株式会社ミライロ

2025年3月、東証グロースへの上場を果たした株式会社ミライロ。同社は2010年、自身も障害のある当事者である垣内俊哉氏が「社会に存在するバリアを解消する」ことを目指し、設立した。当初はバリアフリーコンサルティングを手掛け、現在は障害者手帳をアプリで提示できるデジタル障害者手帳「ミライロID」の開発・運営など、事業領域を拡大している。

設立当初はわずかな売上であったが、2013年、東京オリンピック・パラリンピック開催決定を機に事業が成長軌道に乗り、社会性・経済性を両立させる独自のビジネスモデルが共感を呼んだ。

垣内社長に上場の狙い、そして今後の成長戦略について、聞く。

垣内俊哉(かきうち としや)──代表取締役社長
1989年、岐阜県生まれ。生まれつき骨がもろく折れやすいため、幼少期より車いすで生活を送る。2010年、大学在学中に株式会社ミライロを設立。障害者をはじめ多様な人々に向けたサービスを展開。2022年、財界「経営者賞」を受賞。国家戦略特別区域諮問会議へ参画し、ユニバーサルデザインの推進に関する提言を行う。
株式会社ミライロ
2010年、設立。障害を価値に変える「バリアバリュー」を企業理念とし、ユニバーサルデザインのインフラやソリューションにおける事業を展開。デジタル障害者手帳「ミライロID」の開発・運営、ユニバーサルデザインのリサーチ&コンサルティング、ユニバーサルマナー研修及び検定や、聴覚や発話に困難のある方に向けた情報保障サービスなどを提供。
企業サイト:https://www.mirairo.co.jp/

目次

  1. 上場時の打鐘は関係者の尽力もあり車いすのまま行う
  2. 顧客ニーズを重視した結果、強い事業間のシナジーを実現
  3. 障害当事者とビジネスのプロが協業するのに必要なことは?
  4. 今後は決済分野やIoT連携に注力

上場時の打鐘は関係者の尽力もあり車いすのまま行う

── 2025年、上場しましたが、これまでの経緯を教えてください。

垣内 弊社は15年前、私が大学3年生(2010年)のときに設立した会社です。「障害を価値に変える」ことを理念として、障害のある方々が学び、働ける社会をつくろうという思いで事業展開してきました。

当初はバリアフリーのコンサルティング事業から始まり、その後、ユニバーサルマナー研修及び検定事業をスタート。今では、障害者手帳の電子化といったデジタル領域にも事業を広げ、今年の3月に上場しました。

── これまでで、事業が成り立ったと確信できたタイミングは、どこでしょうか?

垣内 設立当初の売上は、1期目が126万円、2期目が1400万円と、決して大きな額ではありませんでした。利益も出ていなかったのですが、2013年9月の東京オリンピック・パラリンピック開催決定以降、風向きが変わりました。

さまざまな引き合いが増え、事業が成長軌道に乗っていったのです。日本全体が障害者とともに社会を創り上げていくという機運に、後押しされた部分はあったと思います。

── 上場の狙いはどこにあったのでしょうか?

第一に、「信用力」の向上です。デジタル障害者手帳「ミライロID」を障害者にとってのライフプラットフォームとして発展させていくためには、企業としての信用力が欠かせません。上場企業としての信用は、今後の成長に不可欠であると考えました。

第二に、資金調達力の強化です。ミライロIDのシステム開発はもちろん、ユニバーサルマナー研修及び検定のeラーニングやオンラインの売上比率を上げていくための投資が必要です。つまり、労働集約のモデルからシステムを活かした、より高利益率な体制に変えていくため、システム開発や人件費、マーケティング投資に必要な資金を継続的に確保することが上場を果たした目的の一つです。

最後に、採用力と内部統制の強化です。上場企業として社会的信用度と認知度が向上し、優秀な人材を獲得しやすくなると共に、上場審査を通じてガバナンス、コンプライアンス、内部統制といった経営管理態勢が強化され、事業拡大に対応できる安定した経営基盤を構築できると考えました。

このような目的を果たす中で、「ミライロID」をグローバル展開していくことにも取り組んでまいります。障害者制度が途上である国は世界に数多くあります。日本が積み上げてきた障害福祉制度をデジタル化し、日本のソフトインフラ、デジタルインフラとして海外に展開する、その急先鋒としての役割を果たしていきたいという決意です。

── 上場時は、垣内社長の打鐘も話題を呼びました。

垣内 車いすに乗ったまま打鐘した人がこれまでいなかったため、当初は介助者に依頼する話もありましたが、私が打鐘できるよう東京証券取引所の皆さまが調整してくださいました。スロープやステップを設置いただいたことはもちろんありがたいですが、今後も東証に残され、誰もが利用できる環境になることがより重要だと感じています。

