カンブリア宮殿,ビジョンメガネ
(画像=テレビ東京)

この記事は2025年6月12日に「テレ東BIZ」で公開された「どん底から驚きの復活! メガネ戦国時代を生き抜く独自戦略」を一部編集し、転載したものです。

目次

  1. 絶対にズレない、曲がらない…~オリジナル眼鏡で好調
  2. ビジョンメガネの集客術~職人技&眼鏡の「かかりつけ医」
    1. 客が集まる秘密1~職人技で超快適
    2. 客が集まる秘密2~目指すは眼鏡の「かかりつけ医」
  3. 負債77億円、経営危機下の社長就任~リストラ断行、取引先にお詫び…
  4. どん底からの復活劇~気づきはベテラン社員の言葉
  5. 何度でもレンズ交換? 新サービス~生き残るための連携も
  6. ~村上龍の編集後記~

絶対にズレない、曲がらない…~オリジナル眼鏡で好調

東京・稲城市にある地元で人気の眼鏡チェーン店「ビジョンメガネ」フレスポ若葉台店。プライベートブランドが充実している。

女性向けに開発したシリーズ「華色(はないろ)」(2万5,900円~)は28のカラーバリエーションから選べる。相談すれば、肌や髪に合う色のフレームを選んでくれると中高年の客に好評だ。

▼女性向けに開発したシリーズ「華色(はないろ)」

カンブリア宮殿,ビジョンメガネ
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眼鏡をかけたまま寝て壊してしまうという客が勧められたのは、折りたたんでも元通りになる形状記憶合金の「ケータイフレックス」(2万7,400円~)。69万本を売った大ヒット商品だ。

▼折りたたんでも元通りになる形状記憶合金の「ケータイフレックス」

カンブリア宮殿,ビジョンメガネ
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女の子が試していたのは、どんなに激しく動いても「絶対にズレない」とうたう「マイドゥ」(2万5,500円~)。眼鏡をかけると、パーツが耳の下まで深くしっかりかかりズレなくなるという構造だ。

こうしたひと味違うプライベートブランドをそろえているビジョンメガネの本社は、大阪市西区にある。東京ではあまり知られていない眼鏡チェーン店だが、かつてCMでお茶の間に浸透した関西では抜群の知名度を誇る。全国に101店舗を展開する売上高52億円、従業員437人の中堅のチェーン店だ。

▼関西では抜群の知名度を誇るビジョンメガネの本社は大阪市西区にある

カンブリア宮殿,ビジョンメガネ
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客が惹かれるのがその接客ぶりだという。

フレスポ若葉台店に初めて来店した男性客が勧められたのが視力測定だ。まずは他の眼鏡店にもある、画像が出てくる機械での「オートレフ測定」。目の屈折状態から近視や乱視などをチェックできる。

次はビジョンメガネが最も力を入れているという問診。店長・小宮清が、眼鏡をどんな風に使っているのか、環境や用途などを15分かけて聞いていく。

さらに専門的な検査も行う。他ではあまり見かけない双眼鏡のような機械を使って、顔の中心から左右の瞳孔までの距離を測定するのが「PD測定」。黒目の位置に合わせてレンズの焦点を調整すれば見え方のズレがなくなるという。

▼ビジョンメガネが最も力を入れているという環境や用途などを15分かけて聞いていく問診

カンブリア宮殿,ビジョンメガネ
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念入りな検査は続き、全部で17項目、45分間かかった。

男性客はゆがみの少ないハイグレードのレンズを購入。一式で12万9,000円だった。

「感動しました。他の眼鏡店に何軒も行っていますが、期待以上でした」と言う。

丁寧な検査が高価格帯の商品の販売につながっている。眼鏡一式の平均購入価格は約2万1,000円(眼鏡光学出版調べ)といわれる中で、ビジョンメガネの平均客単価は約3万3,000円だ。

ビジョンメガネ社長・安東晃一(52)は「知識と技術を持ったスタッフが、しっかりとお客様に寄り添って一つの眼鏡を作り上げることを目指しています」と言う。

ビジョンメガネの集客術~職人技&眼鏡の「かかりつけ医」

客が集まる秘密1~職人技で超快適

ビジョンメガネには、メガネについて高度な知識や技術を持つ人を認定する社内資格、「メガネのマエストロ制度」がある。四つのランクに分かれていて、最高ランクのSS級ゴールドは販売スタッフ241人の中でわずか26人にすぎない。

