ECにおける購入後の顧客体験向上と業務効率化を追求するプラットフォームを提供するRecustomer株式会社。創業以来、受託開発からShopifyアプリ開発、そして自社プロダクト「Recustomer」のローンチへと事業を転換し、現在では約500ブランドに導入されている。
代表取締役CEOの柴田康弘氏に、創業から現在に至るまでの変遷、事業の強み、そして海外展開や新たな決済事業への挑戦といった将来の構想について詳しく聞いた。
創業から「購入後体験」に特化するまで
── 創業から現在に至るまでの変遷や、御社ならではの強みや競争優位性を教えてください。
柴田氏(以下、敬称略) 弊社は2017年に創業し、最初の5年間はソフトウェアの受託開発事業を行っていました。2020年頃、新型コロナウイルス感染症の流行を機にECサイトに特化した受託開発を始め、これがEC業界へ参入するきっかけとなりました。
当時、日本に上陸したばかりのShopifyというECプラットフォームに注目し、その専門受託会社として事業を展開したところ、多くのご相談をいただくようになりました。
事業が軌道に乗った後、次のステップとしてShopifyのアプリストアで販売できる連携機能の開発を検討しました。海外で返品ツールが流行していることを知り、日本で同様のサービスを開発しようと決意したのが2021年頃です。2022年には返品・交換のShopifyアプリを正式にリリースし、社名をRecustomerに変更して現在に至ります。
Recustomerの強みは、まさに「購入後」というキーワードにあります。これまでのECサイト向けソフトウェアは、基本的に購入前の顧客体験に焦点を当てていました。例えば、スタッフコーディネートやレビュー収集などが挙げられます。しかし、Recustomerが特に重視しているのは、購入後の顧客体験です。
具体的には、出荷処理、注文キャンセル、配送、受け取り拒否、誤配送、返品など、これまで「存在はしていたものの、あまり顧みられてこなかった」現象に深く入り込んでいます。購入後の顧客体験に真摯に向き合っている点が、弊社の特徴だと考えています。
あらゆる商材に対応するRecustomer
── メインのお客様の業種に変化はありましたか。
柴田 はい。当初はファッションブランドが初期のお客様の多くを占めていましたが、その後、食品、コスメ、インテリア、レジャー用品など、商材のカテゴリーがどんどん広がっていきました。
── 価格帯や商材の大小に関わらず、ネットで販売している企業はすべてターゲットということですか。
柴田 そのとおりです。世の中には高単価なものもあれば低単価なものもあり、大きなものもあれば小さいものもあります。商材によってさまざまなセグメント分けができますが、それぞれに異なる課題が存在します。
たとえば、ファッションではサイズ違いによる返品・交換のニーズが強く、食料品では賞味期限があるため再配達を避けたいという配送課題があります。
しかし、共通して存在する購入後の課題は、注文キャンセル、返品、そして配送に関するものです。弊社のプロダクトは、返品・キャンセル、配送追跡という3つの主要な柱で構成されています。食品を扱うお客様は返品のニーズがない場合でも、配送追跡のプロダクトは必要とされます。このように、いずれかの課題に合致する企業様にご利用いただいています。
── 創業から約8年経ちますが、特に成長のきっかけとなった出来事は何ですか?
柴田 印象に残っていることが2つあります。1つはShopifyというツールに出会ったことです。実際にShopifyを触ってみて、そのソフトウェアのクオリティとレベルの高さに感動しました。日本では間違いなくこのソフトウェアが主流になる時代が来ると確信し、その波に乗りたいという思いで2019年にShopify専門の受託開発を始め、一つの成功をつかみました。
もう1つは、2022年にプロダクトをリリースした後、2023年の1年間をかけてすべてのコードを書き換えたことです。当時、すべての新機能開発を停止し、プロダクトのフルリプレイスを行いました。
今振り返ると、このコードの書き換えがなければ、現在のRecustomerは何もできなかったでしょう。これほど多くのプロダクトを次々と作ることは不可能でした。初期の段階でそれをやっておいて本当によかったと思っています。
── リリース直後、約1年間かけてのサービス刷新。それは、お客様への提供を通じて課題が見つかったからでしょうか。
柴田 それも理由の1つですが、どちらかというと、この先の成長を見据えてのことでした。当時、返品・交換というニッチなニーズだけでは、企業としての成長に早い段階で天井が来てしまうと考えていました。また、当時のプロダクトはShopifyにかなり最適化されていたため、Shopify以外のプラットフォームに対応しづらい構造でした。
そこで、世界に通用し、他のサービスとの連携を広げていくため、例えば日本国内の楽天市場やテレビショッピングなど、多様な販売方法に対応できるよう、早い段階でフルリニューアルすることを決意しました。
── その間、既存サービスを提供しつつ、機能を追加していったのですか?
