2001年にPC周辺機器のEコマースからスタートし、現在はデジタル顕微鏡・内視鏡のB2B卸売、再生可能エネルギー事業、ソフトウェア開発、さらにはメイド・イン・ジャパン製品の海外販売まで、6つの主要事業を手がける「総合商社」として成長を続けているスリーアールグループ。
しかし、その歩みは順風満帆ではなかった。「潰した事業の方が圧倒的に多い」と語るのは、2005年に入社し、現在グループを率いる代表取締役社長の今村陽一氏。3年に1度のピンチ、度重なる失敗と血まみれの経験を経て、いかにして同社は独自の強みを築き上げたのだろうか。
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目次
3年おきに事業を生み出す挑戦の系譜
── PC周辺機器から始まり、現在は非常に多角的な事業展開をされていますが、どのような歩みだったのですか。
今村氏(以下、敬称略) 私は2005年から参画しました。最初はPCの周辺機器から始め、およそ3年おきに新しい事業をどんどん立ち上げて、今に至ります。主な事業は6つほどありますが、正直に言うと、つぶした事業のほうが圧倒的に多いですね。常に新しい柱を建てていきながら、伸びたところを事業会社にしていく、というケースを繰り返してきました。
もともとは中国からの商品調達が中心でした。そこから派生させて、まずはデジタル顕微鏡、内視鏡といったB2B向けの卸売りを開始しました。並行してEC事業も展開し、一時期は九州でトップ10に入るくらいまで成長しました。
その後、ソフトウェアの事業を買収し、FIT(固定価格買取制度)が始まったタイミングで太陽光事業もスタートさせました。これは中国とのつながりでオファーを受けたのがきっかけです。ただ、パネル自体は全然売れず、すぐに「これは不動産ビジネスだ」と気づき、不動産事業に参入しました。ほかにもeスポーツ関連事業なども手がけています。
── 最近では海外販売にも力を入れているそうですね。
今村 はい。メイド・イン・ジャパンの製品を海外に展開する事業です。お線香や盆栽グッズ、抹茶、ラーメン、出汁といった、“コテコテの日本製品”を扱っています。
事業の話をすると、正直「何屋かわからない」と言われることが多いのですが、今のところは「総合商社」という形をとっています。社内にはさまざまな国籍のメンバーが所属し、海外販売を担当しています。グループ全体で見ると強いのは、B2B卸売りの顕微鏡・内視鏡、再エネ事業、そして海外販売です。
KPIは追わない。「業界の伸び」と「社内リソース」で測る“勢い”
── 数多くの事業で「選択と集中」の判断はどのように行ってきたのですか?
今村 よく聞かれるのですが、経営指標、たとえばKPIを細かく設定して判断する、ということは新規事業の立ち上げに関してはほぼやりません。
なぜかというと、KPIはあくまで過去の指標であり、過去のデータベースを分析するためのツールでしかないからです。未来のことなので、あえて数値化はしないようにしています。
何で決めるかというと、言ってしまえば「勢い」なんです。
── 勢い、ですか?
今村 はい。ただ、勘や思いつきだけではありません。まず、その業界が伸びそうか、そして我々のグループがそれに対するヒューマンリソースを持っているか。この二つがそろっているかどうかです。
我々はPC周辺機器のメーカーから始まっていますから、そこに付随したような領域、たとえばデジタル機器や、輸出入の貿易業務といったリソースはすでに持っていました。そこに外国人スタッフが入ってきたことで、海外貿易という流れができた。
もちろん、すべてがうまくいったわけではなく、半分ぐらいは失敗していますよ。ですが、我々の社内にあるリソースを利用して伸びそうな事業があれば、そこに挑戦する。そういう判断基準ですね。
大手とは戦わない。ハードとソフト「両利き」で攻めるニッチ市場
── スリーアールグループとしての「強み」、競合優位性はどこにあると考えていますか。
今村 ハードウェアの設計とソフトウェアの設計、両方のチームが社内にそろっています。九州で100人ぐらいの規模で、ハード設計とソフト設計の両方をできる会社は、私が知るかぎりほかにないはずです。
たとえば、ソフト側から「このカメラをソフトに組み込む製品が欲しい」という要求があっても、ハード側から「この製品と顧客データの管理システムを連携させたい」という要求があってもワンストップで実現できる。これはかなりの強みだと自負しています。
── 御社が強みとする顕微鏡や内視鏡の業界は、オリンパスやキーエンスといった、強力な大手企業がいるイメージです。
今村 まさしくそのとおりで、彼らは我々の業界の巨大な競合です。ですから、我々は「彼らがやらないこと」をやっています。
たとえば、オリンパスさんの医療用内視鏡や、キーエンスさんの光学システムは、1台で数百万、数千万、ものによっては億単位の価格になります。大手企業は、その予算管理上、その価格帯でしか勝負ができません。
我々が狙うのは、顕微鏡・内視鏡・工業用スコープの分野において、5万円から300万円のレンジです。
「決済は1日、でも白黒つけない」ミッションが支える高速修正力
── 強みとして「スピードが速い」という話もありました。
今村 一番よく言われるのは、「意思決定スピードが異様に速い」ことです。走りながら修正する。思ったとおりになったことなんて一度もありませんから。とにかく高速で修正を繰り返すんです。
── 何か特別な仕組みがあるのですか?
今村 決済スピードは確かに速いです。業界によっては、我々と同じ100人規模の会社でも、社長決済に1週間かかるところもあります。「そんな馬鹿な」と思いますね。弊社の決済は1日です。
── その場で白黒をはっきりつけるということですか
今村 いえ、実はそこが少し違っていて、白黒つけません。グレーが一番いい。ある程度、部門のリーダーや課長職の意思決定に任せる方針です。彼らの方が、私よりも現場が見えているはずですから。
ダメなのは、アウトプットがAかBかという些細なことで悩むこと。そこに至るまでの「思考のパターン」が私と共有できていれば、大コケする可能性は低いはずです。
我々のミッションは「変化に対応し、挑戦を続ける」。このミッションを強烈に大事にしているので、時代と合わないと思ったら、柔軟に切り替えるスタンスが根付いています。
3年に1度のピンチと“気合”。「優秀な人」と200億の未来へ
── これまででぶつかった大きな壁についても教えてください。
今村 中小企業をやっていると、3年に1回ぐらいは必ずピンチが来ます。2023年もそうでしたね。会社が成長する過程でつまずくポイント、たとえば「営業力不足」「資金繰りや在庫管理の失敗」「労務・法務の問題」といった定説がありますが、そのへん全部コケてます。血まみれになって進んできた感じです。
コロナのときも、実は2008年のSARSの流行時にマスクでコケた経験(在庫を抱え3000万円の損失)があったからこそ、今回は「同じムーブが来る」とわかりました。だから、売り切り、現金決済でやって、波が引くタイミングでさっと引く、という判断ができたんです。
── そうした数々のピンチを、最終的に乗り越えるために必要なことは何でしょうか?
今村 最終的には気合と根性ですよ。「絶対逃げない」こと、「全部自分のせい」だとマインドセットすること。社員や経済のせいにしたら終わりです。
── 今後はどのような展開を考えていますか?
今村 当然、事業拡大はどんどんやっていきます。基本は拡大です。ベンチマークしているのは、早急に売上200億。IPO(新規株式公開)もM&Aも、拡大の手段として当然考えています。
そのためにも、私のスタンスは明確です。「優秀な人間で、かつ思想が合う人間は大切にする」。あくまで我々は株式会社なので、事業拡大と、お客さまへのサービスと、皆さんの報酬アップのために集まっている。その前提条件の中でなら、人を大切にする努力は一生懸命やります。
私の座右の銘は「LOVE AND PEACE」です。これを私なりに訳すと「敬天愛人」。「天を敬い、人を愛す」ということです。周りの人間を大切にして、人生を楽しみましょう。
- 氏名
- 今村陽一(いまむら よういち)
- 社名
- スリーアールグループ
- 役職
- 代表取締役社長