SS級ゴールドを持つフレスポ若葉台店店長・小宮の仕事ぶりを見てみる。

まずは客にこの日、買った眼鏡をかけてもらい、どれくらい顔にフィットしているかを触って確認。鼻に当たる部分がしっくりこないということで、バックヤードで調整にかかる。フレームの「つる」はヒーターの熱で曲げて調整するが、「熱が足りないと曲げる時に負荷がかかって折れるし、温めすぎると溶けてしまう。適度な調整が必要」(小宮)だと言う。

手の感覚だけで行う微妙な作業。いわば職人技だ。

客が集まる秘密2~目指すは眼鏡の「かかりつけ医」

ビジョンメガネでは、来店したことのある客の情報をカルテに残し共有している。カルテには視力などの情報に加え、目に関係しそうな生活習慣まで書き込まれる。「電車通勤だったのを車通勤に」といったことまで書かれている。

また、眼鏡を買った客にはアフターフォローで「慣れましたか?」などと店の方から連絡する。

「ご購入後の1週間、1カ月、3カ月、6カ月、9カ月、12カ月と3カ月ごとに電話しています。電話をすることで気軽に来てくださいます」(「ビジョンメガネ」・松田和子)

目指すは眼鏡の「かかりつけ医」。客一人一人と深く向き合う姿勢を徹底している。

▼目指すは眼鏡の「かかりつけ医」

カンブリア宮殿,ビジョンメガネ
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負債77億円、経営危機下の社長就任~リストラ断行、取引先にお詫び…

ビジョンメガネは1976年、東大阪出身の吉田武彦が創業。個人店中心の時代にチェーン展開し、品質のいい商品を求めやすい価格で販売。業界屈指の利益率を誇る眼鏡店となった。

現社長の安東が入社したのは1996年だった。

「テレビでCMをやっている有名な会社に入りたいということもあった。ビジョンメガネはあのコマーシャルをやっているな、と」(安東)

しかし、2000年代に入ると眼鏡業界に激震が走る。格安チェーンが生まれ、一気に台頭。「眼鏡は数万円」という時代に価格破壊を起こしたのだ。

「5,000円で眼鏡が作れることが画期的すぎたので、現場はショックを受けていた」(安東)

対応を迫られたビジョンメガネは格安ブランドの「マックスエー」を出店した。

▼格安ブランド「マックスエー」3年後には撤退を余儀なくされた

カンブリア宮殿,ビジョンメガネ
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全国に16店をオープンさせたが、勢いに乗る新興勢力には勝てず、3年後には撤退を余儀なくされた。

「あれも失敗だったなと思います。変に対抗して自ら価格を破壊してしまった」(安東)

ジリ貧状態となり、2007年度には赤字に転落。その後も業績は改善できず、2013年、最悪の事態を迎える。負債77億円を抱え経営危機に陥った。しかも親会社であるビジョン・ホールディングスのトップが突如辞任。責任者不在という状態になってしまったのだ。

そこで当時、販売子会社であるビジョンメガネの社長を務めていた安東に、親会社の社長就任が持ちかけられる。

▼「会社を生き残らせるには自分がやるしかないと、選択肢はなかった」と語る安東さん

カンブリア宮殿,ビジョンメガネ
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「つぶしてはいけないと必死だったので、借入金がどうとか考える余裕がなかった。会社を生き残らせるには自分がやるしかないと、選択肢はなかった」(安東)

こうした経緯で安東は2013年、ビジョンメガネとビジョン・ホールディングスの社長を兼任することになる。それからわずか2週間後には民事再生法の適用を申請した。全体の4分の1にあたる、42の赤字店舗を閉店し、約100人のリストラを断行した。

当時の状況を、安東の同期で歌島橋店店長・金星安津子は「『人事担当がどの店に行った』と聞いたら『今度はうちか?』とか、ベテランの社員は『自分たちが肩をたたかれるんじゃないか』とドキドキしていました」と語る。

人員整理をしながら、安東は迷惑をかけた取引先を謝罪して回る。その一社が、東大阪市にある「昭和光学」。斜視や強い乱視向けの高品質な特殊レンズを製造するメーカーだ。

当時、債権者集会に参加したという専務の西田隆之さんは「『この売り上げがなくなったらどうなるのか』『ビジョンメガネさんは本当に続くのか』と、いろいろなことを思いましたが、(安東社長が)泣きながら『本当に申し訳ない』と、真面目に自分の言葉で説明していた。直観的に『一緒に頑張ろう』と思いました」と振り返る。

どん底からの復活劇~気づきはベテラン社員の言葉

カンブリア宮殿,ビジョンメガネ
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ここから安東の逆転劇が始まる。真っ先に手を付けたのが安売りの見直しだった。

「10%オフ、20%オフのセールが癖になっていて、『安くしないとお客様が来てくれない』と、恐怖心を会社が抱いていました」(安東)

