本記事は、大岩俊之氏の著書『とにかく「伝わる」伝え方図鑑』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

コミュニケーション
(画像=gstockstudio / stock.adobe.com)

上手に断るにはいったん受け止める

【具体例】
そのセミナー面白そうですね。
ただ、その日は先約があり、参加できずすみません。

イエスバット法
相手の意見をいったん「そうですね(yes)」と受け入れてから、「しかし(but)」と自分の意見(反論)を伝える、会話テクニックのこと。

イエスバット法は、営業パーソンの商談や店舗の販売員の接客など、活躍する機会が多いスキルですが、実は、相手の心証を悪くせず、上手に断るときにも使えます。

このテクニックの一番のポイントは、相手の意見を否定せず、まず受け止めることです。

いったん受け止めた後、自分の意見(断る理由)を述べるので、相手も悪い気持ちにはなりません。

アサーティブを使うのが難しいと感じる人でも、イエスバット法であれば使いやすいのではないでしょうか。

注意しなければならないのは、イエスバット法は断ることが前提ですので、アサーティブのように代替案を出すことができないことです。

例えば、余裕がないときに上司から仕事を依頼された場合、イエスバット法を使うと、「その仕事いいですねー。ぜひやりたいのですが、今抱えている仕事で手一杯です」となってしまいます。こんな対応をされては、上司もイラっとするでしょう。そして、何度も使っていると、おそらく評価が下がるでしょう。

したがって、使う場面としては、「何かに誘われて断るとき」が一番使いやすいのではないでしょうか。「飲み会に誘われたが都合が悪いとき」「イベント(キャンプ、バーベキュー、スポーツ観戦など)に誘われたが都合が悪いとき」などです。

人を誘うにはこじつけでも理由があるといい

【具体例】
とにかく会わせたい人がいるので、来月のイベントに来てくれませんか?

カチッサー効果
人に何かお願いごとをするとき、何かしらの理由をそえることで、相手に承諾してもらいやすくなる心理効果のこと。

カチッサー効果は、テープレコーダーの再生ボタンを押したときの「カチッ」という音と、その後に流れる砂嵐のような「サー」という音が由来とされています。「外部からの働きかけによって無意識に反応してしまうという心理的な現象」を指します。「○○なので」とひと言理由をそえるだけで、お願いごとが正当化されてしまうというものです。そえる理由の内容は、何でもいいのです。

人を何かに誘う場合、何も考えずに勢いで誘ってしまった方が上手くいった経験はないでしょうか。私はセミナーやイベントを開催することが多いので、人を誘うときにはいろいろと理由を考えてしまいます。しかし、理由を考えて、考えて、人を誘った場合と、何も考えずに勢いで人を誘った場合とでは、大きな差はありませんでした。

カチッサー効果にあるように、大切なのは、理由をそえることです。繰り返しますが、その内容は、何でもいいのです。

例えば、セミナーやイベントに誘うときは、「〇〇さんにすごく合う内容なので」「久しぶりにお会いしたいので」「〇〇さんが来てくれるとみんなが喜ぶので」「〇〇さんがいてくれると雰囲気がよくなるので」などの理由をそえています。実を言うと、本当の理由のときもあれば、そうでもない理由のときもあります。

人を誘うときは、こじつけでもいいので、理由をそえましょう。

親密度合いによって話す距離を変える

【具体例】
本日は、商談よろしくお願いします(社会的距離を保つ)
納期の件について、お伝えさせてください。

パーソナルスペース
他人に侵入されると不快に感じる空間のこと。

他人に近づかれると不快に感じる空間があります。この空間のことを、パーソナルスペースと言います。アメリカの文化人類学者エドワード・T・ホールが提唱した考え方です。パーソナルエリア、対人距離とも呼ばれています。

この距離の取り方によって、人を不快にすることもあれば、人に安心を与えることもあります。まだ関係が浅い人に、近づきすぎると嫌がられます。逆に、関係が深い相手であれば、距離が近い方が相手に伝わりやすくなります。お客様との打ち合わせの場にも、適正距離があるということです。

