本記事は、大岩俊之氏の著書『とにかく「伝わる」伝え方図鑑』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

7回情報に触れさせると効果あり
【具体例】
(自分)この商品の特徴は静かさです。いかがでしょうか?
(相手)まだ今日で2回目なのに、急に売り込まれても……
- セブンヒッツ理論
- 人は情報に3回接することによってその対象を認知し、7回接することによって商品を手に取るようになるという理論。
単純接触効果に似た理論ですが、単純接触効果では、会えば会うほど関係が深まるというだけで、何回会うことが必要なのかについては、触れていませんでした。
では、何回会えば効果があるのでしょうか。それは、このセブンヒッツ理論で具体的にされています。理論の名称の通り、7回会うことでお客様は商品を手に取るようになるというのです。さまざまな状況があり、必ずしも7回とは限りませんが、営業パーソンが商品やサービスを売るには、7回程度は会う必要があるということになります。
営業パーソンが1~2回会っただけで成約できるケースは、会う前から相手に購入の意思がある場合に限られるでしょう。
会社員時代の大手企業への法人営業を思い出すと、営業側から企画提案をした場合、1回で成約したことは皆無です。2回、3回とお互いに顔を合わせ、企画内容をお客様が求めるものに修正していき、やっと上司へ議題を上げてくれるといった感じでしょうか。
ただし、これはあまり競合がいない場合です。多くの場合、競合が存在していますので、価格のかけ引きなどもあり、もう少し時間がかかります。
新規開拓営業となると、もっと時間がかかるかもしれません。
営業パーソンでなくても、最低でも3回、できれば7回以上会ったことがある人の方が、言葉が伝わりやすくなります。
小さな要求から段階的に大きな要求へ
【具体例】
今度、展示会に来ませんか?(その後、工場見学、商談へと進む)
- フット・イン・ザ・ドア
- 本命の要求を通すために、簡単な要求からスタートし、段階的に要求するレベルを上げていく方法(小さな要求から大きな要求を承諾させる方法)。
交渉や依頼をする場面で、よくこの理論に出会います。
人はいったんある立場をとると、他の人から一貫性のある人だと見られていたいという心理が働きます。この心理を応用したものです。
営業心理学や心理テクニックの本などでよく出てくるテクニックですが、すぐに高額な自己啓発教材が売れてしまうというような簡単なものではありません。
どちらかというと、普段からそんなに高くない商品やサービスを買ってくれているお客様に、高額商品やサービスを提案してみる、といった感じでしょうか。
他には、お客様をまず展示会にお誘いし、その後、自社の工場見学にお連れし、その後、本格的な商談をする、といった流れにもこのスキルが使われています。
恋愛も同じでしょう。まずランチにお誘いする、次にディナーにお誘いする、その次に遊園地にお誘いする、というように、段階を1つずつクリアしていきます。
セミナービジネスでも同じです。まず、無料か3,000円程度の体験セミナーに来てもらいます。そこで数万円のセミナーを提案すると、何名かが参加してくれます。さらに、そのセミナーの終了後に、先ほどよりも高い数十万円のセミナーを案内します。
実はこのテクニック、詐欺にも使われているので注意が必要です。投資詐欺でも、まず少額の投資で利益を出し、その後に高額な金額を投資させるのです。
大きな要求を断らせてから小さな要求へ
【具体例】
(本当は100万円だけど)1,000万円貸してください。
- ドア・イン・ザ・フェイス
- まず過大な要求を提示して相手に断らせてから、本命の小さな要求を出す方法(大きな要求から小さな要求を承諾させる方法)。
フット・イン・ザ・ドアと同じく、交渉や依頼をする場面でよく出てくる理論です。
人は相手に借りができると、そのままでは気持ちが悪く、お返しをしなくてはならないという返報性の法則が働きます。この法則を応用したものです。
例えば、家電量販店に行くと、店員が接客してくれます(最近は店員が少なくなり、テレビ、エアコンなど、接客してもらえる商品が限られるようになりましたが……)。テレビを見に来たと告げると、まず案内してくれるのは、高めの高性能商品です。買う側としては、そこまでの予算はないので、当然断ります。すると次に、自分が求めているランクのテレビを案内してくれます。そうすると、もし買う気がなかったとしても、そのランクのテレビがキャンペーンなどをやっていれば、つい購入してしまうということもあるのではないでしょうか。
実際は、求めているものの何十倍もの大きな額を要求し、断られてから何十分の一かが手に入れば、ドア・イン・ザ・フェイスは成功だといえます。
ドア・イン・ザ・フェイスの応用例としては、本当は100万円のお金を借りたいけれど、あえて1,000万円を要求してみる、といったことがあります。そのまま100万円のお金を要求すると、80万円に減額されるかもしれません。しかし、1,000万円のお金を要求すると、もしかしたら300万円の許可が下りるかもしれないのです。
自分で発した言葉に責任を持たせる
【具体例】
医療保険に入りたいと思っていますか? → はい
もし病気になったとしても安心ですよね? → はい
医療保険のご案内をしてもよろしいですか? → はい
- 一貫性の法則
- 一度態度を決定したことは、最後までそれを貫こうとする人間心理のこと。
フット・イン・ザ・ドア(小さな要求から大きな要求を承諾させる方法)の中に、一貫性の法則が使われています。
ある商品やサービスを販売したい場合、回答者が肯定(yes)しやすい質問を投げかけ、「はい」「はい」「はい」「はい」と答えさせることで、断りにくくする効果があります。
個人向け営業(B to C)など、短期間で成果を上げる必要がある場合に使うことが多いでしょう。
具体的には、楽に痩せる健康器具を売りたい場合、
「痩せたいと思っていますか?」 → はい
「痩せるための方法があれば実践したいですか?」 → はい
「楽に痩せる方法があれば知りたいですか?」 → はい
「楽に痩せられる健康器具を販売しているのですが、興味ありませんか?」 → はい
といった具合に使われます。
スーパーで試食品を食べてもらったり、化粧品や健康食品の試供品を使用してもらったりすることで、購入確率を高める方法にも使われています。
人は、簡単な行動でも一度要求に応えてしまうと、一貫性の法則によって、筋の通った行動をとろうとする心理が働くのです。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科卒。大学で認知科学、認知心理学、大学院では、教育学、学習心理学を学ぶ。現在は、消費者心理学を研究中。
電子部品メーカー、半導体商社、パソコンメーカーなどで、法人営業を経験。売り込んだことがないのに、どの会社でも、必ず前年比150%以上の営業数字を達成。200人中1位の売上実績を持つ。
未経験でセミナー講師として独立してみたものの、講師としてのレベルが低く、参加者や主催企業からの厳しいフィードバックに耐えきれなくなり、講師の道をあきらめかける。産業カウンセリング、キャリアカウンセリング、NLP、コーチングなどを学び、人の心理を考えた「伝え方」を研究、実践したことで、営業、コミュニケーション、リーダーシップ、プレゼンなどの「呼ばれる講師」として、年間100日以上登壇する講師となることができた。これまで、13,000人以上に指導してきた実績を持つ。伝え方プレゼンスクールを主催し、経営者、エンジニア、セミナー講師などに指導。コンサル会社、新聞社などの講師にも、講師力アップ養成講座を行っている。
著書に、『読書が「知識」と「行動」に変わる本』(明日香出版社)、『1年目からできる! セミナー講師超入門』(実務教育出版)、『売れる言いかえ大全』(フォレスト出版)など合計14冊がある。
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