本記事は、曽和 利光氏の著書『このままで大丈夫? 「どこに行っても通用する人」になるために今できること』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

このままで大丈夫? 「どこに行っても通用する人」になるために今できること
(画像=polkadot/stock.adobe.com)

「とりあえず転職?」の前に考えてほしいこと

大卒新入社員が3年以内に辞めてしまう率は、2024年に公表された厚生労働省の調査で、34.9%と、この15年で最も高い数値となりました。

これは、あんなに学生も会社も労力をかけている新卒の就職や採用活が、あまりうまくいっていないということでもあり、別の観点で見れば、一般的に「第二新卒」とも呼ばれている、若く、ローキャリアの人材でも転職が可能な社会になってきているということでもあります。

そもそも最初から「一生この会社で働くつもり」と考えて入社する人も激減しているのですから、何も憂う必要はないのかもしれません。

しかし、本当にそうでしょうか。

早期退職をした、または、今まさに転職を考えている人たちも、じつは不安に思っているのではないでしょうか?

かくいう私も新卒で入社した会社(リクルート)を初め4年で退職しており、そのときに「自分の一生はどうなってしまうのだろうか?」と重苦しい思いに悩まされたのを覚えています。「ほんの数年で何が身につけられたのか?」「こんな短い期間で辞めてしまってこれまでの努力はどうなるのだろうか?」などと毎晩、悩んでいました。

そんな経験もあり、私はその後、失われた機会を取り戻すべく、どうすれば仕事を通じて必要な能力開発ができるのか、どうすれば自分が理想とするキャリアを歩めるようになるのか、人事という仕事や立場も利用しながら、何十年も考えてきました。

とくに、頭脳もまだ柔らかく、成長余地の大きな20代、30代といった「若手時代」に何をすれば良いか、さまざまな実際に働く人々を観察してきました。

その結果、どんな場所でも自分が望むキャリアを得ることができた人たちは、若いうちにどういうことをしてきた人なのか、一定の法則やルールがあることに気がつきました。

それらの「どこに行っても通用する」「自分の望むキャリアを得る」「市場価値の高い人材になる」ために、「若いうちにしておかなければならないこと」について、読者のみなさんと一緒に考えていきます。

売り手市場時代の「自分の価値」

以前は「総合職」という名の「何でもやる」社員として入社する人がほとんどでしたが、最近では「ジョブ型就職」として、「こうした仕事がしたい」という具体的目標を持ち、職種を限定した入社を望む人が増えています。

希望に沿わない配属になることを恐れる気持ちから、「配属ガチャ」(おもちゃの自動販売機「ガチャガチャ」が語源)などという言葉も生まれました。ソニーやKDDI、富士通、大和ハウスなど、さまざまな有名企業が職種別の採用を行なうようになっており、そうした企業は就活生からの人気も上がっています。

社会的に成功した経営者やスポーツ選手のような人々もまた、明確な目標を持つことの重要性を訴えています。

アメリカのメジャーリーグで2024年、ワールドシリーズを制したドジャースの大谷翔平選手が良い例です。

大谷翔平選手のキャリアには、計画性と戦略的思考が際立っています。彼は高校時代から「自分の未来図」ともいえる目標シート(通称「マンダラチャート」。目標を細分化し、具体的な行動計画を立てることで、目標達成への道筋を明確にする手法)を作成し、野球選手としての成功を視野に入れて取り組んできました。

具体的には、MLB挑戦に至るまでの過程で、怪我を避けつつスキルの向上に努め、プロ入り後も体調管理や技術向上のために綿密なプログラムを実施しています。自身の才能を活かすための最適なチームや環境を選ぶことにもこだわりがあり、二刀流を続けるための意志と柔軟性を持って行動してきました。このように、大谷選手のキャリアは、長期的なビジョンに基づく計画性が根底にあります。

若いみなさんが、早いうちから将来のビジョンを明確に持つ傾向は、年々強まっていると感じます。そもそも日本では伝統的な価値観として、1つのことをじっくり続けることが美徳とされてきました。「私はこの世界で生きていくんだ」「この領域でトップを目指して頑張り続けるんだ」と、1つの場所、1つの仕事でやっていこうという意欲や姿勢は、基本的には、とても素晴らしいことです。