私以外の障害者も、遠くない将来に打鐘する機会が生まれるでしょう。日本の金融市場が、多様な当事者を受け入れる、開かれたものであると示す象徴となり、弊社がその扉を開く一歩となれたことを光栄に思います。

顧客ニーズを重視した結果、強い事業間のシナジーを実現

── 事業ポートフォリオの中で、コアとなるものを教えてください。

垣内 今後ポートフォリオ上で伸ばしていきたいのは「ミライロID」です。「ミライロID」のユーザー数やライフプラットフォームへの参画事業者数が増えることで、障害者の社会経済活動への参加を後押しし、経済性と社会性の両立を果たす事業を実現していくことができます。

そのプラットフォームを一方で支える、安定的な収益源となっている事業ポートフォリオでコアとなっているのは、ユニバーサルマナー研修及び検定です。障害のある人々との接し方や、サービス業におけるコミュニケーションを念頭に置いて、大手企業を含めて研修として採用されています。2025年6月には認定者数が累計30万人を突破しました。

これは、障害者差別解消法の整備や法定雇用率の引き上げといった社会的な動きも追い風となっています。障害のあるお客様や従業員と向き合う機会が増えていることから各事業者社に導入されており、今後も大きく広がると期待しています。

加えて注力しているのが情報領域。「コミュニケーションサポート事業(ミライロ・コネクト)」も昨今の情報保障の社会的認知の広がりを受けて、安定的な収益を生み出しています。」

── 競合との差別化は、どのように図っているのでしょうか?

垣内 弊社のユニバーサルマナー検定は、できるだけ受講しやすい価格にしていることや、障害のある講師が登壇する点に共感いただく機会が多く、結果として選んでいただけているのではないかと感じています。

また、事業の広がりについても、多くの方に関心を寄せていただいているおかげで、ありがたいことに、速いペースで進んでいます。たとえば、ヤマト運輸だけでも、6万人の従業員の皆様が順次受講くださる予定です。

そして、この検定が「ミライロID」や「コミュニケーションサポート事業(ミライロ・コネクト)」など、弊社の他サービスを知っていただくきっかけにもなっています。障害者雇用のコンサルティング、人権教育研修、手話対応サポートなど、スポットで提供している会社は数多くありますが、弊社はこうした取り組みを横断的かつ一貫してサービス提供できる点が、評価いただいているように感じています。

── 「横串で提供できる」という強みを確立した最大のポイントはどこにありますか?

垣内 事業の始まりは、バリアフリーコンサルティングでした。障害のある学生の受け入れ数が増えるに伴い、「バリアフリーにしませんか?」と働きかけを進める中で、バリアフリーの地図を作成したり、経営体制を整備したりする必要が出てきました。

つまり、顧客の声から生まれたサービスなのです。私たちのアイデアで進めた側面もありますが、社会性と経済性を重んじ顧客のニーズに応え続けてきたからこそ、これだけ多岐にわたるサービスが展開できたのだと思います。

── 大学の窓口やテーラーメイドのコンサルティングも手がけられていたとのこと。その際、垣内社長の理想や受け入れ側の現実とのギャップをどのように乗り越えられましたか?

垣内 飛び込み営業の際、電話を切られたり、門前払いを受けることはほとんどなく、皆さま丁寧に聞いてくれました。すでに、「何かしなければいけない」、「何かしたい」と考えている担当者や経営者が多かったからだと思います。

一方、企業にとっては「どうしたらいいかわからない」という状況からのスタートでもあったため、私たちも一緒になって考える環境をつくりやすかった側面もあります。

ギャップという点では、多くの企業が「あれもやらなければ、これもやらなければ」とハードルを高く設定しすぎていました。私たちが「そこまでやらなくていいですよ」とブレーキをかける役割を担うことすら、ありました。

── 小さな解決策を提供する業者はいるものの、それらにどう取り組むかという道筋を示すコンサルティングが欠けていたところに、ビジネスチャンスがあったということですね。

垣内 おっしゃる通りです。まさに空白地帯でした。その空白地帯が生じた理由は、率直にいえば十分なマーケティングもせずに事業を進めていた企業が多かったからです。地域の障害者10人に聞きましたといったレベルで、売れる商品やサービスをつくることはできません。

弊社には、障害のある方が一定数集まっているため、100人、1000人、1万人にアンケートやインタビューができ、きちんとした市場調査が可能です。これが、企業にとっても安心していただける理由の一つです。

── 「ミライロID」はユーザー数が50万人、導入事業者数では4,000超となっていますが、数字面ではどう増加を図ったのでしょうか?

