2016年の創業時、デジタル技術の専門性と変革への意志を持つ人材の少なさに危機感を抱いた土井悠之介氏が設立した、株式会社プロジェクトホールディングス(PHD)。内発的な意思に基づくチャレンジ精神を社会に広げたいという思いが、同社の原点だ。
コロナ禍のリスクを乗り越えつつ、2021年にはIPOを実現。その後、上場資金はM&Aに投じ、人材育成を核とし、AI技術を活用した事業モデルの構築へと、戦略的な転換を図っている。IPO後を中心とした、PHDの事業戦略、M&A戦略、人材戦略を土井氏に聞いた。
企業サイト:https://phd.co.jp/
自社特有のリスクを抱えたコロナ禍と同時期に上場
── PHDの設立は2016年ですが、どのような経緯、課題感を持って立ち上げたのでしょうか?
土井氏(以下、敬称略) 当時はまだデジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉が一般的ではなく、デジタライゼーションやデジタル化の初期段階でした。デジタル技術に詳しい人材とビジネスでデジタル活用を必要としている双方がいる一方、技術を用いたビジネスの変革に取り組む人が非常に少ないというのが、そのころの実感でした。
両者を深く理解しつつ現実的な落とし所を見つけ、既存のビジネスをどう進化させれば変化が実現するのか。そういった戦略的な視点だけでなく、現場に寄り添い、お客様のビジネス環境、カルチャー、働く人々を理解しながら、どのように前進させるかに重きを置いた会社が少ないと感じていました。
さらに本質的な成果に向き合う人が日本全体として少ないのではないか、という課題意識もありました。たとえば、新しい技術が出てきたらそれを取り入れれば良い、といった「正解」を追い求める傾向や、「やるべき」「やった方が良い」という受動的な姿勢が見られます。
社会から与えられたものにどう適応するか、という考えの一方で、「もっとこうなりたい」「こうならなければならない」といった内発的な意思からチャレンジを生み出し、行動に移す人が少ない。これも、日本社会全体の課題だと考えていたことです。
デジタル化という流れとこれらの課題意識を結びつけ、最終的に日本社会を元気にしたいという思いから、この会社を立ち上げました。
そのためには、内発的な動機から行動し、チャレンジする人が社会にもっと生まれる必要があります。まず私たち自身がそのような人々となり、一つひとつの変革を生み出すことで、この価値観や考え方を社会に問いかけていこう。そんなアプローチのイメージを持ちながら、創業に至りました。
── 具体的なビジョンとして「100億円×100事業」を掲げています。こうしたビジョンを目指す中で、2021年9月の上場はどのようにつながるのでしょうか?
土井 当初から掲げている「プロジェクト型社会の創出」という社会を起点としたビジョンを実現するためには、日本を代表する企業になる必要があると考えていました。
ネクストジェネレーションを生み出す企業が社会の担い手としてふさわしいと創業時から考えていたため、最短で上場を目指そうという目標を掲げ、走ってきました。最初から、そこを目がけてやってきたというイメージです。
── 2021年は上場審査が厳しくなった時期です。このタイミングでの上場について、何か意識されたことや準備されたことはありましたか?
土井 正直なところ、特別な対策はできませんでした。
一般論として、上場を目指す上で管理体制の早期構築は不可欠であり、多くのナレッジと体制整備が必要です。また、一定の利益率を維持しながら、社会の担い手としてふさわしい状況をどうつくるか、という点では経営判断はできても実現が困難な状態でした。
事業環境として、2021年はコロナ禍で我々の支援スタイルであるお客様先に常駐し、人間関係を築きながら変革を実現するというスタイルが、リモート前提となり急激に切り替わった時期でもあります。
この変化に危機感を覚え、我々ならではの寄り添いや現場に根差した泥臭さが発揮できなくなるのではないかと、戦々恐々としていました。
現在はお客様と対面することを基本に戻していますが、当時はリモートが必須という制約の中で、人としての寄り添い方やコミュニケーションの工夫につながりました。リモート環境でもお客様の評価を得られたことは良かった点ですが、事業環境としてはリスクを抱えながら懸命に取り組んでいた時期です。
上場で得た資金はM&Aに利用
── 上場審査ではどのようにビジネス戦略を訴えたのでしょうか?
土井 ベースとなる、プロジェクト型社会の創出という理念はしっかりと伝えました。
一方で、事業スキームとしては、DXを軸とした経営改革や業務改革がサービスの根幹であること、それを推進するエンジンとしてさまざまな会社のDXを推進すること、そして自社事業においてもDXを推進し生産性を高められること、を基本に説明していました。
── 上場で調達した資金は、主にどう利用したのでしょうか?