しかし、ビジネスシーンでの状況を見ると、本人の意志に関係なく「1つのところで『一所』懸命に頑張って生きていく」ことがどんどん難しくなってきています。しかも、この流れは、将来にわたりさらに加速する見通しです。

AIが「人の仕事」を変えた

大きな要因の1つとして挙げられるのが、AI(Artificial Intelligence:人工知能)の急速な進化でしょう。AIとは、コンピュータが人間のように知的な働きをする技術を指します。

とくにここ数年で、AIは生活の一部として急速に浸透してきました。2022年にOpen AI社がリリースした「ChatGPT」などの対話型生成系AIはその好例で、多くの人が仕事や学業で利用しています。人間との対話を模倣しながらさまざまな質問に答えたり、文章を作成したりする能力を持っているこのChatGPTにより、これまで人間が行なっていた作業の一部が自動化され、効率が飛躍的に向上しました。

2015年、野村総合研究所とオックスフォード大学が発表した共同研究では「10~20年後に日本の労働人口の49%がAIやロボットに代替される」という予測が示されました。この発表は多くの人々に衝撃を与えましたが、あれから約10年が経過し、現実はこの予測に近づきつつあります。

「○○によって仕事が奪われる」という懸念は、新たなテクノロジーが登場するたびに語られてきました。歴史を振り返ると、産業革命では機械が織機職人の仕事を奪い、IT革命ではオフィスワークが大幅に変容しました。現代では、AIがその役割を果たしているのです。たとえば、データ入力や書類のチェックといった事務作業はすでにAIによって部分的に自動化されています。

他にも、「企業の受付」は、少し前までは人が対応するのがあたりまえでしたが、今では多くがAI受付システムに切り替わっています。来客が多い大企業でも、人を置かないところが増えています。最近訪問した企業の受付を思い出してみてください。人が直接対応してくれた企業なんて、ほとんどなかったのでは?

このAI受付システムは、ビジネスホテルのチェックイン・チェックアウト業務でも活用されています。旅行や出張でホテルに泊まるたび、「そういえば、フロントスタッフの人数が減ったな……」と感じていた人も多いのではないでしょうか。

スーパーマーケットやコンビニエンスストアのレジ業務も、一部は無人レジに切り替わっています。コールセンター業務も、少し前まではスタッフが直接電話対応するのがあたりまえでしたが、今ではチャットボットで対応するケースも増えています。

いずれも、「いわれてみればたしかに……」というものばかりだと思いますが、ほんの数年前まではどんな仕事も人が行なうのがあたりまえでした。このように、ごくごく自然に少しずつ、AIが日常生活に入り込んでいるのです。

「この領域で生きていこう」と決意し、そのためのスキルを頑張って磨いたとしても、将来的にAIにその仕事が奪われてしまう可能性はそこそこ高そうです。すべては奪われなかったとしても、その分野で超秀でた一部のハイキャリア人材のみが生き残り、「他の人よりちょっとできる」ぐらいのレベルでは太刀打ちできなくなるかもしれません。

このままで大丈夫? 「どこに行っても通用する人」になるために今できること
曽和 利光(そわ・としみつ)
株式会社人材研究所代表取締役社長。日本ビジネス心理学会理事。日本採用力検定協会理事。情報経営イノベーション専門職大学客員教授。1971年、愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科卒業。大学在学中は関西大手進学塾にて数学科統括講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用・人事の責任者を務める。その後、2011年に人事コンサルティング会社、株式会社人材研究所を設立。日系大手企業、外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小企業、スタートアップ、官公庁、大学、病院など、多くの組織に人事や採用のコンサルティング、研修、講演を行なうとともに、執筆活動を行なう。著書に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『部下を育てる上司が絶対に使わない残念な言葉30』(WAVE出版)、『シン報連相』(クロスメディア・パブリッシング)など多数。
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