この悪癖を断とうと、頻繁に行っていたセールを一切やめた。

さらに、かつてヒットした形状記憶合金をフレームに使ったメガネや絶対にズレないメガネといったプライベートブランドをリニューアル。高品質・高価格の商品を取り入れ、利益率の改善を図ったのだ。

そんな中で、安東は他に何かヒントはないかとベテラン社員を集め、食事会を開いた。意見を求めると、「今の若手は技術がなさすぎる。あれでは他に勝てない」「ちゃんと教育しないとダメだ」という声が上がった。

こんな声を受けて安東が作ったのが「研修センター」だ。価格競争にのみ込まれ、若手の教育が追いついていなかったため、販売スタッフの教育部門を新設。知識と技術を教え直すことにしたのだ。

講師を務めるのは、食事会で安東に教育の必要性を訴えたベテラン社員の教育担当課長・小倉正道だ。

▼知識と技術を教え直す「研修センター」販売スタッフの技術と知識の向上を実現した

カンブリア宮殿,ビジョンメガネ
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この日はフレームを調整するフィッティング技術の研修が行われていた。マネキンの骨格に合わせ微調整していく。フレームの「つる」の部分を曲げたい時は工具を使ってカーブをつけていくのだが、実際にやってみると、なかなか思うようにはいかない。

こうして専門技術を学ぶ場を作りながら「メガネのマエストロ制度」を導入。販売スタッフの技術と知識の向上を実現した。

「困った時には研修で学んだことを思い出して、9月の試験に合格してまずは店番をできるようになることが目標です」(研修生・佐藤竜太)

改革の成果は2015年、8期ぶりの黒字となって表れる。客単価は、今や危機の頃の2倍近くまでアップ。安東はビジョンメガネを生き返らせた。

何度でもレンズ交換? 新サービス~生き残るための連携も

販売スタッフの接客力を向上させた安東は2019年、新たなサービスもスタートさせた。

それが「ビジョンパーフェクト保証」。保証金を払えば、3年間、レンズが合わなくなったりメガネが壊れたりしても、無償で交換してくれる。3年間、保証を使わなかった時は同じ金額相当の割引券として戻ってくる。

子どもを持つ親などから支持を受け、加入件数は11万8,000件に達した。

一方、2025年5月の宮城・仙台市。安東が向かった先は東北を中心に展開する眼鏡チェーン、「弍萬圓堂(にまんえんどう)」だ。

ビジョンメガネは、競争が激しいメガネ業界で生き残っていくために他の眼鏡チェーンと連携し、販売などのノウハウを共有している。

「弍萬圓堂」の松井政秋専務と共に店舗を視察した安東。以前、安東が指摘したのは、商品が1万円、1万5,000円と値段ごとに陳列されていて、ブランドはごちゃ混ぜになっていたことだった。

「価格を重視すると選びやすいとは思いますが、1万円と1万5,000円の商品の品質の違いが伝わらないんじゃないかと」(安東)

安東のアドバイスを受けて変更されていたディスプレーは、ブランドごとになっているので、好きなテイストをまず見つけ、その中で価格を選べるようになった。

「ビジョンメガネさんで試験的に実施してその成功例をいただきます。それをもとにしてこちらもチャレンジできるのはメリットだと思います」(「弐萬圓堂」・松井専務)

2020年、新しく作ったグループ「E2ケアホールディングス」には、ビジョンメガネ、「弍萬圓堂」の他に「POKER FACE」というチェーン店も加わっている。全国の都市部を中心に展開する眼鏡のセレクトショップだ。

今後は3社がそれぞれの強みを活かしながら共存共栄を目指すと言う。

※価格は放送時の金額です。

~村上龍の編集後記~

カンブリア宮殿,ビジョンメガネ
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2000年に上場するが、9年後に上場廃止。社長に就任する。当時、ビジョンメガネにはビジョンHDという親会社があった。2013年、その会社の社長に就任を持ちかけられる。「先が見えない、こんなしんどい仕事を他の従業員にやらせるわけには」民事再生法適用申請の2週間前だった。

「ビジョンメガネが好きだから」という理由だった。42の赤字店舗の閉店、100人のリストラ。携帯が鳴りまくり電話が恐怖だった。安東氏が、立ち上がったのは、そんな時だった。販売員の技術力を可視化、それが全てだった。

<出演者略歴>
安東晃一(あんどう・こういち)
1972年、大阪府生まれ。1996年、大阪国際大学卒業後、ビジョンメガネ入社。2011年、社長就任。2013年、親会社ビジョン・ホールディングス社長就任。社長就任の2週間後に民事再生法の適用を申請。