本記事は、大岩俊之氏の著書『とにかく「伝わる」伝え方図鑑』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

人は1日経ったら忘れる
【具体例】
重要な案件は、何度も見直す。
- エビングハウスの忘却曲線
- 人間の長期記憶について研究した結果、提唱された考え方。20分後には42%忘れる/1時間後には56%忘れる/1日後には66%忘れる/1週間後には75%忘れる
エビングハウスの忘却曲線によると、人は1日経過すると66%を忘れてしまいます。部下が上司に何かを話しても、3分の2は忘れているということです。
相談した内容が大切なことであれば、そんなに簡単に忘れてしまうことはないかもしれませんが、上司も多忙です。部下が話したことのすべてを覚えているとは思わない方がいいでしょう。
しかし、エビングハウスの忘却曲線を踏まえると、復習することで記憶は定着するようになります。学習後すぐに1回目の復習を行い、さらに1週間後、1か月後と段階的に復習を繰り返すことが効果的です。
したがって、上司からの返信がない状況に対処するためには、繰り返すしかありません。忙しくて回答がもらえない上司には、何度も確認したり催促したりするのがベストです。
さすがに2回も3回も部下に言われれば、上司の頭にも残ります。
また、新卒で就職したばかりや、転職したばかりの場合、入社した会社で分からないことがたくさんあるでしょう。教わった内容も、1回読んだり聞いたりしただけでは、1日後には66%を忘れてしまいます。
これらを定着させるためにも、必ず定期的に復習を行いましょう。
伝えるのも覚えるのも、繰り返すことが一番です。
仕事の結果より見せ方にこだわる
【具体例】
(部下) 提出物だけはいつも早い。
(上司) 今回は成果が出ていないが、きちんとしている彼だから何とかなるだろう。
- ハロー効果
- ある対象を評価するとき、目立ちやすい特徴に引きずられて、他の特徴に対する評価が歪められてしまう効果。
ハロー効果の代表的な例として、有名大学を卒業していると頭がいいと思ってしまう、もしくは、仕事ができると思ってしまう、ということがあります。確かに、受験科目の範囲に限れば頭がいいのかもしれませんが、あるテーマの専門性や判断の速さなど、それ以外の評価項目があったとしても、人の印象は引きずられてしまうのです。また、有名大学卒であることと仕事ができることは別物のはずです。それにもかかわらず、どの大学を出たかで、仕事の評価が左右されてしまうこともあるのです。
あるテーマの研修でいつもやっていることなのですが、ビシッとスーツを着た男性と、猫背の私服の男性を見せ、「どちらが賢そうですか?」と聞きます。すると、ほとんどの人が前者の男性を選びます。見た目で選んでいるということです。その後に、前者は派遣社員、後者は超有名企業の部長という肩書きを入れると、今度は、後者の男性を選ぶようになります。それは、超有名企業の部長という肩書きに印象が左右されるからです。
このように、人にはハロー効果が起こるということは、私たちはそれを逆手に取るのが得策だということです。見せ方にこだわらない手はないでしょう。
仕事の結果も大切ですが、提出書類は必ず期限を守る、身だしなみをきちんとする、上司への報告は欠かさない、といった基本的なことを続けていると、上司からの印象は良くなります。相手がどう感じるかというのも非常に大切な要素なのです。
文字に残して「言った」「言わない」を防ぐ
【具体例】
(上司) N社にチラシを発注する件、やっておいてください。
(部下) 必ずメモを取る。
- ハイコンテクストとローコンテクスト
- コミュニケーションの中で、言葉以外の意味に重きを置くのがハイコンテクスト。言葉に重きを置くのがローコンテクスト。
日本は、ハイコンテクスト文化です。それも、世界の中でトップクラスです。今まで育ってきた環境を思い出せば分かると思いますが、言葉より「空気感」「目線」「表情」「雰囲気」などを重要視します。よく上司から言われるのが、「この場を見ていれば、何をするか分かるだろ!」といった言葉です。直接言葉で言われていないのに、分かる訳がないですよね。
