IPDefine株式会社

財務諸表に載らない無形資産、特に特許権の価値をAIで可視化し、そのマネタイズまでを一貫して支援するIPDefine株式会社。代表の岡本光弘氏は、豊田自動織機の知財部、特許コンサルティングのNGBを経て起業、一貫して知的財産業界に身を置いている。

80兆ドル規模とも言われる未開拓の知的財産市場において、日本企業が保有する「眠れる特許」を金融資産として流動化させ、新たな経済価値を創出することを目指すという岡本氏に、特許・知的財産の可能性、市場の現状と展望を聞いた。

岡本 光弘(おかもと みつひろ)──代表取締役
1987年、愛知県生まれ。京都大学工学部合成・生物化学専攻、ノーベル化学賞受賞の北川研究室配属。2013年、京都大学大学院人間・環境学研究科修了。豊田自動織機知的財産部を経て、NGB株式会社に参画し、世界の特許と意匠の実務に携わる。その後、オフバランス化された知的資産を可視化し、特許担保金融商品の組成と格付けの実現を目指し、2020年にIPDefine株式会社を設立。
IPDefine株式会社
米国特許制度と裁判制度を活用し、世界中の特許の収益化を支援。特許権侵害に関するAIデータベースを保持するとともに特許収益化エコシステムを構築し、創業当初よりグローバルサービスを提供。企業における隠れ無形資産を特定・レベニューフローを創生することで割安株を提案、または無形資産リスクを露出させることによる投資機会を提案している。クライアントは事業会社、アクティビスト、法律事務所、訴訟ファンド、保険会社など多岐にわたる。

目次

  1. 無形資産の価値を可視化し、マネタイズを支援
  2. 「特許は一律このくらいの価値」という認識を変えたい
  3. 知的財産権市場の倫理観と日米の差
  4. 採用上の課題は真に高度なグローバル人材の獲得・育成

無形資産の価値を可視化し、マネタイズを支援

── まず、貴社の事業内容についてお聞かせください。

岡本氏(以下、敬称略) 財務諸表に載っていない無形資産を可視化し、そのマネタイズに取り組んでいます。具体的には、財務諸表(バランスシート)に載らない資産はさまざまありますが、その中でも特に私たちは特許権に着目しています。

特許権は多くの企業が特許を重要視していると言いますが、私たちは「何をもって重要だと判断しているのか」が正直なところ不明瞭だと感じていました。これが事業の出発点です。財産権であるところの特許権を金融資産として見たとき、この特許にどれだけの価値があるのかを、AIを使って定量的に評価することに取り組んでいます。

不動産の場合、港区の立派なビルであれば、月々の家賃がいくらになるか想像できます。一方で、たとえば田舎の山奥にプレハブを建てても家賃を取るのは難しいでしょう。特許権も不動産と同じ“資産”ですが、「100億円の価値がある」と査定することは自由だけれども、実際にマネタイズできなければ絵に描いた餅です。そこで私たちは、お客様の収益につながるマネタイズまでを支援することによって、特許権の価値を実現させています。

── どうやってマネタイズするのでしょうか?

岡本 方法は大きく3つあります。1つは特許権侵害訴訟を起こすこと。2つ目はライセンス収入を得ること。そして3つ目は特許権を売却・転売することです。これらによって実際のキャッシュにつなげることができます。

他にも、特許権を担保にした融資や、特許権を担保にした証券化またはトークン化も考えられます。不動産ではREIT(不動産投資信託)の形で証券化されていますが、特許はレベニューフローやキャッシュフローが見えにくいため、現状では難しいと考えられがちですが、世の中にはそういった証券化等スキームは存在していますし、実際に開始され始めています。

特許権侵害訴訟は、主に米国で活発です。日本の企業は、実は世界的に見ても多くの特許権を保有しています。たとえばパナソニックやリコー、セイコーエプソンなどは、AppleやGoogleよりも多くの特許を保有しています。時価総額では圧倒的な差がつけられていますが、技術を反映した特許数ではむしろそれら企業を凌駕しています。

これは、収益化できる不動産資産を持っているのに、何も活用せず建物だけ建てて誰も入居していない状況に似ています。私たちは、そうした眠れる資産の流動化、つまりお金の流れを良くするお手伝いをしているのです。

「特許は一律このくらいの価値」という認識を変えたい

── この事業を始めるに至った背景や理由は?

