カンブリア宮殿,ベガコーポレーション
(画像=テレビ東京)

この記事は2025年7月10日に「テレ東BIZ」で公開された「ネット時代の家具店 LOWYAの全貌」を一部編集し、転載したものです。

目次

  1. 全国に新店舗を続々出店~ネット時代の人気家具店
    1. LOWYAの強み1~実物を見なくても買う気にさせる
  2. バズる家具が続々誕生~ネットで売れる商品づくり
    1. LOWYAの強み2~SNS発の“バズる家具”
    2. LOWYAの強み3~どこにでもある商品は作らない
  3. 創業3年で倒産の危機に~ネット家具店の生き残り戦略
  4. 家具選びに失敗しない!~最新AIアプリとは?
  5. ~村上龍の編集後記~

全国に新店舗を続々出店~ネット時代の人気家具店

2024年8月、横浜市の商業施設「MARK IS みなとみらい」にオープンした家具店「LOWYA」。店内にシンプルな家具やインテリア雑貨など約500点の商品が並ぶ。

収納もついていて使い勝手がよさそうな「L字型パソコンデスク」(1万4,990円)。天然の木材を使った「4人掛けダイニングテーブルセット」(2万7,990円)。収納がたっぷりついたスタイリッシュな「日本製ローテレビ台」(3万9,990円)……。多くは、リビングの家具一式をそろえても15万円ほどで買える価格設定になっている。

中にはサイズが違う2つのテーブルがセットになった「木目調ネストテーブル」(1万2,990円)のような商品も。2つを重ねることで最適なサイズで使えるようになっている。こうした知恵を絞った機能性を持つ家具がお手頃と人気になっている。

▼「木目調ネストテーブル」2つを重ねることで最適なサイズで使えるようになっている

カンブリア宮殿,ベガコーポレーション
(画像=テレビ東京)

「LOWYA」は現在、出店攻勢中だ。2025年6月には東京・武蔵村山市にイオンモールむさし村山店がオープン。「商品を見るのを楽しみにしていた」という客が次々とやってきた。

「LOWYA」はもともとネット通販専門の家具ブランド。2023年から実店舗の運営も始め、2年間で全国10店舗に拡大した。

「LOWYA」は福岡県の博多に本社を構えるベガコーポレーションが運営している。従業員数244人。2004年創業というまだ若い会社だ。

本社の1室に社員たちが集まっていた。囲んでいたのは新たに開発したソファの試作品。フレームから生地まで素材にこだわり抜いたという開発メンバーたちがプレゼン中だ。

だが、「洗えた方がいい」「もう少し脚を長く」などと担当外の社員が次々と意見していく。「もう一息」という意見で締めたのが社長・浮城智和(48)。今回は保留とし、ブラッシュアップを命じた。

「デザイン性、機能性、低価格。求めやすい価格に収まる範囲でどれだけおしゃれにできるか。どれだけ機能を詰め込んでいけるか。1つずつ丁寧に商品を作っていく」(浮城)という商品作りで、2004年のネット通販開始以来売り上げを伸ばし、2024年度の売上高は159億円に達する。

LOWYAの強み1~実物を見なくても買う気にさせる

例えばダイニングチェアの商品ページを見ると、さまざまな角度から撮影した写真を20枚以上掲載。脚の先端の部分まで載っている。その下には「ホールド感が二重丸」「水に濡れてもお手入れ簡単」など、わかりやすい説明が付いている。

こうしたサイト作りを担っているのが本社の撮影スタジオの社員たちだ。

▼専属のスタイリストが実際の部屋に置かれているような写真に仕上げていく

カンブリア宮殿,ベガコーポレーション
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この日は新商品のソファベッドを撮影。専属のスタイリストが商品に合う家具や雑貨をコーディネートし、実際の部屋に置かれているような写真に仕上げていく。

「商品ページを見て、自分の所にも合うとイメージしやすいように心がけて、部屋っぽく作っています」(スタイリスト・田島裕朗)

1つの商品だけで撮影が1日がかりになることも珍しくないという。

バズる家具が続々誕生~ネットで売れる商品づくり

LOWYAの強み2~SNS発の“バズる家具”

