本記事は、金田 博之氏の著書『最高のリーダーは気づかせる 部下のポテンシャルを引き出すフレームワーク』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

「指示する」から「質問する」へシフトする
「指示型」と「質問型」では考える主体が違う
コミュニケーションが指示型か質問型かで、部下の行動は大きく異なります。どう異なるのかを見ていきましょう。
まずは、「指示型」を見ていきましょう。
プロセスは、「上司が考える→ 上司が指示する→ 部下が指示どおりに行動する→ 部下が成果を出す」の流れをたどります。
ポイントは考える主体が上司であることです。
これを繰り返していると、部下は、上司の指示がないと行動できなくなってしまいます。
いわゆる「指示待ち」状態になり、自分の頭で考えなくなってしまいます。そうなると、上司はいつも指示を出さないといけない状態で忙しくなり、本来生み出せたはずの成果になかなか到達できません。一方の部下は当然ながら指示されたとおりにやるだけなので、モチベーションも上がらないでしょう。
成果を出せない部下には、さらに指示しなければならなくなって…… という悪循環をたどることになります。指示によって目標を達成できていたとしても、上司がつねに指示しないといけない状態となり、管理の工数や負荷が増えてしまいます。これではどこかの段階でキャパオーバーして成果が頭打ちしてしまうでしょう。したがって、このやり方はいずれ上司のスキルやキャパシティが組織のボトルネックになります。
一方の「質問型」はどうでしょうか?
プロセスは、「上司が質問する→ 部下が考える→ 部下が気づく→ 部下が考えたとおりに行動する→ 部下が成果を出す」の流れをたどります。
指示型では考える主体が上司であるのに対して、質問型では考える主体は部下です。上司からの質問をきっかけに、部下が考えて言葉にする過程で気づきが生まれます。部下が何かに気づき、自発的に行動するようになると、そのうち部下が自らの力で成果を出せるようになります。この「成功体験」を通じて、成長した実感や手応えにより自信を持てるようになります。そうすると、部下はどんどん自発的に行動するようになり、細かく指示する必要がなくなって上司の管理工数も少なくなります。結果として、上司のスキルやキャパシティを超えて組織が成長していくことになるのです。
つまり、部下が「自ら考え、気づき、動く」ようにその自発性を育むには、上司が「指示する」から「質問する」へとシフトすることが求められるのです。

組織全体の能力の「上限」を引き上げる
私がとくに強調したいのは、組織が成長する上限の違いです。
「指示型」は決して否定されるものではありません。うまくいっているのであれば、そのままでもいいかもしれませんが、このスタイルでは上司自身の能力やキャパシティが組織全体の能力の上限を決定してしまいます。そのため、上司1人の力に依存する形となり、部下や組織全体の潜在能力を引き出しきれません。
一方、「質問型」へとシフトできれば、部下たちの自発的な行動を引き出しながら自己成長を促進でき、それぞれが能力を発揮するようになります。私の経験上、上司も部下から気づきや学びを得る機会が増えることになり管理能力も向上します。このアプローチにより、リーダーの能力やキャパシティの限界を超えて、組織全体の能力とその上限が引き上げられます。

たとえばリーダーが料理人だと考えてみてください。
「指示型」では、リーダー(料理長)が1人ですべての料理をつくり、ほかの人たちはただ材料を準備するなど、指示どおりに動くだけです。リーダーが優秀であれば、料理はおいしく仕上がりますが、リーダーが手一杯になると全体の進行が遅れたり、ほかのメンバーの力が十分にいかされません。
そして、この方法では大量の料理を限られた時間内につくることは困難です。
一方で、「質問型」では、リーダーがほかのメンバーに料理の方法やアイデアを引き出し、彼ら自身が創造的に調理を進めます。結果として、よりおいしい料理がテーブルに並び、全員のスキルが引き上げられ、チーム全体の成果が最大化するのです。もちろん、おいしさという質だけではなく、大量の料理を限られた時間内につくることもできます。
このように、売上や事業、組織の規模拡大を図りたい場合にも、指示型から質問型へと徐々にシフトしていくのがおすすめです。これにより、より多くのアイデアや行動が自発的に促進され、組織の成長が加速するでしょう。

2014年、日本の大手製造・流通企業のミスミグループでGMとしてグローバル新規事業を推進した後、2018年に世界のAI・チャットサービスをリードする外資系IT企業のライブパーソン株式会社(米NASDAQ上場)」の代表取締役に就任。2020年12月、クラウド型ネットワークセキュリティ分野で10年連続グローバルリーダーに選出されているゼットスケーラー株式会社(米NASDAQ上場)にて日本法人の代表取締役に就任。
プライベートではセミナー、企業研修、大学などで講演し10年以上の講師経験を持つ。これまで10冊の書籍を出版。プレジデント、ダイヤモンド、東洋経済、日経ビジネスなどメディア掲載実績多数。
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