶりに低下した。トランプ関税までの駆け込輸出・生産の反動が出たとみられる。生産は2・3月に同+2.3%・+0.2%となっていた。4月の実質輸出は同-1.3%と2か月連続で減少した。2月の同+7.7%という駆け込み輸出の反動が続いている。駆け込み輸出とその後の反動の動きが顕著なのが、自動車関連と資本財だ。4月のトランプ関税の動きの後、生産者の生産計画の動きが注目される。7月上旬まで相互関係が猶予されたことで、まだ駆け込みの輸出・生産の動きは残っているようだ。経済産業省の生産予測指数では、5月が同+5.2%(誤差調整後)とまだ堅調だ。しかし、6月は同-3.4%と弱い。生産者がトランプ関税に警戒感を持ち始めたことを示す。

1-3月期の実質民間内需は、コロナ前の2019年平均とまだ同水準であり、内需は弱い。10-12月期の財政収支(GDP比%)は黒字となり、国民生活が困窮する中でも、石破政権の財政運営は緊縮だ。当然ながら、日本経済の成長は外需に依存する形となってしまっている。成長の外需依存は、日本経済の長年の問題であり、トランプ関税の高い税率を引き出してしまった原因となった。内需の低迷で、1-3月期の実質GDPは前期比年率-0.7%と弱かった。内需の低迷の継続とトランプ関税に対する警戒感による企業活動の鈍化で、4-6月期も2四半期連続のマイナス成長と、テクニカル・リセッションとみなされるリスクが生まれている。前倒しの輸出・生産が続いていることは、7-9月期の反動が懸念される。7-9月期の実質GDPも弱く、潜在成長率を下回るものとなる可能性が高い。3・4・5月の東京都区部コアコア消費者物価指数の前月比は+0.4%・+0.4%・+0.4%と、年度末・初めの価格改定の動きで強かった。5月の前年同月比は+3.3%となった。しかし、内需の低迷を反映する成長率の鈍化で、年後半から来年前半の物価上昇率には減速の力が働いてくるだろう。来年のこの時期には、強かった今年の結果の反動もあり、コアコア消費者物価指数の前年同月比は+1%程度まで減速しているとみられる。

本来であれば、3月末に2025年度の政府予算が国会を通過した後、政府が経済対策の補正予算をすぐに組み、減税や給付金などで家計を支え、需要の底割れとマイナス成長を回避するはずであった。しかし、消費税率引き下げの議論につながることを懸念し、大胆な対策が打てず、予備費による対応しかできなかった。自民党は消費減税に消極的であるが、消費減税は国民の支持を得ているとみられ、7月の参議院選挙で自公政権は消費減税を主張する野党に対して敗北するリスクが高い。選挙の結果によって、政府の財政政策の方針は、緊縮から積極に変化していくとみられる。

昨年3月のマイナス金利政策の解除と、7月の利上げ、そして今年1月の追加利上げにつながった日銀の金融政策は失敗であった。利上げが足かせとなって株式市場は停滞を続け、住宅ローンの先行きの金利上昇の懸念も大きくなり、消費活動が鈍り、2024年の実質消費は前年比-0.0%と減少してしまった。利上げが内需の回復を抑制してしまったことで、トランプ関税による外需の停滞の下押しを軽減する余地がなくなってしまった。秋の臨時国会では、政府が大規模な経済対策によって、家計への支援の拡充と、トランプ関税による企業活動への下押しを資金繰り対策を含めて緩和しようとすることは、ほぼ確実だろう。政府の経済政策の方針と整合的な金融政策運営を求められている日銀が、年内の利上げによって企業の資金繰りを困難にし、内需に下押し圧力をかけてきた間違いを続けることはできなくなったとみられる。年末までは、財政政策・金融政策の緩和的なポリシーミックスが継続するだろう。日銀が利上げを最速で再開できるのは、11月に公表される7-9月期のGDPが底割れなかったことを確認した後、展望レポートで経済・物価のシナリオを確認する来年1月になるだろう。


会田 卓司
クレディ・アグリコル証券 東京支店 チーフエコノミスト
松本 賢
クレディ・アグリコル証券 マクロストラテジスト

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