垣内 手帳のデジタル化については、厚生労働省、国土交通省、総務省、そして当時の番号制度推進室(現デジタル庁)などが2018年から議論を進めていました。しかし、障害者手帳は「現物」でなければならないという考え方が根強く、なかなか進展しませんでした。ボトムアップではどうにもならなかった状況です。

そんな中、さまざまな政治家の皆さまと議論する中で、多くの人々が電子化に向けて動くべきだと、関心を寄せていました。交渉の結果、2019年1月には政府から「電子化された手帳で、障害者の証とするように」との通達が出ました。

このような政府からの発出を受けて、「ミライロID」を2019年7月にリリースしました。

ただし、リリースはできたものの「アプリが身分証明書として認められるのか」という懸念がありました。そこでマイナポータルとの連携に向け動き始めました。結果、2020年6月に、マイナポータルとミライロIDの連携がスタートし、民間連携第一号となりました。

マイナポータルとの連携により信頼性を高めた「ミライロID」は、翌年2021年3月に全国の鉄道会社123社で本人確認として採用されることになり、これが大きな節目となりました。それからユーザー数も導入事業者数も自然に増加し、2025年にユーザー数が50万人を突破するに至りました。

── 今後の拡大について、国内でのさらなる標準化を進めるのか、それとも国境を越えるのか、どちらが近いでしょうか?

垣内 長期的に見ればグローバルですが、足元では国内です。障害者手帳をお持ちの方は現在600万人を超えていますが、「ミライロID」のユーザーは50万人を超えたところであり、全体の1割弱にとどまります。まずは日本全体でのしっかりとした拡大が、最優先です。

一方、世界で暮らす10億人を超える障害者のうち、障害者手帳が確認されているのは国や地域は決して多くありません。よって、ミライロIDがグローバルスタンダードとして発展していく、その可能性を十分に秘めていると考えています。

エクアドルやミャンマーなど、さまざまな国々で障害者やその家族と出会ってきましたが、日本がいかに恵まれているかを痛感しました。アメリカも州ごとに制度がバラバラですし、ヨーロッパでも北欧以外は必ずしもバリアフリーとはいえません。バリアフリー水準で言えば、日本の方が高い場合もあります。

私たちが培ってきた経験や感性は、必ず世界の障害者やその家族に役立てていただけると確信しています。国内での取り組みを進めつつ、並行してグローバル展開の機会をうかがうことが重要と考えています。

障害当事者とビジネスのプロが協業するのに必要なことは?

── 障害当事者としての知見を持つメンバーと、ビジネスのプロフェッショナルとの協業で、大変だったことや苦労したことは何でしょうか?

垣内 メディアで弊社が注目を浴びるようになった頃、求職者からのエントリーが急増しましたが、当時は採用においても試行錯誤の日々だったこともあり、退職者が後を絶たない状況に陥ったのです。

弊社は多様性を重んじています。しかし多様性だけを重視しても、目指す方向や進むべき道が定まっていなければ、組織は機能しません。歩調もバラバラになり、組織がうまく回らない体験をしました。

それ以降、目指すべき方向性や時間軸を明確にしたことで、メンバーが同じ方向を向ける環境ができたと感じています。

多様な従業員がいるからこそ、十分な配慮や工夫を凝らし、しなやかさや柔軟性、事態に備えられる組織へと変化できたのだと思います。

── ガバナンスをどのように引き上げ、その基準をどう担保されているのでしょうか?

垣内 上場を意識する中で、管理体制の強化に取り組みました。専任の管理スタッフを配置し、業務プロセスを整備することで、正確性や効率の向上を図っています。体制を明確にすることで、以前よりも業務の透明性が高まり、組織全体で一定の基準を担保できるようになりました。

今後は決済分野やIoT連携に注力

── 今後、重点的に進める分野について、教えてください。

垣内 既存事業では、「ミライロID」の機能強化やグローバル対応が必要です。障害者手帳のデジタル化を海外でも広げるため、常に調査や準備を進めています。これらを本格的に進めるには一定のコストがかかるため、この部分が主な投資領域となります。

── 「ミライロID」の機能拡張については?

垣内 具体的なことはまだ開示できませんが、たとえば自動ドアや自動販売機との連携を進めてきました。また、JR四国では窓口に行かなくても割引価格で切符を購入できるようになりました。加えて、駐車場精算機では、障害者割引を受けるために、毎回係りの人を呼んで、手帳の現物を見せて、という手順が必要となりますが、一部の駐車場では、係りの人を呼ばずとも、ミライロIDのQRコードだけで割引が受けられるようになっています。

── 障害に関したビジネスとは、垣内社長にとってどのようなものでしょうか?

垣内 講演会などを行うと、多くの方が「親が障害者である」「友人や同僚に障害がある」といった形で、社会的に障害が「他人事」ではなくなってきていると実感します。だからこそ、ビジネスとしてどう取り組んでいくのか、どのようなチャンスがあるのかを考えると、障害のある当事者でなくても事業の糸口が見つかるかもしれません。

「かわいそうな人を手伝う」「社会貢献」といった文脈ではなく、ビジネスの観点から市場とどう向き合うかを真剣に考えていくことが大切だと考えています。

氏名
垣内俊哉(かきうち としや)
社名
株式会社ミライロ
役職
代表取締役社長

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