mederi株式会社

年間300万円以上を費やした7年間の不妊治療。その壮絶な原体験から「女性が望むタイミングで妊娠、出産、キャリアを実現できる社会を目指す」という強い想いを抱き、坂梨亜里咲社長が創業したmederi株式会社。

当初はサプリメント事業からスタートした同社だが、ある大きな転機を経て、低用量ピルのオンライン診療サービス「mederi Pill」(メデリピル)を主軸事業へと成長させ、業界を牽引する存在となった。

坂梨 亜里咲(さかなし ありさ)── 代表取締役
1990年、1月12日生まれ。2012年、明治大学卒業後、ECコンサル会社でマーケティングに従事。その後、女性向けWebメディアでCOO・代表取締役を務める。自身の不妊治療経験をきっかけにmederi株式会社を設立。
mederi株式会社
誰もが愛でりあえる社会へ。すべての人が自分の体のことをきちんと知り、大切に、愛でられるように。安心、安全を追い求めながら、心と体のバランスを整えるためのサービスを展開。生理の悩みを産婦人科医に相談できるオンラインピル診療サービス「mederi Pill」(メデリピル)の運営や企業向け福利厚生プラン「mederi for biz(メデリフォービズ)」を提供している。

HP:https://mederi.jp

目次

  1. 「起業するつもりはなかった」―7年間の不妊治療が変えた人生
  2. 前澤ファンドとの出合いが生んだ、オンラインピル診療という革命
  3. ユーザー、医師、企業。三方よしの関係を築く
  4. 普及率わずか3%の壁。ピルを「当たり前」の選択肢にするために
  5. M&Aを経て描く未来。女性の健康の先に「キャリア支援」を見据える

「起業するつもりはなかった」―7年間の不妊治療が変えた人生

── もともとはECサイトを運営する会社でキャリアを積まれていましたが、ご自身の不妊治療の経験が起業のきっかけになったとうかがいました。

坂梨氏(以下、敬称略) はい。2019年8月にmederiを設立するまで、人生で一度も起業しようと考えたことはありませんでした。

ただ、新卒で入社したのが30人規模のベンチャーで、2社目は友人が起業したスタートアップに第一号の社員としてジョインし、子会社の社長も経験させてもらいました。そうした環境で働くうちに、いつしか「起業」が自分自身の選択肢の一つになっていったんです。

そんな中、29歳のときに30代の生き方を考えました。当時、子会社社長をしながら不妊治療を行い、年間300〜400万円もの費用がかかっていました。この経験を通じて、これは個人的な問題ではなく、晩婚化・晩産化が進む日本社会全体の課題だと痛感したのです。そこで、「女性が望むタイミングで妊娠、出産、キャリアを実現できる社会をつくる」ことを決意し、起業しました。

前澤ファンドとの出合いが生んだ、オンラインピル診療という革命

── 創業当初は、現在主軸とされているピルのオンライン診療サービスではなく、サプリメント事業からスタートされたのですね。

坂梨 当初はコーチングや卵子凍結、福利厚生サービスなど、さまざまな事業構想がありましたが、まずは実現可能性の高い妊活サプリメントから始めました。

大きな転機となったのは、前澤友作さんの「前澤ファンド」から出資を受けられたことです。X(旧Twitter)で募集されていた「10人の起業家に10億円出資企画」に応募し、約1年間のディスカッションを経て出資が決定しました。

そのタイミングであらためて「本当にやりたいことは何か」を考え抜き、まだ結婚や妊娠を具体的に考えていない20代、30代の女性たちのヘルスリテラシーを高める事業こそが必要だと確信しました。そして生まれたのが、低用量ピルのオンライン診療サービス「mederi Pill」(メデリピル)です。

── 早い段階でテレビCMを放映するなど、大胆なマーケティング戦略が印象的でした。

坂梨 オンラインピル診療の領域は、医薬品であるためプロダクト自体で差別化することが困難です。だからこそ、サービス体験やマーケティングが重要になります。

当時、私たちが参考にしていたのがフリマアプリ市場です。先発だった「フリル」を後発の「メルカリ」が莫大な資金を投下したテレビCMで一気に抜き去り、トップシェアを獲りました。

