上場企業がかかわる海外M&Aで米国案件が失速を来している。日米間のM&Aは上期(1~6月)に38件(適時開示ベース)と前年を上回るペースで推移したが、下期入りした7月から8月の2カ月間でわずか4件。しかも、3件は米国側が買い手の案件で、日本側による買収は1件にとどまる。海外M&Aの主役であるはずの対米案件が突如、“真夏の異変”に見舞われた格好だ。
下期入りを境に急ブレーキ
上場企業に義務付けられた適時開示情報をもとにM&A Onlineが集計したところ、1~8月における海外M&A件数は150件と前年を8件上回る。内訳は日本企業が買い手となる案件(アウトバウンド取引)が86件、外国企業が買い手の案件(インバウンド取引)は64件。
このままいけば、年間の総件数は200件を超え、3年連続で最多を更新する見通しとなっている。
ところが、足元では意外なことが起きている。国・地域別にみると、米国を相手とするM&Aが下期入りした7月を境に急ブレーキがかかっているのだ。
1~8月の日米M&Aは前年比5件減の42件(対米買収26件、対日買収16件)。1~6月の上期段階では同2件増の38件(対米買収25件、対日買収13件)と月間平均6件強のペースだったが、7月1件、8月3件と、直近2カ月で4件を数えるのみだった。

SOMPO、米損保を5200億円で買収
日本企業による唯一の買収となったのがSOMPOホールディングスの案件。8月末、米国を中心に損害保険事業を展開するアスペン・インシュアランス・ホールディングス(英領バミューダ)を約5200億円で買収すると発表した。米投資ファンドなどから株式を取得する。
アスペンはサイバー保険や役員賠償責任保険など専門性の高い保険を主力とする。SOMPOにとって2017年に米損保のエンデュアランス・スペシャルティ・ホールディングスを約6800億円で買収して以来の大型M&Aとなる。
トランプ関税の影響は?
国内上場企業がかかわる海外M&Aが全体として高水準で推移する中で、米国案件がここへきて失速したのはなぜか。理由の一つとして推測されるのが「トランプ関税」の影響。
高関税政策を振りかざすトランプ氏が大統領選に勝利し、返り咲きを決めたのは昨年11月。今年1月に政権が発足。各国を対象に今年4月に発動した相互関税をめぐる日米交渉は曲折を経て7月にようやく合意した。
海外M&Aの場合、着手から成約まで半年から1年程度を要するのが一般的。産業界でトランプ政権の関税措置への警戒感が高まるにつれてM&Aへの様子見ムードを誘い、対米案件への着手を一時的に見合わせるなどした影響が今になって表面化した可能性がある。
言うまでもなく、日本企業の海外M&Aの中心軸は米国。トランプ政権との関税交渉の決着などを受け、秋以降、対米買収が増勢に転じることになるのか、注目される。