
この記事は2025年7月17日に「テレ東BIZ」で公開された「会社をデザインして大躍進 黒子企業の挑戦」を一部編集し、転載したものです。
目次
取引先は2,000社にも~知られざる黒子企業
「ヤクルト」の宅配センターに集まったヤクルトレディ。全国に3万人以上いて、おそろいのユニホームでヤクルト製品を届けている。
1日1万歩以上歩く大石彩さんは30軒ほど回ると言う。外回りに欠かせないのがユニホーム。紫外線対策で夏でも長袖だが、汗でベタベタしないと言う。
「サラサラしています。すごく風が入ってくる。他の洗濯物より早く乾きます。機能性とデザインが素晴らしいと思います」(大石さん)
▼「機能性とデザインが素晴らしいと思います」と語る大石さん

客が「街でも『あ、ヤクルトレディさんがいる』と分かる」と言うように、ユニホームは見たらひと目で分かる「企業の顔」の役割も果たしている。
化粧品・健康食品の「ファンケル」は2024年、一新したユニホームが話題になった。ジャケットやブラウス、パンツやワンピースなど12アイテムがあり、どうコーディネートするかは社員の自由。全部で67通りもの組み合わせが楽しめるのだ。
▼全部で67通りもの組み合わせが楽しめるユニホームが話題になった

「クローゼットを開けてコーディネートを組むのが楽しみでワクワクする毎日です」(「ファンケル銀座スクエア」・鈴木梨紗さん)
いずれのユニホームも手がけたのはオンワードコーポレートデザイン。アパレル大手「オンワードホールディングス」の一社で、「オンワード樫山」が一般向けなのに対し、オンワードコーポレートデザインは法人向けに企業ユニホームなどを作っている。
「ドトール」や「ヤマト運輸」など取引先は2,000社に上り、累計1,000万人が着用する知られざる黒子企業だ。
オンワードコーポレートデザインの本社は東京・千代田区の飯田橋にある。窓ガラスはマジックミラーになっている。中は取引先の企業秘密でいっぱいだからだ。
クリエイティブスタッフは総勢105人。デザイナーがイメージしたものをパタンナーが形にしていく。
▼オンワードコーポレートデザインの本社、クリエイティブスタッフは総勢105人

こうしたやり方で一社一社にオリジナルのユニホームを作っている。
コロナ禍を乗り越え、2024年度の売り上げは約185億円にのぼる。
異色アパレルメーカーが選ばれる理由~取引のきっかけに共通点
選ばれる秘密1~門外不出のオリジナル素材
ヤクルトレディのユニホームを手掛けたワークスタイルグループ・林研介は、多くの企業を担当してきた開発を統括するヒットメーカーだ。「ヤクルト」のために素材メーカーと2年かけて開発した生地を見せてくれた。
「ヤクルトさんだけに納品している門外不出のオリジナルの素材です」(林)
紫外線をカットする糸や速乾性のある糸など4種類を組み合わせ、特別な機能性を実現。織り方にもこだわり、西陣織などで使われている手法を採用して通気性を高めた。通気性は一般の生地の約3倍だと言う。
▼「ヤクルト」のために素材メーカーと2年かけて開発した生地

