この記事は2024年5月9日に「第一生命経済研究所」で公開された「3月の労働時間はなぜ減ったのか」を一部編集し、転載したものです。

3月の所定内給与はなぜ下振れたのか
5月9日に公表された3月の毎月勤労統計では実質賃金が前年比▲2.1%と大幅な減少となったことが注目された。3ヶ月連続の明確な減少であり、賃金の上昇が物価の伸びに追いついていないことが示されている。
一方、エコノミストの間で密かに注目されたのが所定内給与の弱さだ。2月の一般労働者の所定内給与(共通事業所ベース、以下同じ)は前年比+2.0%と1月の同+2.9%から大きく鈍化していたが、3月分でも2月と同じ伸びにとどまる意外な結果となっている。2月については比較対象となる24年2月がうるう年で労働時間が多かったことの裏が出たことで、前年比で見た所定内給与が下押しの影響を受けたとの説明が可能だったが、この要因が剥落するはずの3月分でも弱かったことの説明は難しい。所定内給与の動向は賃金のトレンドに直結するため、ここが鈍化傾向にあるとなれば一大事だ。筆者はレポート(減少が続く実質賃金(25年3月毎月勤労統計) ~実質賃金は25年後半にプラス転化を予想も、不透明感が強い26年春闘~ | 新家 義貴 | 第一生命経済研究所)で、理由は不明と書いたが、本稿ではその後検討した一つの可能性について述べたい。
3月分にもうるう年要因の裏の影響が?
3月の所定内給与の弱さの理由として考えられるのが労働時間の影響だ。3月の一般労働者の所定内労働時間は前年比▲2.5%と、2月の同▲2.3%に匹敵する大きな減少となっており、このことが所定内給与に影響を与えた可能性がある。本系列の出勤日数も前年差▲0.5日と減少、業種別で見ても軒並み減っている。もっとも、25年3月の土日・祝日を除いた平日日数は20日であり、24年3月と同じだ。台風等で出勤ができなかったわけでもない。ではなぜ2月のみならず、3月の労働時間も減ったのか。
一つの可能性として考えられるのが、2月だけでなく、3月にもうるう年要因の裏が出たことである。厚生労働省に問い合わせたところ、毎月勤労統計の調査対象期間は必ずしもその月の1日~31日ではなく、事業所によって異なるとのことだった。毎月勤労統計の調査票の1ページ目にも「調査期間はいつからいつまででしたか。(前月の最終給与締切日の翌日から、本月の最終給与締切日までの1か月間です。)」との記載がある。そのため、たとえば給与締め日が20日の場合、2月21日から3月20日までが3月分としての調査対象期間となる模様だ。
この場合、うるう年要因の裏による影響は2月と3月に分散されることになる。給与締め日が月末の事業所であれば、2月29日が含まれるため2月分で影響が出るが、それよりも前の場合、2月29日が2月分に含まれないため、影響は3月分に出るという理屈だ。仮に後者の事業所がそれなりにある場合、3月分の労働時間にもうるう年要因の裏による下押しが生じた可能性があるだろう。3月の出勤日数を見てもほぼすべての業種で前年対比減少となっており、なんらかの共通の要因(おそらくうるう年要因の裏)が影響している可能性が高いだろう。
この仮説が正しい場合、2、3月の所定内給与の下振れはそこまで心配しなくても良いということになる。そもそも所定内給与は春闘で決まる賃上げが1年間続く傾向があり、賃上げの影響が反映される月以外で大きく変動することはほとんどないはずである。筆者は2、3月の所定内給与下振れは一時的なものと考えている(4月の一般労働者の所定内給与は前年比+3%程度まで戻ると予想)。この仮説が正しいかどうか、6月5日に公表される4月分の毎月勤労統計の結果に注目したい。