本記事は、山口 拓朗氏の著書『正しい答えを導く質問力』(かんき出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

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(画像=christianchan/stock.adobe.com)

質問の「本質」とは何か?

質問とは、相手から情報を引き出すためだけの手段ではありません。自分と相手の思考を活性化させ、行動へと導き、場の空気まで変えてしまうほどの強い力を秘めた知的ツールなのです。
以下に、質問に宿る5つの本質を紹介します。

本質① 質問は思考を動かす
質問されると、人の脳は意識的にも無意識的にも、答えを探し始めます。つまり、質問とは思考を動かすスイッチなのです。

本質② 質問は思考の方向性を決める
「なぜ失敗したのか?」と問うか、「どうすれば成功できるか?」と問うかで、思考はまったく違う方向へ進みます。質問は、思考の行き先を決めるコンパスなのです。

本質③ 質問は「価値観」や「判断軸」を浮かび上がらせる
例えば、「なぜその選択をしたのか?」と問うことで、質問を受ける側の優先順位や信念、価値観、判断基準などが見えてきます。質問は、表面的な言葉の奥にある思考の根を掘り起こす力を持っています。

本質④ 質問は「場の空気」すら変える
ひとつの質問が、会議や対話の空気を変えることがあります。沈黙をほぐしたり、行き過ぎた熱をクールダウンさせたり、議論にリズムや方向性を与えたり。質問には、その場の「温度」や「空気感」をマネジメントする力が備わっているのです。

本質⑤ 質問者が主導権を握る
多くの場合、質問者は、回答者よりも、立場的に優位に立ちやすくなります。なぜなら、(良くも悪くも)質問によって相手の時間・思考・行動をコントロールすることができるからです。

このように、質問は単なる会話の道具ではなく、「質問を受ける側の思考を動かし、その場の空気感をデザインする役割」も担っています
うまく使うことで、仕事や人間関係で成果を出しやすくなります。

ただし、それだけに、質問には強いパワーがあることを忘れてはいけません。意図やタイミング、あるいは、質問の仕方や、さじ加減を誤れば、相手を戸惑わせたり、落ち込ませたり、怒らせたり…… と、場の空気や人間関係を乱す危険性も秘めています。

質問とは、人を動かす力を持つ一方で、誤れば人を傷つける危うさも併せ持つ、まさに「諸刃の剣」です。だからこそ、本質①〜⑤を理解した上で、慎重かつ誠実に、その使い方スキルを磨く必要があるのです。

質問マトリックス
──質問の基本4タイプを理解しよう

実は,質問の多くが「どんな目的で、誰に向けて行うか」によって、4つの基本タイプに整理することができます。
それぞれの質問には異なる役割があり、使い方次第でコミュニケーションの質や、思考の深さ、行動の結果などが大きく変わります。

下記のマトリックスは、質問の種類を視覚的に分類・整理するためのもので、2つの軸を用いています。

【縦軸:理解⇔変容】
問いの目的が「今の状況を正しく把握すること(理解)」なのか、「新たな視点や変化を生むこと(変容)」なのか。

【横軸:外発的⇔内発的】
問いの動機や対象の比重が「他者に置かれている(外発的)」のか、「自分に置かれている(内発的)」のか。

以下は①〜④それぞれの質問の目的や効果、使い道などです。

① 確認質問
誤解や行き違いを防ぐための質問です。確認することで、相手と認識をそろえることもできます。
例「納期はいつまでですか?」
「商品Aの売上を伸ばすための施策という理解で合っていますか?」
【活用シーン】
・会議/商談/プロジェクト推進時
・上司や顧客とのやりとり/報・連・相
・チームメンバーとの情報共有や進捗確認

② 探求質問
「知りたい」という自発的な興味や好奇心から生まれる質問です。自己理解や自己成長にもつながります。
例「仕事がデキる人の共通点はなんだろう?」
「どうしてこのアニメは、若者たちに人気なのだろう?」
【活用シーン】
・相互理解を深めたい相手との会話/会食時
・学びやリサーチ/ヒヤリング時
・会議/議論/相談/ブレインストーミング

③ 行動促進質問
相手の意識を行動に変えるための質問です。相手の意欲を高め、行動プランを引き出し、成果や変化を促す際に効果的です。
例「この課題を放置すると、どうなると思いますか?」
「今週やることを3つに絞るなら何にしますか?」
「いつまでに取り組みたいですか?」
【活用シーン】
・部下やメンバーの行動を促したいとき/指示/依頼
・営業/交渉/プレゼンテーション/クロージング場面
・コーチング/1on1/相談

④ 自己啓発質問
自分の考えや感情を深く掘り下げ、視点の変化や内面的な成長を促す質問です。無意識の思い込みに気づくきっかけにもなります。
例「10年後、どうなっていたいか?」
「本当は何を恐れているのか?」
「この決断がうまくいかなかった理由は何か?」
【活用シーン】
・内省/日記による自己対話/過去の振り返り
・セルフコーチング/目標設定や人生設計
・読書/迷いや葛藤と向き合うとき

もちろん、すべての質問がきれいに分類できるわけではありません。また、同一場面であっても、複数の「質問タイプ」を駆使しながらやりとりすることがほとんどです。
だからこそ、一つひとつの質問が、どんな動機から生まれ、誰に向けられ、どんな効果をもたらすのかを理解しておくことが大切。このマトリックスの視点を持つことで、場面に応じた「最適な問い」を選びやすくなるのです。

正しい答えを導く質問力
(画像=正しい答えを導く質問力)
正しい答えを導く質問力
山口 拓朗(やまぐち・たくろう)
出版社で編集者・記者を務めたのちライター&インタビュアーとして独立。27年間で3800件以上の取材・執筆歴がある。現在は執筆や講演、研修を通じて「論理的に伝わる文章の書き方」「好意と信頼を獲得する伝え方の技術」「売れる文章&コピーの作り方」など、言語化やアウトプットの分野で実践的なノウハウを提供。2016年からアクティブフォロワー数400万人の中国企業「行動派」に招聘され、北京ほか6都市で「Super Writer養成講座」を23期開催。著書に『9割捨てて10倍伝わる「要約力」』(日本実業出版社)、『伝わる文章が「速く」「思い通り」に書ける87の法則』(明日香出版社)、『「うまく言葉にできない」がなくなる 言語化大全』(ダイヤモンド社)などがある。中国、台湾、韓国など海外でも20冊以上が翻訳されている。NHK「あさイチ」などのテレビ出演も。

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正しい答えを導く質問力
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