「耐久性はありながら通気性を高める。今までにないものを目指してものづくりをしています」(林)
その林が3年をかけて開発しているユニホームが、高所作業などにあたる「ミライト・ワン」という通信建設会社のものだ。ユニホームが作業の安全性に直結するため、先方からの要望は60件以上に及んだ。
例えば「腕を上げ下ろしの際に、裾が元の位置に戻るようにしてほしい」という要望。普通の作業着だと腕を上げると引っ張られ、裾がズボンから出てきてしまうのだ。
そこで林はストレッチ性のある生地を独自開発。さらに脇の部分に生地を足し、体に合わせて立体的に縫製することで裾が出てこなくなると言う。
「ハイパーアームブルゾン、自信作です」(林)
千葉・市川市の「ミライト・ワン」の施設「みらいカレッジ市川キャンパス」での着用試験が行われた。新ユニホームの責任者、「ミライト・ワン」総務人事本部・植村翔さんが自ら試着した。
「のぼってはおりてお客様の家に行くから、身だしなみが悪くならないのがとても助かります」(植村さん)
3年越しの苦心作がついに完成。このユニホームは4万着を作り、2026年度から着用する予定だ。
こうしたやり方で一社ずつ満足させ2,000社と取引してきたオンワードコーポレートデザイン。実は多くの企業との取引のきっかけには、ある共通点があるという。
「全部、飛び込み営業だと思います。アポを取るなら行ったほうが早いという感じです」と言うのは社長・村上哲(58)。飛び込み営業で新しい分野を開拓し、売り上げを2割アップさせたたたき上げの経営者だ。
どうやって相手の心をつかむのか。村上は必ず相手と目を合わせて話す。「目線を合わせないと嫌なんです。本音で語り合えない」と言う。そして何より明るさを大事にしてきた。
「暗い顔で人に相談するより、明るく相談したほうが相手も乗ってくれる。明るく元気な会社にしていきたいです」(村上)
焼肉チェーンの面白グッズ~30年前大ヒットの服も
選ばれる秘密2~面白商品で客の心をキャッチ
オンワードコーポレートデザインが作るのはユニホームだけではない。ソリューショングループ・長谷川慎が向かった先は、全国に352店舗を構える焼肉チェーン「焼肉きんぐ」の駒沢公園店(東京・世田谷区)。作ったのは、来店回数に応じて特典としてもらえるオリジナルキャップだ。長谷川はこうした企業の販促品を手掛けているのだ。
中でも評判となったのが「お肉のように見えるが、開けると全面肉柄のタオル」(長谷川)。
▼「お肉のように見えるが、開けると全面肉柄のタオル」と語る長谷川さん

「焼肉きんぐ」の2024年の正月の福袋用に作ったものだと言う。他にも肉柄のクッションなど、毎年、肉柄シリーズを投入すると、ファンが待ちわびるようになり、売り切れ店が続出した。
また「カレーハウスCoCo壱番屋」と作ったのは、伝票のようなメモ帳。紙がなくなるのを知らせるピンクのふちどりまで再現している。
30年前にブームになった「サントリー」のノベルティーグッズ「ボスジャン」も作った。
▼「サントリー」のノベルティーグッズ「ボスジャン」も作った

こうした知恵を絞ったデザインで企業をアピールしているのだ。
「まずは振り切って、取引先が考えつかないようなことをやってみる。どういうふうにその会社をデザインするかを考えてやっています」(長谷川)
さらに企画から施工まで請け負う空間デザインも手掛けている。人の目に触れる部分を丸ごとデザインする戦略で躍進しているのだ。
営業成績最下位から社長に~こうして大口顧客を獲得