岡本 私は大学卒業後、ずっと知的財産業界に身を置いてきました。特許には、ざっくり言うと誰もやっていないことであれば特許権として登録されるというルールがあります。誰もやっていないからといって価値があるわけではないのに、なまじ登録されてしまうために、「特許を持っていてすごいね」と皆が安易に認識してしまう傾向があります。

本当に価値がある特許というのは、たとえばSamsungやApple、あるいはSonyといった企業が「先に特許を取られてしまった」と感じて意識するような特許です。では具体的にどの特許がそのような性質の特許なのでしょうか。それが、今の世の中では誰にも分からないという状況なのです。

したがって、課題は「特許は一律このくらいの価値」という現状の認識を変えることです。良い特許もあれば、まったく価値のない特許もあるのが本来の姿です。私たちはまず、それを数値的に定量的に示すことに取り組む必要がありました。

── 今注力している事業と、これまでの事業の変遷を教えてください。

岡本 特許収益化に向けたアドバイザリー業務がメインです。最初のうちはAIの開発だけでなく、AIを使って効率的に特許権侵害を見つけるアドバイザリー業務も並行して行っていました。さらに現在は、上場企業が保有する特許資産の金額を算出するといった取り組みも行っています。

── 市場でのポジショニングと競争優位性をどう分析されていますか?

岡本 当社の立ち位置についてですが、そもそも、この特許権のマネタイズという業界はきわめて狭い業界です。

特許をはじめとした無形資産は80兆ドル規模のマーケットと言われますが、特許は概念であり、目に見えません。現状評価をする人もいません。あったとしてもまったく納得感のないようなものばかりです。そのため、誰も検索もできず、価値が分からない状況です。特許権侵害訴訟を専門とする弁護士も「あの弁護士」と名前で指定されるレベルの限られた世界。きわめて狭い領域で、見えない大きなパイを取り合っているのです。

私たちは、その一つの切り口として、特許の評価を行い、価値のある特許を抽出するプロセスの効率化をAIを使って行うことに独自性を持っています。ここがある種のカッティングエッジになっていますが、それがあるだけでは何もできません。

本領域で最も重要なことは、グローバルな主要プレイヤーとの強固なコネクションやパートナーシップを複数構築することです。我々が日本ベースの会社であること自体も大きな参入障壁になっているようです。

まとめると、このようなエコシステムが構築されており、かつAIベースのデータも保有している点が、私たちの総合的な強みです。

ただ、この市場はまだ未成熟ですので、現時点では私たちはむしろ競合が出てきたほうが嬉しいと考えています。マネタイズされれば80兆ドル規模のマーケットであるにもかかわらず、まだ誰も知らない。今はまだ知ってもらう段階なのです。

知的財産権市場の倫理観と日米の差

── 市場が大きくなると、企業間の訴訟やトラブルが増えるでしょうが、その対策はありますか?また、マネタイズとの倫理的なバランスについて、どのように考えていますか?

岡本 基本的に、特許権を侵害している側が悪いという考えがあります。他者のアイデアを模倣して商品を販売している企業は、どの国においても基本的に法律違反とみなされます。そして現状は、世界中でアイデアの盗用が行われているのが現実です。

弊社の基本的な考えは、最初に発明した人に対し、敬意を持って対応すべきだという考えです。そのため、正しく事業を行っている企業にとっては、この仕組みが明るみに出て運用されることは良いことです。

一方で、模倣品を大量に販売しているような国や企業に対しては、都合が悪いでしょうが、そのような行為がきちんと取り締まられるようになることで、「正しく事業を行ってください」というメッセージにつながると考えています。

── 知的財産権のマネタイズ市場が最も進んでいるのは、現状では米国でしょうか。

岡本 圧倒的に米国が進んでおり、特許の価値も日本の100倍くらいの値段がつくことも珍しくはありません。特許訴訟にかかるコストも、米国では1000万ドル(約15億円)という規模になります。日本と比較すると、かなり桁が違う状況です。したがって、現時点で最もマーケットとして機能しているのは米国で、欧州がその次に続きます。

