本記事は、曽和 利光氏の著書『このままで大丈夫? 「どこに行っても通用する人」になるために今できること』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

このままで大丈夫? 「どこに行っても通用する人」になるために今できること
(画像=bephoto/stock.adobe.com)

「自分が勝てる場所」で戦う

「どこに行っても通用する人」になるための条件は、「自分が勝てる領域を選ぶ」ことです。

ここでの「勝てる領域」とは、自分の強みや能力が最大限に活かせる環境や、競争優位性を持てるフィールドのことです。そして、その結果、市場価値が上がり、報酬も上がるということを指します。

そのためには「適材適所」という言葉が示す通り、それぞれの才能を発揮できる場所を選ぶことが必要不可欠です。

たとえば、Aさんは非常に人あたりが良く、話し上手で交渉力に長けている。一方で、Bさんはコミュニケーションが得意ではないものの、技術的な知識が豊富で問題解決能力に優れているとします。

このような場合、Aさんを営業担当として顧客と接してもらい、新規取引や契約をまとめる役割に、Bさんを技術サポートとして顧客の技術的な質問や問題の解決にあたる役割に配置すると、双方がそれぞれの能力を最大限発揮でき、顧客満足度も向上する、というようなことです。もしこれが逆であれば、AさんもBさんも活躍しづらいことでしょう。彼らの能力自体はまったく変わっていないのに、です。

中国の戦略家・孫武が記したとされる古典的な兵法書『孫子の兵法』にも「勝てる戦いしかしない」という考え方が含まれています。その有名な一節として、「戦わずして勝つ」という概念もあります。これは、自らが有利な状況を築き上げておき、戦うことなく相手に降伏させることが、最も理想的であるという考え方です。

また、「勝つ見込みのない戦いは避けるべき」とする教えは、『孫子の兵法』全体を通して繰り返し見られます。「勝兵は先ず勝ちてしかる後に戦い、敗兵は先ず戦いてしかる後に勝ちを求む」(勝利する軍はまず勝利の準備を整えてから戦いに臨み、敗北する軍は無計画に戦い始めてから勝利を求める)という一節があります。これは、勝利の可能性が高い戦いだけを選ぶことを意味しており、「勝てる勝負しかしない」という戦略を指しています。

このように、孫子の教えは、戦いにおいて無謀な挑戦を避け、事前に計算された勝機のある戦いにのみ臨むことを強調しているといえます。これはビジネスパーソンでもまったく同じことです。

自分に合ったチャンスとリスクのバランスを取る

つまりは、「どこでも通用する人材になるには、この領域がお勧め」などという、万人にあてはまる1つの解はなく、自分の個性に合ったリスクとチャンスのバランスを見極めることでどんなキャリアを歩むべきかを考えることが重要ということです。

選択肢はこのあと詳しく説明しますが、たとえば、「やり切る力」に自信があるならば、エースがうじゃうじゃいる有名な成長企業に入って、出世競争が激しい環境にあえて身を置き、ガツガツ勝ち上がるのも1つの方法です。

もしくは逆張りの発想で、これから伸びると思われる設立間もないスタートアップに飛び込んでポジションをゲットし、会社自体を大きくして自分がその頂点に立つという考え方もあります。就職人気の低い業界や企業を選べば、需給バランス的に高い評価を受けやすくなるかもしれません。「不人気であろうが関係ない、自分の実力を思う存分発揮しよう!」と、その環境で仕事に集中すれば、早期に抜擢されステップアップできる可能性が高くなりそうです。

誰もが見逃しているけれど、有望そうなニッチ分野を手掛けている企業なども「あり」かもしれません。最終商品を扱うB to Cの企業は知名度が高く人気ですが、部品メーカーなどのB to Bの企業は、日本には世界的な会社が多いにもかかわらず、就転職では相対的に不人気です。企業の知名度にこだわる人には向いていないかもしれませんが、あえて「みなが注目していない領域=需要は高いけれど供給が少ない領域」に飛び込み、自ら市場価値を上げにいくのは1つの方法です。

