本記事は、山口 拓朗氏の著書『正しい答えを導く質問力』(かんき出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

正しい答えを導く質問力
(画像=Monster_Ztudio/stock.adobe.com)

「確認する勇気」が、本音を引き出すスイッチになる

人はときに、言葉がまとまらなかったり、本音をうまく表現できなかったりするものです。そんなとき、表面的な言葉だけを受け取って終わってしまうと、大切なサインやSOSを見逃してしまう危険性があります。大切なのは、相手が本当に言いたいことを確かめる質問、つまり《確認する勇気》を持つことです

例えば、部下が「最近、仕事に前向きになれなくて……」と相談してきたとします。ここで「頑張れよ」と励ますだけでは、真の問題にたどり着きません。
そんなときこそ、一歩踏み込んで「仕事内容に何か不安でもある?」「チームの雰囲気が合わないとか?」のように、具体的な選択肢を示しながら質問してみましょう。すると相手は、自分の気持ちを整理し、「はい、実は……」と本音を打ち明けやすくなります。
大事なのは、相手の言葉の裏にある感情や意図に、きちんと目を向けること。
「聞かなくてもわかる」「きっと◯◯だろう」と決めつけず、「今の話、こういうことですか?」「もしかして〇〇が気になってるとか?」といった確認を挟むことで、相手は「ちゃんと理解しようとしてくれている」と感じ、心を開きやすくなります。
ただし、「どうせ怒ってるんでしょ?」「つまり反対ってことね?」「今忙しいんだよね?」などと、相手の気持ちや状況を勝手に断言してしまうのはよくありません。本当の気持ちや事情は、実際に話を聞いてみないとわからないことがほとんどです。こちらの先入観によって相手の気分を害してしまえば、それこそ本末転倒です。

「確認するひと言」を惜しまない人こそが、相手の本音を引き出せる人であり、そんな人に、相手は心を預けたくなるものです。

「個人的にお聞きしたいのですが」を使い分ける技術

個人的な興味や関心に基づいて質問したいときや、少し微妙なニュアンスを含む内容について尋ねたいときに使えるのが、「個人的にお聞きしたいのですが」という前置きフレーズです。
このフレーズには、主に次の3つの意図が込められています。
❶ 私的関心の明示:業務上ではなく、個人としての興味であることを伝える。
❷ 距離感への配慮:デリケートな話題に入る前のクッションとして機能する。
❸ 関心と敬意の伝達:相手へのリスペクトや理解しようとする姿勢がにじむ。

例:会議後の個別質問
例えば、会議中に「この点、少し気になるな」と思ったものの、公の場で質問するには、私的な関心に寄りすぎている気がする……。そんなときは、会議後に相手をつかまえてこう切り出しましょう。
「個人的にお聞きしたいのですが、あのスケジュールの件は、A社への配慮が背景にあるのでしょうか?」
このように前置きフレーズを添えることで、相手は「詮索されている」「責められている」とは感じず、あくまで内々の会話として安心して応じてくれるでしょう。

例:公の場での質問
会議や研修の質疑応答の場面で、「失礼に当たらないよう配慮していること」をにじませたいときは、このように尋ねます。
「個人的にお聞きしたいのですが、もし差し支えなければ、B案を外した理由をもう少し具体的に教えていただけますか?」
「個人的にお聞きしたいのですが」という前置きフレーズが、「これは全体に関係のある質問ではないかもしれませんが」というクッション効果を発揮するため、場の空気を壊すことがありません。

例:面談・採用・1on1・初対面での質問
・面談で相手に圧をかけず、少しプライベートな話題に触れたいとき
「ちょっと個人的にお聞きしたいのですが、ご家族の反応はどうでしたか?」
・初対面の相手の価値観を探りたいとき
「個人的な興味なんですが、休日はどんなふうに過ごすことが多いですか?」

信頼関係が浅い段階でも、これらのフレーズを用いることで、相手の「心の扉」を軽くノックすることができます。

ただし、「個人的にお聞きしたいのですが」というフレーズを使う際には、その内容や聞き方にも注意が必要です。
「個人的に聞きたいのですが、加藤さんのプレゼン、正直どう思いました?」
このように相手の本音をダイレクトに聞こうとすると、相手に「詮索されている」「悪口の同意を求められている」といった警戒心を与えてしまう恐れがあります。
前置きをすれば何を聞いてもいい、というわけではありません。相手との関係性、その場の空気、質問する意図などを勘案して、上手に使いましょう。

正しい答えを導く質問力
山口 拓朗(やまぐち・たくろう)
出版社で編集者・記者を務めたのちライター&インタビュアーとして独立。27年間で3800件以上の取材・執筆歴がある。現在は執筆や講演、研修を通じて「論理的に伝わる文章の書き方」「好意と信頼を獲得する伝え方の技術」「売れる文章&コピーの作り方」など、言語化やアウトプットの分野で実践的なノウハウを提供。2016年からアクティブフォロワー数400万人の中国企業「行動派」に招聘され、北京ほか6都市で「Super Writer養成講座」を23期開催。著書に『9割捨てて10倍伝わる「要約力」』(日本実業出版社)、『伝わる文章が「速く」「思い通り」に書ける87の法則』(明日香出版社)、『「うまく言葉にできない」がなくなる 言語化大全』(ダイヤモンド社)などがある。中国、台湾、韓国など海外でも20冊以上が翻訳されている。NHK「あさイチ」などのテレビ出演も。

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