4つのゾーンを紹介します。

  • 公衆距離 360cm以上
    複数の相手が見渡せる空間。講演会など社会的に立場がある人との距離。
  • 社会距離 120~360cm
    相手に手は届かないが、容易に会話ができる空間。商談など知らない人同士の距離。
  • 個体距離 45~120cm
    相手の表情が読み取れる空間。相手を捕まえられる距離。
  • 密接距離 45cm以下
    ごく親しい人に許される空間。抱きしめられる距離。

相手の不満を先に解決して次につなげる

【具体例】
正直に伝えていただき、ありがとうございます。
早速、改善を図りたいと思います。

グッドマンの第一法則
企業に不満を伝えてくる顧客のうち、対応に満足した顧客の再購入決定率は、不満を申し立てなかった顧客に比べて高くなること。

セミナーを開催したり、企業研修を行ったりすると、アンケートでごく一部ですが、ご指摘をいただくことがあります。

例えば、オンラインとリアル会場とで同時開催をしたところ、オンライン参加の方から「もう少しリアルの方とのやり取りが欲しかった」とのご指摘があったとします。すると、「確かに今日はリアル会場を映す機材がなくて、オンラインとリアル会場とが別々になっていたな」と自分自身で反省ができます。とても参考になる意見です。

ある資格試験対策のeラーニング講座を提供しているのですが、始めて間もない頃、「誤字が多い」「専門用語の読み方が違う」など、数人から厳しいご指摘をいただいたことがありました。最初はかなり気分が沈みました。提供する側としてはお恥ずかしい限りですが、おかげさまでご指摘いただいた内容を反映させることで、精度の高い講座に変えることができました。その後、不満を伝えてくれたお客様は、他の講座にも申し込みをされました。中には、自分が受験した試験の内容をメールで教えてくれる人もいました。

一般に、不満を伝えてくれないお客様がほとんどで、伝えてくれるお客様はごく一部です。そのお客様の不満を解決することで、ファンになってくれる人も出てくるのです。

もちろん、中には、ただ不平不満をレビューに書き込むだけの人もいます。でも、多くの人は、実際に自分が体験してみて、感じた内容を伝えてくれているのです。

『とにかく「伝わる」伝え方図鑑』より引用
大岩俊之(おおいわ・としゆき)
セミナー講師/ロールジョブ代表
名古屋大学大学院教育発達科学研究科卒。大学で認知科学、認知心理学、大学院では、教育学、学習心理学を学ぶ。現在は、消費者心理学を研究中。
電子部品メーカー、半導体商社、パソコンメーカーなどで、法人営業を経験。売り込んだことがないのに、どの会社でも、必ず前年比150%以上の営業数字を達成。200人中1位の売上実績を持つ。
未経験でセミナー講師として独立してみたものの、講師としてのレベルが低く、参加者や主催企業からの厳しいフィードバックに耐えきれなくなり、講師の道をあきらめかける。産業カウンセリング、キャリアカウンセリング、NLP、コーチングなどを学び、人の心理を考えた「伝え方」を研究、実践したことで、営業、コミュニケーション、リーダーシップ、プレゼンなどの「呼ばれる講師」として、年間100日以上登壇する講師となることができた。これまで、13,000人以上に指導してきた実績を持つ。伝え方プレゼンスクールを主催し、経営者、エンジニア、セミナー講師などに指導。コンサル会社、新聞社などの講師にも、講師力アップ養成講座を行っている。
著書に、『読書が「知識」と「行動」に変わる本』(明日香出版社)、『1年目からできる! セミナー講師超入門』(実務教育出版)、『売れる言いかえ大全』(フォレスト出版)など合計14冊がある。

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『とにかく「伝わる」伝え方図鑑』
  1. 上手に断るにはいったん受け止めること
  2. 真ん中を選んでもらうための挟み込み心理テクニック
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