アジアと日本を一緒くたにして良いかは少し議論の余地がありますが、金融よろしく日本は米国と比べると10年から20年ほど遅れています。ただし、それは制度上の遅れであると考えられ、日本の企業も米国に特許を登録しており、韓国企業も同様です。つまり、戦える材料、武器は持っているのです。これは面白いアンバランスです。

これまでは米国内だけで盛り上がっていましたが、今後は日本企業がこの市場に参戦していくのだろうという状況です。

── 市場が黎明期にある中で、今後どのように広めていきますか?

岡本 マーケティングが大きな課題だと認識しています。正直なところ、これまで広告を出すといったことは一切やってきませんでした。米国側から問い合わせフォームを通じて連絡が来るなど、かなり受け身の状況です。今のところそれで事業は回っていますが、私としては、金融市場の人たちにもっとこの価値に気づいてほしいという思いがあります。

これまで、たとえばアクティビストにデータを提供したり、コンサルティングサービスを提供したことはありますが、なかなか認知が広まりません。アクティビストは20年前から現在にいたるまで、いまだに低PBR(株価純資産倍率)の企業に対し、「実際の簿価よりも高い資産を持っているはずだ」という観点から投資を行い、助言や圧力をかけています。もちろんそれだけではありませんが。特許資産も同じように評価対象になって良いと思いますし、これが金融資産であるという認識を、もっと広めていかなければならないと感じます。

弊社はこれまで格付け機関とも議論を重ね、できるだけ金融系のプレーヤーと話をするよう努めてはいますが、なかなかそのあたりの認知が広まりにくいのが現状です。

── 事業会社ではなく、金融系にアプローチしたい理由は何でしょうか。

岡本 事業会社は、結局自分のビジネスに関係する領域にしか興味がありません。たとえばメーカーは、自社が保有する特許を起点として侵害されているかどうかを確認しに行くのが基本です。もちろんそれでも構いませんがどこか近視眼的に思えてしまいます。それよりも、たとえばGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)やMSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)のような大きな評価機関が、数万社を比較するような際に、私たちのデータを指標として使ってもらいたいというのが正直なところです。

最近流行しているブロックチェーンを活用してIP(知的財産)を管理するという動きもあります。そういった新しい流れに乗って周知を広げていくのも一つの手かもとも考えています。

採用上の課題は真に高度なグローバル人材の獲得・育成

── これまで経営されてきて、組織の課題や直面した壁は?

岡本 一つは、この領域に長けた人材自体がいないことです。特許訴訟の知識だけではなく、グローバルな事業なので、複数の国の言語を話せる必要がありますし、金融的な知識も必要です。これらすべてを兼ね備えた人材は、日本で探すのは非常に困難です。営業を拡大しようにも、なかなかそうした人材が見つからないという課題があります。中途半端な採用は将来にわたって大きなコストを残します。

── 今後、力を入れることと、資金調達やIPOやM&Aといった出口戦略についても教えてください。

岡本 特許権を収益化することが当たり前になることを目指しています。その中で有望だと考えているのが、いわゆるWeb3領域です。ブロックチェーンを使えばトークン化という形で、きわめて簡易的に資産流動化が実現できます。市場参加者もそれなりにいるため、流動性を作るうえではトークン化が良い道ではないかと考えています。

イグジットプランについてですが、IPOの可能性もゼロではありませんが、基本的にはM&Aという形になると想定しています。すでにいくつかそういったお声もいただいています。

日本企業は、未使用の価値ある資産を多く保有しており、それを見落としていると強く感じています。私たちが取引している海外の企業は、米国だけでなくロンドンやフランスの企業も含め、日本の資産にきわめて熱い視線を注いでいます。ぜひそうした眠っている資産を活用したビジネスを考えていただきたいし、その際には、ぜひ私たちがお手伝いできればと考えています。

氏名
岡本 光弘(おかもと みつひろ)
社名
IPDefine株式会社
役職
代表取締役

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