村上は営業マンとして働きながら「オンワード」の実業団アメリカンフットボールチームに所属。強豪チームで活躍していた。だが、営業マンとしての成績は「お客様から仕事をいただけたのは半年で2件ぐらい。営業成績はおそらく会社で最下位だったと思います」(村上)。
1927年、樫山純三が興した「オンワード」。戦後に紳士服で成長し、海外にも進出。隆盛を極めたアパレル業界でリーディングカンパニーの一つとなった。
村上は「単純に服が好きだったから」と1990年に入社。配属されたのは、後に現在のオンワードコーポレートデザインとなるユニホームの部署。当時は銀行や証券会社の女性用事務服がメインだった。
営業マンとなった村上が命じられたのは新規顧客の開拓。製造業の多い品川エリア一帯を回った。
「1日で3駅分ぐらい歩きました。アポを取らず名刺だけを持って、いろいろな会社さんを突然訪ねる」(村上)
持ち前の明るさを武器にどんな会社にも飛び込んでいった。
「むやみやたらに飛び込んでいたから、『うちの会社が何をしているか分かっていますか?』『どういう制服を着ているか知っていますか?』と言われて、『すみません、存じ上げておりません』と」(村上)
下調べもしていないから門前払いも多かったが、それでも攻め続けた村上。ある日、製造業の会社を訪ねると、企業のイメージカラーは青なのに作業着はグレーだった。当時の作業着といえばデザインは二の次で、耐久性が重視されていた。
「色落ちのこともあるので濃色系が少なかった。これを変えていくビジネスを組み立てられないかなと」(村上)
現場仕事で着用するワークウエアにチャンスを感じた村上は、そうした分野の会社を狙って営業をかける。油汚れが落ちやすい生地を使い、相手企業のイメージカラーに合わせたユニホームを提案。目指したのは、働いている人が「誇りに感じるワークウエア」だ。
「取引先のお客様が見た時に、格好が良くてイメージが上がるものにすることがポイントだったと思います」(村上)
企業のイメージを発信するユニホームは時代と合致し、選ばれていく。2004年に「全日空」側に採用されると、その後も「JR貨物」などの大口顧客を次々と獲得していった。
開発したワークウエアは今も進化させ続けている。
滋賀・大津市の「東レ」瀬田工場の研究施設で行うのは、機能性の検証実験。試すのは「大成建設」のワークウエアだ。近年、多発しているゲリラ豪雨を再現し、防水性は足りているのかを確認すると言う。テストではゲリラ豪雨でも大丈夫だと確認された。
▼「東レ」瀬田工場の研究施設で行うのは機能性の検証実験

「どこかに隙間があると水が入ってくるから、隙間をいかになくせるか。究極のワークウエア。どんどん進化していきます」(村上)
かつて成績最下位の営業マンが本格的に開拓したワークウエアは、今や売り上げの3割を占める柱の一つに成長した。
ドトール、全日空とタッグ~企業の要望を叶えていく
オンワードコーポレートデザインは、取引先企業の要望を叶えていくサポート活動も行っている。
全国に1,000店舗以上を展開する「ドトール」では2024年、新しいユニホームにした。その原料の一部に使ったのは、海岸に流れ着いたペットボトル。石垣島で社員たちが拾い集めたものだ。
こうした取り組みを一緒に行ったのがオンワードコーポレートデザイン。ゴミのペットボトルからユニホームを作ることで「ドトール」の環境への姿勢を表現したのだ。
「『ユニホーム変わったんですね』と声をかけられて、『もともとはペットボトルだったんですよ』と。そういう取り組みをしている会社だと知ってもらうことができたかなと思います」(店舗スタッフ)
一方、山形・河北町の「後藤」の縫製工場でベテラン職人と作ったのは、ルームシューズ。2022年、全日空と共同開発したものだ。
ルームシューズの材料は、実際に飛行機の座席シートに使われていた生地。毎月、一定数を廃棄していた全日空が何か活用できないかと相談してきた。そこで腕のいい縫製職人と共にルームシューズに仕上げたのだ。
▼飛行機の座席シートに使われていた生地を活用したルームシューズ

「数ミリの違いもなく縫わないといけない。わずかな違いでも履き心地が右と左で違う。恥じない製品を作らなくちゃいけないなと」(「後藤」会長・後藤重美さん)
このルームシューズを販売すると、予定数の52倍の申し込みが殺到する人気となった。
さらにルームシューズを作る時に出た端材を使って別の商品も開発した。さまざまなシートの生地がモザイク柄になったクッションだ。
「企業が取り組みたいことにいろいろな提案をする。『ありたい姿』『なりたい姿』をご提供することを目指しています」(村上)
~村上龍の編集後記~

人が、自分が関わったユニホームを着ているのを見るのは、本当に楽しいと村上さんは言う。人がユニホームを着ているのは仕事のときだけだ。わたしたちは、そのユニホームが何を象徴しているのかわからない。
オフィスワーカーはだいたいスーツを着ている。配送業、医療従事者など肉体を使う人がユニホームを着る。彼らはユニホームで目立とうとは思わない。仕事の内容で、人より抜きんでる存在になろうと思う。『誇りを感じられるウエア』会社の理念だが簡単ではない。自分が、社員だったらという思いで作る必要がある。