柴田 いいえ、新機能の開発はすべて停止しました。一気にコードを書き換えるという形です。
── どのように顧客を増やしたのですか。
柴田 もともと営業人員が少なかったため、サービスサイトやウェブサイトからのお問い合わせ、そしてご紹介いただいた案件に絞って営業活動を行っていました。自ら電話営業をしたり、積極的にマーケティング費用を投じたりすることはほとんどありませんでした。特にコードを書き換えていた時期は、多くのご要望を聞けない状況でもありました。昨年頃から展示会などにも出展し始め、少しずつ活動を広げています。
海外展開と新たな決済事業への挑戦
── 現在、最も関心のあるトピックや注力したいこと、あるいは挑戦したい分野などがあれば教えてください。
柴田 2つあります。1つは海外展開です。今年からちょうどチャレンジし始めています。現在は準備段階で、海外事業の本部長を採用し、多言語対応などプロダクトの開発を進めています。来年には海外売上比率を10%まで引き上げたいと考えています。
もう1つは、決済事業への参入です。これまではSaaSと呼ばれるサブスクリプション型のソフトウェアモデルでしたが、それに加えて、返品や購入後のアクションを起点とした購入方法を提供する決済事業に注力しています。
たとえば、「お試し購入」というサービスがあります。最初に5点注文し、自宅に届いた後、気に入った3点だけ手元に置き、2点は返品するといった特別な決済方法が必要になります。レンタルのような特殊な購入方法や、Appleの下取り購入のように、新しいiPhone購入時に古いデバイスを送ると割引が適用されるような複雑な決済も、弊社の裏側で提供しています。
これらの特別な購入方法の提供は、今年の大きなテーマとなっています。
── 日本市場の限界があるため、海外にも展開していきたいというイメージですか?
柴田 それも理由の1つですが、Eコマース市場は、いわゆる「国にロックされていない」市場であるという点が大きいです。
たとえば、国の制度に深く根ざしているような、社会保険関連のサービスはローカルのスタートアップが有利です。しかし、Eコマースはどこの国の製品でも利用できるため、海外企業が日本市場に参入するリスクがある一方で、日本のスタートアップも海外に容易に進出できる特性があります。
Eコマースは、物流基盤や電子決済システムがある程度整った先進国で成立するビジネスです。特にアジア市場はこれから本格的に成長する段階であり、その成長率はとんでもないものがあります。日本での成功はもちろんのこと、アジア市場を獲得できれば、弊社の事業規模は何百倍にもなる可能性があります。だからこそ、海外展開にチャレンジしたいと考えています。
── 海外にも御社と同じような同業他社はありますか。
柴田 はい、アメリカにはユニコーン企業であるLoop Returnsなど、強力な競合が多数存在します。しかし、アジアのレベルでは同業他社はほとんどいません。特に日本では、弊社がリードしている状況です。
── 新しい決済事業の収益モデルはどのような形でしょうか。
柴田 決済手数料のような形で、一つのトランザクションに対して何パーセントというモデルです。
Recustomerの将来とIPOへの道
── 事業拡大の構想について教えてください。
柴田 異なるドメインで新しい事業を始めようという考えはまったくありません。Recustomerは、Eコマースや小売事業者向けのソフトウェアを提供する会社として、その目的を明確に定めています。Eコマースや小売にまったく関係ない事業をやるつもりは一切ありません。
基本的には、既存事業であるRecustomerというプラットフォームをどんどん成長させていきたいと考えています。今や実店舗だけの企業はほとんどなく、今後はEコマースから始まった弊社が、実店舗とEコマースをつなぐようなソフトウェアを展開する可能性も十分にあります。
── ファイナンス面について、IPOやM&Aの検討はされていますか?
柴田 IPOはもちろん目指しており、数年以内をめどに頑張ろうというスタンスです。M&Aについては、特にまだ何も考えていません。買収される側もまったく考えていません。
Recustomerはまだ世間ではあまり知られていない会社ですが、今後どこかで弊社の名前を見聞きしたときに、この記事を思い出していただければ幸いです。
- 氏名
- 柴田康弘(しばた やすひろ)
- 社名
- Recustomer株式会社
- 役職
- 代表取締役CEO

