本記事は、大岩俊之氏の著書『とにかく「伝わる」伝え方図鑑』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

コミュニケーション
(画像=deagreez / stock.adobe.com)

指摘は「私」を主語にして気づかせる

【具体例】
✖️ (あなたは)何でいつも期限を守らないの?
(わたしは)人に迷惑がかかるから期限を守った方がいいと思うよ。

Iメッセージ
「私」を主語にして意見を主張する方法。

部下を叱るときや仕事のフィードバックをするときなど、つい感情的になって怒ってしまっていませんでしょうか。感情的になってしまうと、相手との関係を修復するのがとても難しくなります。

一方、人によっては部下にどうやって指摘をすればいいか分からず、伝えられなくなっている人もいます。

相手に嫌な印象を与えず、上手に伝えるには、Iメッセージを使うといいでしょう。

Iメッセージとは、「私」を主語にして伝える方法です。「わたしは〇〇だと思っています」という感じです。

「私」を主語にすると、言葉が柔らかくなります。あくまで自分の意思や考えを主張することにとどまるため、相手を尊重したコミュニケーションが可能になります。

これに対して、「あなた」を主語にした伝え方は、Youメッセージです。

「あなた」を主語にするため、言葉がきつくなります。部下の言動や行動にイライラしているときはたいてい、感情的になってYouメッセージを使っているはずです。

Youメッセージは、相手に決めつけられたと感じさせる可能性があります。「あなたは優先順位を考える力が足りません」「あなたの仕事ぶりは、チームの足を引っ張っています」などがYouメッセージに該当します。

今の若者は物にはつられない

【具体例】
・将来的に、どんな部署で仕事がやりたいの?
・どのようなスタンスで仕事をしたい?

外発的動機付けと内発的動機付け
外発的動機付けとは、外部からもたらされる要因によって、行動への意欲が高まる状態。内発的動機付けとは、「やりたい」という内側から湧き上がる興味・関心。

今までは、「この仕事が上手くいけば、役職が上がる、給料が上がる、一時金がもらえる」もしくは「この業務をクリアしないと、評価が下がる」などと、外部からの要因によって行動への意欲が高まる動機付けが利用されていました。

働くことで、車を買い替えたり、一軒家を購入したりするなど、物を手に入れることも、働くための動機付けでした。

実力主義の営業であれば、成果を上げれば上げた分だけ給料やボーナスが上がる、というものです。販売員であれば、販売した分が評価の対象になるというものです。

しかし、最近は、実力主義の営業ではなく、一律給料制の働き方が増えています。家電量販店の店員でも、売上は一切関係なく、接客が重要視されるケースも増えてきました。

特に、今の若者は、物があふれた状態で育ってきているため、物欲がありません。スマホがあれば、十分なのかもしれません。

したがって、部下の意欲を高めるためには、心の奥底から「やりたい!」という思いが湧き上がってくる内発的動機付けが重要になっています。部下が何をしたら「やる気」が湧き起こってくるのか、見極める必要があるのです。

とはいえこれは、外発的動機付けで働いてきた上司にとっては、なかなか難しい問題です。部下のやりがいを探していきましょう。

成長は職場環境よりもさらに大切

【具体例】
✖️ 労働条件、労働環境、給与など
◯ 達成感、やりがい、自己成長など

動機付け要因と衛生要因
満足を高める要因が、動機付け要因。不満足につながる要因が、衛生要因。

動機付け要因には、「仕事そのもの」「達成感」「やりがい」「承認」「自己成長」などがあり、これらが満たされると満足感が上がるというものです。衛生要因には、「会社の方針」「労働条件」「労働環境」「給与」などがあり、満たされても満足感を得にくいものの、満たされないと不満が増えるというものです。

部下は「給与を上げてほしい」「残業をなくしてほしい」「休みを増やしてほしい」などと訴えますが、これらを変えるのは、会社の経営者でなければ難しいでしょう。しかも、給与を2倍にしたからといって、2倍働く訳ではありません。これらをすべて満たしても、部下の満足度は上がらないのです。

上司にできることは、動機付け要因を高めることです。

具体的には、部下を適材適所に配置し、部下が「達成感」を得られるような仕事を任せ、「仕事そのもの」に「やりがい」を持たせることです。達成感はやりがいに大きく直結します。さらには、部下を「承認」してあげることも忘れてはいけません。それには、部下に対して「上司の意思をきちんと伝える」「感謝の気持ちを伝える」ことです。

部下の意欲を高めるためには、内発的動機付けが重要です。部下にとって心から「やりたい」という思いが湧き上がってくるように、仕向ける必要があるのです。

ほんの少しの壁がやる気にさせる

【具体例】
✖️ 前年比150%を目指す。
◯ 前年比110%を目指す。

ロミオとジュリエット効果
障害があった方が、逆にその障害を乗り越えようとする気持ちが高まる心理効果のこと。

人によって、大きな目標を立てた方がやる気が出るという人と、無理な目標は立てたくないという人がいます。私は、後者です。

成功している人が書いた自己啓発本などではよく、目標を立て、その目標への取り組みを1年ごと、1か月ごと、1日ごとに細分化していけば、目標は達成できるとあります。

しかし、このようなやり方が合うのは、ごく一部の人だけです。全員がこの方法で上手くいく訳ではありません。

とはいえ、全く目標がないと向かっていく方向が定められず、ビジネスにしろプライベートにしろ、何も結果が出ないこともあります。小さくてもいいので、何らかの目標があった方が、意識ができるようになるのも事実です。

そんなときに立てる目標は、自分にとって、ほんの少し壁を乗り越えるだけで達成できるものがいいでしょう。例えば、いきなり税理士試験合格を目指すのではなく、まずは簿記3級から始め、2級、1級と進めていくことで、自信をつけていくという具合です。

上司が部下と目標を決めるときにも、この考え方が使えます。かなり頑張らないと達成できない目標では、部下が自信をなくしてしまうことも考えられます。かといって簡単に達成できる目標だと、努力をしなくなります。

部下にほんの少しの壁を作ってあげる意識がいいでしょう。

『とにかく「伝わる」伝え方図鑑』より引用
大岩俊之(おおいわ・としゆき)
セミナー講師/ロールジョブ代表
名古屋大学大学院教育発達科学研究科卒。大学で認知科学、認知心理学、大学院では、教育学、学習心理学を学ぶ。現在は、消費者心理学を研究中。
電子部品メーカー、半導体商社、パソコンメーカーなどで、法人営業を経験。売り込んだことがないのに、どの会社でも、必ず前年比150%以上の営業数字を達成。200人中1位の売上実績を持つ。
未経験でセミナー講師として独立してみたものの、講師としてのレベルが低く、参加者や主催企業からの厳しいフィードバックに耐えきれなくなり、講師の道をあきらめかける。産業カウンセリング、キャリアカウンセリング、NLP、コーチングなどを学び、人の心理を考えた「伝え方」を研究、実践したことで、営業、コミュニケーション、リーダーシップ、プレゼンなどの「呼ばれる講師」として、年間100日以上登壇する講師となることができた。これまで、13,000人以上に指導してきた実績を持つ。伝え方プレゼンスクールを主催し、経営者、エンジニア、セミナー講師などに指導。コンサル会社、新聞社などの講師にも、講師力アップ養成講座を行っている。
著書に、『読書が「知識」と「行動」に変わる本』(明日香出版社)、『1年目からできる! セミナー講師超入門』(実務教育出版)、『売れる言いかえ大全』(フォレスト出版)など合計14冊がある。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます。
ZUU online library
※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます。