この記事は2025年10月28日に「第一生命経済研究所」で公開された「7-9月期GDPは大幅マイナス成長の可能性大」を一部編集し、転載したものです。


GDP
(画像=Slowlifetrader)

目次

  1. 住宅投資と外需が7-9月期の成長率を押し下げ
  2. 年率▲3%台も視野

住宅投資と外需が7-9月期の成長率を押し下げ

11月17日に内閣府から公表される2025年7-9月期の実質GDP成長率は、どうやら大幅マイナス成長になりそうだ。元々、7-9月期のGDPはマイナス成長との見方が多く、日本経済研究センターがエコノミストの予想を集計したESPフォーキャスト調査(10月調査)でも前期比年率▲1.35%が見込まれていたが、実際にはこれを大きく下回る公算が強まっている。

マイナス成長の主因は外需と住宅投資だ。まず外需に関しては、7-9月期の輸出は前期比▲2%程度の減少になる見込みである。輸入も減少が予想されるものの、輸出の落ち込み幅の方が大きいため、外需寄与度はマイナスになる可能性が高い。外需だけで実質GDP成長率を前期比年率▲1%ポイント程度押し下げると推定される。

なかでも落ち込みが大きかったのが米国向けの自動車輸出だ。米国の関税引き上げの中でも、日本の自動車メーカー各社は輸出価格を引き下げて数量確保を図っていたが、7-9月期には数量ベースでも減少幅が拡大した。輸出価格は依然として低水準に据え置かれており、この落ち込みが関税引き上げの影響によるものかどうかははっきりしないが、気になる動きであることは確かだ。

もう一つの成長率押し下げ要因は住宅投資である。7-9月期の住宅投資は急減が必至であり、前期比で二桁減となる可能性もある。住宅投資がGDPに占める割合は3~4%に過ぎないため、通常であれば住宅投資の動向がGDP成長率に大きな影響を与えることはないが、ここまで大きな落ち込みとなれば話は別だ。仮に7-9月期の実質住宅投資が前期比▲10%となった場合、同期の実質GDPは前期比年率で▲1.3%Pt程度も押し下げられることになる。

急減の理由は法改正を背景とした駆け込み需要からの反動減である。25年4月の建築基準法・省エネ法改正によって、省エネ基準の適合義務化や「4号特例」の縮小など、住宅建設や大規模リフォームのコスト増・手続き負担増・工期長期化が生じた。多くの事業者が改正前に着工を前倒ししたことで3月の住宅着工は急増したが、駆け込み需要の反動が生じたことで4-6月期の着工は歴史的な減少となった。(詳しくは、急減する住宅着工とGDPへの影響 ~法改正前の駆け込みと反動。7-9月期のGDPを大きく押し下げる可能性あり~ | 新家 義貴 | 第一生命経済研究所をご参照ください)

GDPの住宅投資は工事の進捗ベースで計上されるため、着工とはタイムラグがある。4-6月期の住宅投資は3月分の駆け込み着工案件が進捗したことの影響で前期比プラスとなったが、7-9月期は反動減の影響が一気に顕在化することが見込まれ、急減する可能性が高い。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

年率▲3%台も視野

そのほかの需要項目もぱっとしない。内需の柱である個人消費は横ばい圏内の動きにとどまったとみられる。食料品価格は前年比でみればピークアウト感が出ているものの、これは前年の高い伸びの裏が出ている面が大きい。企業による値上げの動きは収まっておらず、前月比でみれば上昇が続いている。こうした食料品価格上昇による実質購買力抑制が個人消費の頭を押さえる状況は変わっていない。

設備投資も伸び悩んだ模様だ。高水準の企業収益が続いていることに加え、デジタル・省力化投資、研究開発投資などによる押し上げもあり、基調としてみれば設備投資は緩やかな増加が続いていると評価して良い。しかし、7-9月期については、これまでの増加からの反動もあり、足踏み感が出るとみられる。今後、輸出関連製造業を中心に投資の手控え等の動きが広がらないかといった点に注意が必要だ。

このように、個人消費と設備投資という内需の柱が伸び悩むなか、住宅投資と外需が成長率を大きく押し下げることで、7-9月期のGDPは大幅マイナス成長を避けることは難しい状況である。筆者は現時点で前期比年率▲2%台のマイナス成長を予想しているが、今後公表される9月分の経済指標の結果次第では同▲3%台になる可能性も否定できない状況である。4-6月期のGDPは前期比年率+2.2%の高成長だったが、この上昇分を吐き出す可能性が高い。前年比で見た伸びも大幅に鈍化することになるだろう。

住宅投資の前期比ベースでの落ち込みは一時的なものにとどまる可能性が高いことに加え、輸出についても4-6月期の増加からの反動やサービス輸出減といった面もあるため、7-9月期の成長率の弱さについて過度に悲観視する必要はないだろう。とはいえ、足元では株価の上昇等もあって楽観的な見方が広がっていたことも事実であり、仮に7-9月期の成長率が大きく下振れれば、この楽観ムードに一石を投じるものとなる可能性がある。株価の上昇が続く一方、実体経済は力強さに欠けていることが改めて確認される結果になると予想している。今後も実体経済と金融市場のギャップが続く中で、各種経済指標の動向を注視しつつ、景気の底堅さ・回復力を見極めていく必要があるだろう。


(参考文献)

  • 新家 義貴(2025)「急減する住宅着工とGDPへの影響~法改正前の駆け込みと反動。7-9月期のGDPを大きく押し下げる可能性あり~」(第一生命経済研究所 Economic Trends)
    急減する住宅着工とGDPへの影響 ~法改正前の駆け込みと反動。7-9月期のGDPを大きく押し下げる可能性あり~ | 新家 義貴 | 第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 シニアエグゼクティブエコノミスト 新家 義貴