欧米は、ローコンテクスト文化です。とにかく、直接言葉で言われたことしか信用しません。「雰囲気で感じ取れ!」と言っても無理があります。相手に伝えたいことがある場合や指示を出す場合には、言葉がすべてです。
日本人同士のやり取りでは、ハイコンテクスト文化のため、「言った」「言わない」の問題に発展しやすい傾向があります。部下が会社で自分の身を守るためには、なんとなくの雰囲気ではなく、言葉でやり取りをする必要があります。
そしてそれは、なるべく文字に残しましょう。口頭だけではなく合わせてメールもした方が、確実にメッセージが残っていいでしょう。メールができない状況――例えば、電話でのやり取りなど――であれば、必ずメモを取って残してください。
「言った」「言わない」の問題を防ぐためには、文字に残すことが基本です。人とのやり取りでは、立場の弱い者が損をします。自分の身は自分で守りましょう。
忙しいときは焦って判断しない
【具体例】
✖️ 値段は、お客様のために即決しよう。
◯ 面倒だが、値段は上司に確認しよう。
- ファスト思考とスロー思考
- ファスト思考(システム1)とは、直感や感情的な連想に基づく判断のこと。スロー思考(システム2)とは、注意深く合理的な思考に基づく判断のこと。
みなさんがコンビニでお茶を買うとき、メーカー名や生産地、成分などを細かく確認して選ぶでしょうか。おそらく、確認するのは値段くらいでしょう。特に好きな銘柄がなければ、直感的に選ぶのではないでしょうか。これがファスト思考です。
一方、マンションを買うときであれば、1軒目に訪問した不動産屋で即決する可能性は低いでしょう。おそらく、何軒かマンションを見に行って、立地、内装、外見などを確認するはずです。駅まで○○分と書いてあっても、実際に歩いて確かめたりします。これがスロー思考です。マンションを買う場合は、長い間、その場所に住み続けることになります。値段も、数千万円です。即決して失敗したら、大変なことになります。
しかし、体の調子が悪いときや忙しいとき、イライラしているときや寝不足のときなどは、スロー思考で考えなければならない重要な案件でも、ファスト思考で考えてしまうことがあります。
重要な案件とは、営業では見積書の値段、値引き額、納期などです。営業以外では書類の決裁、人の採用、他人の評価などです。つい焦って、あるいは面倒になって、ファスト思考に傾いてしまい、自分で早く判断を下したくなることもあると思います。しかし、重要な案件は、必ず他人の目を通して判断すべきです。そして、その見張り役を担うのが上司です。そのために上司が存在しているということを、忘れないでください。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科卒。大学で認知科学、認知心理学、大学院では、教育学、学習心理学を学ぶ。現在は、消費者心理学を研究中。
電子部品メーカー、半導体商社、パソコンメーカーなどで、法人営業を経験。売り込んだことがないのに、どの会社でも、必ず前年比150%以上の営業数字を達成。200人中1位の売上実績を持つ。
未経験でセミナー講師として独立してみたものの、講師としてのレベルが低く、参加者や主催企業からの厳しいフィードバックに耐えきれなくなり、講師の道をあきらめかける。産業カウンセリング、キャリアカウンセリング、NLP、コーチングなどを学び、人の心理を考えた「伝え方」を研究、実践したことで、営業、コミュニケーション、リーダーシップ、プレゼンなどの「呼ばれる講師」として、年間100日以上登壇する講師となることができた。これまで、13,000人以上に指導してきた実績を持つ。伝え方プレゼンスクールを主催し、経営者、エンジニア、セミナー講師などに指導。コンサル会社、新聞社などの講師にも、講師力アップ養成講座を行っている。
著書に、『読書が「知識」と「行動」に変わる本』(明日香出版社)、『1年目からできる! セミナー講師超入門』(実務教育出版)、『売れる言いかえ大全』(フォレスト出版)など合計14冊がある。
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