本社近くのマンションではSNSの担当スタッフ、ブランドコミュニケーション部の谷光大聖と矢山結愛が動画を撮影していた。これもネットを見ただけで買ってもらう工夫のひとつだ。

「動画だと具体的な使い方、購入した後のイメージが膨らみやすくなります」(矢山)

▼「動画だとイメージが膨らみやすくなります」と語る矢山さん

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年間3,000件のコンテンツを制作。撮った動画はYouTubeやインスタグラム、TikTokなどのSNSに投稿する。ドレッサーテーブルを紹介した動画の再生回数は600万回以上。こうして“バズる家具”を次々と誕生させている。

ちなみに「LOWYA」の“バズる家具”人気ランキング、ベスト3を紹介すると――。

第3位は動画の再生回数1,400万回の「伸縮ラック」(1万4,990円)。その名の通り伸び縮みし棚の横幅の長さを変えられる。動画では見せる収納と隠す収納を演出。これがオシャレと話題になった。角度を変えてコーナーにも置ける。

第2位は再生回数3,100万回の「推し活収納OSHITERU」(1万7,990円)。アニメやアイドルなど推しのコレクション用に開発。写真集やCD、タオルやうちわなどをしまい、普段は収納として置いておける。これがZ世代の心をつかみ、ニッチなターゲットにも関わらずヒット商品となった。

第1位は再生回数3,400万回の「折りたたみダイニングテーブルセット」(4万9,990円)。

▼第1位は再生回数3,400万回の「折りたたみダイニングテーブルセット」

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天板を畳めるので、人数に合わせて4人掛けから2人掛けに変えられる。椅子を全て収納すればコンパクトになりサイドテーブルにも。この機能性がうけて大バズりとなった。

LOWYAの強み3~どこにでもある商品は作らない

「LOWYA」の売り上げの9割は自社開発したオリジナル商品による。これを生み出しているのが社員のプロダクトデザイナーたちだ。

その1人、入社15年目のヒットメーカー、森慎介は「普段当たり前のように使っている商品でも、『ここの棚が動けばいいのに』『ここが引き出しになっていたら便利』という本質があると思う。でも世の中にないから口に出していない。それを解決してあげるのが企画のスタート」と言う。

こうして作った最近のヒット商品が、7万2,990円と「LOWYA」にしては高めの、背もたれを倒すとシングルサイズのベッドになる「3人掛けソファ」だ。

「ソファベッドは若者向けに作られた商品が市場には多いのですが、潜在的なニーズとして実はファミリーの広いリビングに置かれていることが多い。『来客の時にたまにベッドにする』というお客様の声が多かった」(森)

そこでファミリーが重宝しそうな大容量の収納スペースもつけた。

「潜在ニーズに応える、かゆい所に手が届くことを1番に考えて開発しています」(森)

オリジナル家具の製造はプロの手を借りている。佐賀・神埼市の取引先の家具メーカーにやってきたのは家具開発部の手島良輔。創業104年の老舗メーカー「東馬」の工場だ。

▼「LOWYA」のオリジナル商品は国内外の提携工場に製造を依頼している

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「LOWYA」のオリジナル商品は国内外の提携工場に製造を依頼している。その8割は海外メーカーだ。

手島が見に来たのは新商品のテレビ台の試作品。「LOWYA」にはなかった縦格子を使った凝ったデザインの商品だ。デザイナーの図面通りに仕上がっているかをチェックする。

「本当にデザインにこだわっているので、我々も新しい案件をいただくと、どうにかそれを実現できないかと、開発しがいがあります」(「東馬」・木原涼さん)

どこにでもある商品はネットでは売れない。この開発力も「LOWYA」の強みだ。

創業3年で倒産の危機に~ネット家具店の生き残り戦略

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浮城は出社すると、毎日のようにChatGPTを使い、AIに事業についてさまざまな相談をしている。

「(ChatGPTが)出てすぐ使っています。運営しているとどうしてもスポットで知りたいことが出てくる。いいブレスト相手です」(浮城)

1976年、北九州市生まれ。実家は不動産業を営んでいて、子どもの頃から自分が会社員になるイメージは持てなかったという。起業を意識したのは大学生時代の19歳の頃だった。

「インターネットが登場して、全身に稲妻が走るとはこういうことかと。とんでもない世の中の変化が起こりそうだと思いました」(浮城)