このように自分の特性や持ち味、志向に合った「勝てる領域」を見極めることが、どこでも通用する力を磨くことにもつながります。

「どこでも」といっているのに、「勝てるところを選べ」とは矛盾しているように思われるかもしれませんが、本当の本当は「どこでも通用する」人などいないということです。適当に選んでも何でも勝てるというような人はいません。相撲取りは相撲が、柔道家は柔道が、ボクシング選手はボクシングが、総合格闘技選手は総合格闘技が「勝てる領域」なのであって、どんなルールでも絶対に勝てる格闘家はいないでしょう(おそらく)。

常に自分の勝てる場を適切に選んでいる人が、結局のところ、「あの人はどこでも通用するなあ」と思われているだけなのです。

「市場価値」など需要と供給の状況で変わる

どの領域に身を置くかで、自身の市場価値は大きく変わります。つまり、勝てるかどうかが変わります。そして、どこでも通用する人になるためには、「どこでも通用する能力や信頼される力」を持つのは当然として、さらにそれを最大限発揮できる環境を選ぶことです。逆にいえば、せっかく能力を持っているのに、埋もれてしまっている人は大変多いということです。

そもそも、「市場価値」とは、「マーケットでの需要と供給によって決まる自分の価値」のことを指します。

たとえば、オリンピックや大規模なイベント、再開発プロジェクトが計画されるとその周辺の土地の価格が上昇しますが、その土地の実体そのもの(面積や位置)は変わりません。また、金(ゴールド)はその実体価値はまったく変わらないものの、経済情勢や投資家の心理、不確実性に対する避難資産としての需要によって市場価値が変動します。とくに金融危機やインフレが懸念される時期には、金の価格が高騰します。

ビジネスパーソンもこれと同じで、いくら優秀な人でも需要と供給のバランスが崩れている領域や環境では、評価されにくくなってしまう可能性があります。

自分の経験やスキルがあまり必要とされていない領域や環境(=需要が少ない)ではどうしても評価が下がりますし、できる人たちが多く集まる領域や環境(=供給過多)にいてはなかなか目立てず、評価も頭打ちになってしまうでしょう。

しかし供給が少なく、需要が多い領域や環境では、より高く評価されるようになります。実際のビジネスのケースでいうなら、ITエンジニアの需要が増大するなか、AIやデータサイエンスのスキルを持つ人材が高く評価されているのはその好例です。IT以外でも、電気工事士や配管工、溶接技術者、建築施工管理技士、重機オペレーター、航空整備士、自動車整備士、保健師などの仕事の市場価値や報酬が高いのも、同じ理由です。

ある業界で培った経験やスキルが他の業界でも同等に評価されるとは限りません。自分の強みを活かせる場を選ぶことは、農夫が適切な土壌で作物を育てることに似ている、といえるでしょう。適した土壌でこそ、作物は豊かに育ちます。自分の能力や特性を活かすためには、適した環境を選ぶことが肝心です。ちなみに、心理学的な観点から見ても、人は自身の持つ特性が「希少価値」を持っていると認識することで、自己効力感が高まる傾向にあります。こうした効果は、モチベーションを保つ上でも重要です。

需給バランスだけでコロコロ変動するような市場価値に、必要以上に振り回される必要はありませんが、足元でイワシの値段が高騰しているように、多くの場合、ビジネスパーソンの市場価値は主に報酬額に反映されます。そして、イワシが今や高級魚としてもてはやされているように、市場価値が社会的な地位などにも影響を与えているのは事実です。

「やりたいことさえやれれば良い」という職人気質の人は別かもしれませんが、霞を食って生きていくわけにはいかない多くの人にとっては、市場価値は無視できない要素といえます。

このままで大丈夫? 「どこに行っても通用する人」になるために今できること
曽和 利光(そわ・としみつ)
株式会社人材研究所代表取締役社長。日本ビジネス心理学会理事。日本採用力検定協会理事。情報経営イノベーション専門職大学客員教授。1971年、愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科卒業。大学在学中は関西大手進学塾にて数学科統括講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用・人事の責任者を務める。その後、2011年に人事コンサルティング会社、株式会社人材研究所を設立。日系大手企業、外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小企業、スタートアップ、官公庁、大学、病院など、多くの組織に人事や採用のコンサルティング、研修、講演を行なうとともに、執筆活動を行なう。著書に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『部下を育てる上司が絶対に使わない残念な言葉30』(WAVE出版)、『シン報連相』(クロスメディア・パブリッシング)など多数。
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)