オンラインピル診療も、まだ「このサービス」という第一想起が取れていない状況だったので、「投資するなら今しかない」と。大きな覚悟は必要でしたが、このタイミングを逃せばサービスはうまくいかないだろうという一種の焦りもありましたね。このときの判断が、その後の成長を大きく後押しすることになりました。

ユーザー、医師、企業。三方よしの関係を築く

── 経営者として、事業を運営するうえで最も大切にされていることは何でしょうか。

坂梨 「人」を大切にし、関わるすべての人にとってメリットのある「三方よし」の関係を築くことです。

たとえばユーザーには、診療代を何度でも無料にすることで、気軽で安心できる医療を安価に提供しています。

また、提携している医療機関で働く産婦人科医の多くは、子育て中の女性医師です。これまでの医療現場では、夜勤や長時間労働が多く、産前産後にキャリアが中断されがちでしたが、オンライン診療であれば柔軟な働き方が可能となるため、育児との両立が可能になり、専門性を活かして患者さんに貢献できる場を提供できています。

法人向けの福利厚生サービス「mederi for biz」(メデリフォービズ)も同様です。企業が従業員のピル費用を負担することで、生理に伴う不調が改善され、生産性の向上や離職率の低下につながります。結果として、企業の採用力強化にも貢献できる。このように、誰かだけが儲かるのではなく、関わるすべての人々にとって良い関係性を築くことを常に心がけています。

普及率わずか3%の壁。ピルを「当たり前」の選択肢にするために

── 日本のピル普及率は、まだまだ低いのが現状です。市場の成長性をどのように捉え、どのような戦略で挑んでいるのでしょうか。

坂梨 現代女性の生涯の生理回数は、昭和初期の女性と比べて約9倍の450回に増加したといわれ、実に8割の女性が生理に関する悩みを抱えているというデータもあります。この課題を解決するピル市場のポテンシャルは、きわめて高いと考えています。

2019年時点では、日本の20〜30代女性におけるピル普及率はわずか3%でした。コロナ禍にオンライン診療が解禁されたこともあり、現在mederiの独自調査では7.5%まで伸びていますが、国際平均の約18%には遠く及びません。背景には、「生理痛は我慢するのが当たり前」「薬に頼るのはよくない」「ピルは避妊薬」といった根強い社会的な思い込みもあると思います。

この意識を変革するためには、社会全体を巻き込んだムーブメントが必要です。その一環として注力しているのが、法人向けサービスの拡大です。2025年7月にレバレジーズグループに参画したことで、彼らが持つ顧客基盤を活かした販路が期待できます。

また、自民党のフェムテック振興議員連盟への働きかけを行うなど、ロビイング活動にも積極的に取り組んでいます。5年後には、まず国際平均である18〜20%まで普及率を引き上げたいですね。

M&Aを経て描く未来。女性の健康の先に「キャリア支援」を見据える

── レバレジーズグループへの参画は、組織や事業にどのような変化をもたらすのでしょうか。今後の展望についてお聞かせください。

坂梨 mederiの強みは、社員の9割がサービス当事者である20〜30代の女性であること、そして医師とユーザーを繋ぐ効率的なオペレーションを構築できることです。一方で、これまでは専門性の高いマーケターやエンジニアの採用に課題を感じていました。レバレジーズグループに加わることで、そうした組織の弱みを補強し、より強固な開発・マーケティング体制を築けると考えています。

短期的には、グループの力を最大限に活用し、ピル市場で圧倒的No.1の地位を確立します。サービス体験にさらに磨きをかけ、周辺領域のプロダクトを拡充することで、ユーザーとの接点を増やし、LTV(顧客生涯価値)を高めていきたいです。

そして将来的には、私たちのビジョンである「キャリア」の領域まで事業を広げていきたいと考えています。ピルで体調を整えた女性が、仕事もプライベートも充実させ、自分らしいキャリアを歩んでいく。そのための新規事業をレバレジーズグループで展開できたら……。そんな未来を構想しています。

これからも女性の人生に寄り添い、可能性を最大限に広げるサポートを続けていきます。

氏名
坂梨 亜里咲(さかなし ありさ)
社名
mederi株式会社
役職
代表取締役

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