本記事は、曽和 利光氏の著書『このままで大丈夫? 「どこに行っても通用する人」になるために今できること』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

隠れた本質を見抜く「洞察力」
「洞察力」とは、表面上に見えているものではなく、その奥にある「隠れた本質」を見極める力のこと。「見えていないもの、いわれていないこと」を推測できる洞察力は、ビジネスのさまざまな場で活かすことができます。
たとえば営業職ならば、洞察力を発揮してクライアントも気づいていないような「本音」を推察し、それに沿った提案を考えることができます。「話せていなかったけれど、じつはそういうものがほしかったんだ!」とクライアントを喜ばせることができたら、取引拡大につなげることができるでしょう。
洞察力がある人は、一緒に働く上司や先輩、同僚などの気持ちを汲み取ることも得意なので、職場でのコミュニケーションもうまいのが特徴です。細かい心配りができるので、チームで協力しながら円滑に仕事が進められたり、その結果、重要な役割に抜擢されやすくなったりします。
洞察力は、日本においてとくに力を発揮しやすいスキルでもあります。日本には、「空気を読む」「一を聞いて十を知る」「打てば響く」「以心伝心」「あうんの呼吸」などを良しとする文化が未だ根強く残っており、それゆえか、「例の件、うまいことやっておいて」など、指示や説明が曖昧な人が少なくありません。普段の関係性や雰囲気、言動などから「相手がいいたいことや望んでいることを推測する力=洞察力」が求められるシーンが多いのです。
もちろん、ビジネスでは曖昧な指示は致命的であり、「ちゃんと細部まで指示してほしい」とお願いしても良いのですが、洞察力を発揮して曖昧な指示の奥にある本音を読み取り、「こんな感じでどうでしょうか?」と提案できれば、一目置かれ高く評価されるでしょう。「彼ならば重要な仕事も任せられそうだ」と思ってもらえる可能性も高まります。
洞察力を身につけるには?
洞察力を活かして「見えないものを見る」ためには、まずは思い込みを排除して現状を観察し情報収集する必要があります。その上で、集めた情報を自分が持っている知識をソースにしながら、論理的思考で洞察することが求められます。
そのため、洞察力を磨くには「思い込み(心理的バイアス)を取り除く」「知識を収集する」「それをもとに論理的思考を行なう」の3つをセットで意識すると良いでしょう。
まずは「思い込み(心理的バイアス)を取り除く」。心理的バイアスは誰しも多かれ少なかれ持っており、それが洞察の際の「現状観察」を阻害してしまう可能性があります。
たとえば、「今度配属される新人は、体育会出身だ」と聞いたら、多くの人は「元気で明るく、ガッツがある」というようなイメージを持つでしょう。でも、体育会出身でもなかにはおとなしく引っ込み思案の人もいるはずです。
このような、自分でも意識していないような心理的バイアスは、自分自身ではなかなか気づけないものです。先輩や同僚、友人など自分をよく知る第三者に、偏った考え方をしていないか、定期的に確認すると良いでしょう。
これはそれほど簡単なことではありませんが、「自分の思い込みに気づく」ことができなければ、そもそもそれを排除することすらできません。
では、どうすれば自分自身でも心理的バイアスに気づくことができるのでしょうか?
まず有効なのは、「自分と異なる意見や視点に積極的に触れること」です。たとえば、職場や日常生活で、自分の考えとは違う意見を持つ人と対話してみると、「なぜ自分はこう考えていたのか?」「もしかすると、自分の考えには偏りがあるのでは?」と気づくきっかけになります。
また、「自分の予想や判断が間違っていた事例を振り返る」ことも大切です。過去に「こうなるはず」と思っていたことが違う結果になった経験があれば、そのときの自分の思考プロセスを振り返り、「どんな思い込みがあったのか?」を分析してみると良いでしょう。
さらに、「あえて逆の立場に立って考える習慣を持つ」のも有効です。たとえば、「体育会系の新人は元気がある」と思ったなら、「もしこの新人が引っ込み思案だったら?」と仮定して考えてみる。これを繰り返すことで、1つの視点に縛られず、多角的に物事を見る力が養われます。
こうした方法を日常的に取り入れることで、少しずつ自分の心理的バイアスに気づき、それを排除する力を高めていくことができるでしょう。
次の「知識の収集」は、勉強あるのみです。自身が携わる業界や仕事などに関する知識を積極的に収集し、社内の良いナレッジをどんどん真似して自分の身につけましょう。
それらの知識が自身の引き出しとなり、見えないものを見る力となります。
そして、「論理的思考」は、継続的なトレーニングがものをいいます。地道に素振りを繰り返すことで、いざバッターボックスに立ったときに的確にスウィングができるようになるように、地道に「観察し、論理的に洞察する」を日常的に繰り返すことが最も有効です。いつもとちょっと違う出来事があったら、スルーせずに「なぜ今日は違うんだろう?」と観察し、思考してみましょう。
たとえば、クライアントから送られてきたメールの語尾に珍しく「!」がついていたとします。普段は真面目な文章を書く人なのに、どうしたんだろう……と気になったのであれば、最近の出来事を振り返り、その理由を考えてみます。この前の提案内容を喜んでいただけたのだろうか、昨日メールで送った情報がニーズに合っていたのだろうか、それとも好きだといっていた球団が昨日サヨナラ勝ちしたからだろうか……などと思考を巡らすことで、どんどん洞察力が鍛えられます。日常のちょっとした変化を見逃がさず、「観察し、論理的に思考する」習慣をつけてみましょう。それが、トレーニングとなるのです。

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