この記事は2024年6月9日に「第一生命経済研究所」で公開された「骨太方針2025のポイント(総論編) 」を一部編集し、転載したものです。


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(画像=Андрей Яланский/stock.adobe.com)

目次

  1. 骨太2025:大枠は岸田政権を踏襲へ
  2. ワードクラウドで眺める骨太方針:「地方」が増加
  3. 主要分野のポイント

骨太2025:大枠は岸田政権を踏襲へ

6日の経済財政諮問会議において、2025年の骨太方針の原案が示された。今後、この内容をベースにいくらかの修正が加えられ、閣議決定に至る流れとなる。昨年10月に就任した石破政権下において、初めての骨太方針の策定となる。資料1はその構成(目次)を昨年版と比較したものだ。昨年同様の4章構成であり、基本的な大枠は変わらない。第1章では目下のマクロ経済環境やそれを受けての経済運営の考え方、第2章では賃上げや産業政策など具体的な経済政策、第3章では財政健全化計画を軸に社会保障改革などの内容、第4章では来年度予算案における考え方、が並ぶ。「賃上げ」や「GX、DX、先端科学分野への投資」など、内容自体も岸田政権の「新しい資本主義」の路線を引き継いでいる。

第一生命経済研究所
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ワードクラウドで眺める骨太方針:「地方」が増加

今回の骨太方針原案をもとにワードクラウドを作成してみると、“石破カラー”も浮き出てきた。従来から地方創生を重視しているとされる石破首相の政策観を表すように、「地方」の頻度が大きく増加(2024年:70回→2025年原案:128回)。文書全体でも最頻出ワードのひとつとなっている。その他、従来からの頻出語である「賃上げ」(36回→45回)、「投資」(75回→58回)、技術(87回→88回)、研究(78回→70回)などが並ぶ。「投資」や「研究」などの出現頻度はやや低下しており、地方重視の下で産業政策系の政策は相対的にややトーンダウンしている印象だ。また、ワードクラウド内には登場しないが、トランプ大統領の就任に伴って、「関税」(0回→7回)の語も出現するようになっている。

第一生命経済研究所
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主要分野のポイント

より細かく網羅的にまとめたものが資料3である。昨年から変わった点を中心にいくつかポイントを挙げていくと、財政政策については、「減税より賃上げ」の方向性が明記された。野党が消費税などの減税を訴えていることに対する実質的な牽制となっている。また、目下の超長期金利上昇を受けて、国内での国債保有を一層促進するための努力を行う旨も示された。また、当初のプライマリーバランスの2025年度黒字化目標については、「2025~26年度を通じて、可能な限り早期の国・地方を合わせたPB黒字化」に修正された。足元のトランプ関税をめぐる世界経済悪化懸念(税収減要因)や秋の補正予算編成を見据えて、目標時期に幅を持たせていると考えられる。また、細かいが重要な論点として、物価上昇に応じた公的制度の基準値・閾値の点検・見直しが明記された。昨年度末にかけて与野党議論が紛糾し、足元でも税制調査会で議論がなされている「年収の壁」の見直しに類する形で、公的制度全般のインフレ調整の仕組みが検討される。医療・介護の公的価格などについて物価に対する連動制を高めることが企図されているとみられ、社会保障を中心に影響が多岐に亘る可能性が高い。今後議論の行方が注目される。

賃上げをめぐっては、従来なかった「実質賃金」に関する数値が明記され、1%程度の上昇を目指す旨が示された。また、「2020年代に最低賃金1500円」も明記。この実現に向けて、目安を超える引き上げを行った場合の政府補助金による支援も示されている。昨年は、徳島県が国の目安を大きく上回る84円の引き上げを行った。現状、政府は一般的な最低賃金引き上げの副作用(雇用減少)も観察されていないと整理しており、こうした取組を各地方に広げることが企図されている。

地方創生に関しては、ふるさと住民登録制度による関係人口(実際に定住はしていないが、特定地域にかかわる人の数。観光など一時的に訪れる交流人口と区別される)の可視化、関係人口の実人数1000万人、延べ人数1億人を目指す旨が掲げられた。「二地域居住」などをする人を対象に、メインの住民票のある地域以外にも、かかわりのある自治体にサブ住民のような形で住民登録するような制度が想定されているとみられる。どういった人をその対象とするのか、選挙の投票権はどうなるのか等々、詳細は今後検討されることになる。地方経済の活性化策としての実効性はその過程で徐々に定まってくることとなろう。

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第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 星野 卓也