1995年に「Windows95」が登場し急速にインターネットが普及するなか、これからはネットビジネスの時代が来ると確信。ネットと相性のいい業種を探そうと、寿司店、携帯電話ショップ、不動産会社など1年ごとに職を変え、体験していった。だが・・・

「25歳ぐらいになってそのやり方が通用しなくなった。転職しまくっているので、そんな人は要らないですよね。26歳の時は無職の時期もありました。もう誰も雇ってくれないみたいな」(浮城)

そんな中、なんとか見つけた仕事が家具の輸入商社でのアルバイト。すると取引先の家具店である光景を目撃する。客が、店に在庫がない色の商品をカタログだけを見て注文していたのだ。

「家具は大きいので、店舗に全部の在庫を置いてはいない。『注文が入ったのでこの商品を送ってください』ということが当たり前に行われていました。言うならばECの元のようなものがすでに成立していたんです」(浮城)

ネットと家具の相性の良さに気づいた浮城は、27歳にしてベガコーポレーションを創業。「Low-YA!」と名付けた通販サイトを楽天市場などに出店した。

家具メーカーから仕入れたオフィスチェアなどを販売し、2年目には黒字化に成功。売り上げを伸ばし、社員の数も増やしていった。

だが、仕入れ先の家具メーカーが、浮城の成功を見て自分たちもネット販売を始めた。メーカー直販のほうが売り値は安い。「LOWYA」の売り上げは激減し、倒産の危機が迫った。「間違いなく我々の社業最大のピンチ」(浮城)だった。

そこで浮城が取り組んだのは、商品ページを他社よりもひたすら詳しく書き直すこと。

「当時、商品を詳しく説明してほしいというニーズがすごく増えていました。生き残るためにはこのやり方しかないと」(浮城)

▼「生き残るためにはこのやり方しかないと」と語る浮城さん

カンブリア宮殿,ベガコーポレーション
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愚直なやり方で持ち直し、当面の資金を得ると、今度は中国を回って新たな仕入れルートを開拓する。

「大量にコンテナで仕入れることによって、半額とは言わないまでもそれぐらい原価が下がった。今のビジネスモデルの原型が完成した瞬間でした」(浮城)

さらに海外メーカーとの仕事ではオリジナル商品を開発。デザインのいい低価格の商品を量産する。

これで大きく業績を伸ばし、2016年には東証マザーズに上場。自社サイトも動画などの工夫を施して強化し、家具のネット通販では一、二を競う企業へと成長させた。

家具選びに失敗しない!~最新AIアプリとは?

浮城はさらにネット通販を進化させようとしている。

ベガコーポレーションが開発したスマホアプリのインテリアシミュレーター「おくROOM」。まずは家具を置きたい部屋の寸法、床の色などを入力する。すると部屋が3Dで再現され、そこに家具を配置し、さまざまなコーディネートを試すことができるのだ。購入前に欲しい家具を試し置きして部屋全体のイメージを確認できる。

▼購入前に欲しい家具を試し置きして部屋全体のイメージを確認できる「おくROOM」

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この「おくROOM」には他にもさまざまな使い勝手があり、家具選びに迷った時には、AIが部屋にあったコーディネート例を提示。2024年11月のリリースから半年で40万ダウンロードを突破した。

※価格は放送時の金額です。

~村上龍の編集後記~

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ベガは「こと座」のもっとも明るい恒星。そういう名を会社につける人はロマンチストなのだろう。だが浮城さんはリアリストだ。最初からECに注目していた。20代で、その可能性を探るために複数の業界を経験。

家具の卸会社で働いているとき、家具店は全色の在庫を揃えているわけではないと知る。客は実際の商品を見なくても注文。思いきって自社で、企画から販売まで取り組むようになる。海外との直接取引も。LOWYAは、売上の約9 割が自社企画商品、購入者の約8割が20代、30代。公式アプリやSNSの運用が集客の要だという。

<出演者略歴>
浮城智和(うきしろ・ともかず)
1976年、福岡県生まれ。1999年、九州国際大学経済学部卒業。2004年、ベガコーポレーション創業。2006年、自社サイトをオープン。2016年、東証マザーズに上場。