この記事は2024年4月11日に「第一生命経済研究所」で公開された「2025年・夏のボーナス予測」を一部編集し、転載したものです。

民間企業の2025年夏のボーナス一人当たり支給額を前年比+2.3%(42.4万円)と予想する(厚生労働省「毎月勤労統計」ベース)。夏のボーナスとしては4年連続で+2%台の高い伸びになるだろう。
4月7日に厚生労働省から公表された24年冬のボーナス(賞与支給事業所における労働者一人平均賞与額)は前年比+2.5%と4年連続で増加した。また、賞与の支給事業所割合が増加していることも注目される。業績の改善等を背景に、昨年賞与が出なかった事業所においても支給されたところが増えている。特に中小企業においてこうした状況が目立っており、人材確保の面から待遇を改善しようという動きが生じた可能性が示唆される。この支給事業所の増加による影響を考慮した「全事業所における労働者一人平均賞与額」で見ると、24年冬のボーナスは前年比+7.0%と大幅な増加となっている(23年冬:前年比+1.8%)。
こうした流れを受け継ぎ、25年夏のボーナスも増加が予想される。価格転嫁を積極的に進めたこともあって企業業績は底堅く推移している。利益の水準も高く、従業員への還元余力は十分あるため、企業は賞与の引き上げに踏み切るだろう。また、物価高により、家計に賃上げの恩恵が感じられないことへの問題意識は高まっており、企業も物価高への配慮を行わざるを得ないことに加え、人手不足感が強まっていることも人材確保の面から賃上げに繋がる。実際、春闘においては、月例給与の引き上げのみならず、同時に交渉される一時金においても増額回答が目立っており、その理由として物価高や人材確保を挙げる企業も多かった。月例給与の増加が支給月数の増加と相まってボーナス増に繋がる面もあり、25年の夏のボーナスは増加する可能性が高い。
トランプ関税による悪影響は、今夏のボーナスでは限定的なものにとどまるだろう。まず、大企業では春闘交渉時に既に夏冬のボーナス増額で妥結しているところが多く、その場合関税引き上げの影響は受けない。相対的に直近の業績動向を反映しやすい中小企業においても、夏段階では賞与への影響は限定的とみられる。
問題は冬以降だ。米国の関税引き上げの影響で日本経済が下押しされ、企業業績への悪影響が顕在化した場合、中小企業を中心に冬のボーナスが下振れる可能性がある。また、25年度の業績をもとに交渉される26年夏・冬のボーナスは、より厳しいものとなるリスクがあるだろう。
より懸念されるのは26年春闘への影響だ。25年春闘では24年に続いて歴史的な賃上げが実現したが、関税引き上げによる日本経済への悪影響度合い次第では、26年の賃上げ率が大きく鈍化しかねない。これまでの賃上げの原動力となった「人手不足」には構造的な面も大きいことから、一定程度の賃上げは実施せざるを得ないとみられるが、仮にトランプ関税による25年度の企業業績への悪影響が大きければ、賃金の伸びは24、25年と比べて抑制されることになるだろう。円高の進展により物価の伸びが鈍化することで家計の実質購買力が支えられるといったプラス面も存在はするものの、そもそもの賃金上昇率が鈍化してしまえば元も子もない。26年度の実質賃金がプラスになるかどうか、状況は不透明になってきた。
