調剤薬局業界でM&Aの攻防が激しさを増している。アインホールディングス(HD)はイオン主導によるメガドラッグ「ウエルシア・ツルハ連合」の誕生で、調剤トップから滑り落ちかけていたが、大型買収を足掛かりに首位の座をひとまず安泰とした。一方、業界2位の日本調剤は投資ファンドのTOB(株式公開買い付け)で非公開化し、株式市場から退出する。
ドラッグストアの「調剤侵攻」が激化
調剤薬局の隣接業界は言うまでもなく、ドラッグストアだ。両者がそれぞれの業態に相互参入しているが、全体としてはドラッグストアによる「調剤侵攻」が激化する状況にある。
ドラッグストアは医薬品、化粧品、日用品、雑貨、食品などを幅広く扱う。医薬品については市販薬に加え、医師の処方箋に基づいて薬を提供する調剤薬局をドラッグストアの店舗内に併設するケースが多く見られるほか、調剤単独店の展開を強化中だ。
そのドラッグストア業界では今年12月、イオン子会社で最大手のウエルシアホールディングスと、2~3番手につけるツルハホールディングスが経営統合を控える。
ツルハが12月1日付でウエルシアを株式交換で完全子会社化。その後、イオンがツルハにTOBを行い、株式の51%を取得して子会社化する。
統合新会社の売上高は約2兆3000億円。マツキヨココカラ&カンパニーの2倍で、国内で圧倒的な規模の「メガドラック」が誕生する。
アイン、「さくら薬品」買収でトップ死守
実は、このウエルシア・ツルハ連合の発足で、調剤最大手のアインホールディングスはその地位から陥落しかけていた。ウエルシア・ツルハの調剤部門の売上高は合算で4000億円以上となる。
一方、アインの売上高は4500億円超。ここから化粧品に特化したドラッグストアなどのリテール部門を除いた調剤部門だけの売上高は3850億円ほどで、トップの座を明け渡すところだったが、大型買収を繰り出し、寸前で踏みとどまることになった。
アインは5月、調剤薬局「さくら薬局」などを約830店舗展開するクラフト(東京都千代田区)を591億円で買収すると発表した。クラフトの売上高は約1500億円。
これが加わることで、アインの調剤部門の売上高は5000億円を大きく超え、ウエルシア・ツルハ連合を突き放すことになったのだ。8月1日付で買収を完了した。
クラフトは2022年、私的整理の一種である事業再生ADR(裁判外紛争処理手続き)を申請。翌2023年、国内投資ファンドの日本産業推進機構(東京都港区)の傘下で、経営立て直しを進めていた。
さくら薬局を運営するクラフトとは2023年、ドラッグストア大手のスギホールディングスが業務提携していたことから、売却先としてスギが最有力とみられていたが、土壇場でアインが巻き返した形だ。