土井 M&A資金という側面があり、またM&Aした先のファイナンスをある程度、我々が引き受けているのでそこにも利用しています。調達した資金で、リスクを取れる環境をつくれたことは大きいですね。
リスクを取れるのでデットファイナンスに対する積極性が高まり、M&Aが進みました。M&Aの土台づくりのための資金調達だったと位置づけています。
── 上場によってビジョン実現のスピードは加速した一方、四半期ごとの決算など、逆に足かせになったと感じることはありませんか?
土井 マーケットから求められる期待に応えなければならないことと、中長期的に成し遂げたいビジョンとの間に、ある種のジレンマを感じることはあります。しかし、それは当然のことだととらえています。
短期的な数字を実現しつつも、中長期的なビジョン達成のためにアクションを取る必要があるならば、既存事業を上振れさせた上で、その余剰でチャレンジをする。この両立を目指すのが、私たちの経営方針です。
事業の選択と集中、そしてAI前提の事業モデル構築
── M&AではアルトワイズやDr.健康経営を買収した一方で、プロジェクトHRソリューションズ(現uloqo)を売却しています。売却時、「グループシナジーが薄れている」と発表しましたが、同じHR領域のDr.健康経営にシナジーがある理由は何でしょうか?
土井 まず人材の採用・育成を通じて事業を生み出すことが重要との前提があります。我々のコアノウハウは、創業以前からの採用力と、エンタープライズ顧客を獲得してきた法人営業力でした。
しかし、そのコアな価値、我々独自の強みを切り売りする発想は、あまり持たない方が良いのではないか、という戦略方針に切り替えました。採用力と法人営業力は社内で育みながら、培った人材で新たなマーケットニーズに応えるサービスを創出する。この発想の転換が、ありました。
そのため、法人営業ドリブンでビジネスを伸ばしているような会社は整理しました。提供価値や仕組みにしっかりと価値がある会社にフォーカスしながら事業選択を行っています。
カルチャーも大きくシフトしました。我々が整理したという側面もありますが、カルチャーの中で戦略シナジーが出ないと判断した会社には、グループから離れてもらうという判断もあります。戦略方針を切り替えた結果です。
── そうした転換を経て、AI事業にリソースを集中しています。AIコンサルティングサービスの新設やM&Aといったピボットの結果、2024年通期決算は営業赤字でしたが戦略的な赤字との見方もできます。
土井 営業赤字の背景には、これまでやってきた方針をガラッと変え、営業ドリブンより人材育成ドリブンへとシフトしたことがあります。結果、組織形態の刷新や事業ポートフォリオの入れ替え、そして選択と集中の徹底が必要となり、これらが赤字の背景です。
その中で次の成長エンジンとして、前提となるのがAI技術の活用だと考えました。
マーケットの流れを鑑みれば、AIがDXのメニューの一つになるのではなく、DX自体がAIベースの前提を持たない限り、お客様に受け入れられないのは自明です。AIを特別な能力ではなく、インターネットやITのように前提知識としてとらえなければ、お客様への変革支援の前提を踏み外してしまうと考えました。
AIチームを組成したのは、特定の専門分野を任せる意図ではありません。全社的な知見として組織全体にAIの知見をビルドインする、あるいは業務プロセスに組み込む役割を、このチームに持たせました。
お客様との案件でもAI関連のものを積極的に営業・受注し、我々としてもユースケースをつくりながら、さまざまな業界のお客様に対してAIベースのオファリングができる環境を整えています。
── M&A後の人材流出を抑えられているようですが、定着している理由は何でしょうか?
土井 ビジョンと人事制度、働く環境、そしてコミュニティとしてのかかわり合いに一貫性が高まったことが大きいと考えています。これらがバラバラだと、フラストレーションが高まります。
これらの整理・一貫化を1年半から2年をかけてやってきました。その結果が、離職率の低減という数字に表れたのだと思います。
── 一貫性を持って人事制度を構築したことの秘訣、あるいは、成功要因はどのように生み出したのでしょうか?
土井 ポイントは私がプロデュースすることだったと思います。
人事のスペシャリストではないため専門家に加わってもらいましたが、戦略やカルチャーを細かなレベルまで落とし込むことには私がコミットし、一貫性を強く意識しました。アウトプットの品質はともかく、一貫性を持たせるという点では高い水準でできたと思います。
── 権限移譲について、会社の変革期で社長がコミットするところと、積極的に任せるところは、どう分けましたか?
土井 一貫性を取ることに注力していたころは、細かなミーティングにも私が顔を出していました。しかし、変革が定着した今年からは権限移譲を始めています。一貫性を持ったフレームワークができたので、人事は人事に任せ、事業系も基本的には各部門に任せています。
私がコミットするのは、管理監督やカルチャーの整合性、各部門から上がる情報の整合性を解く意思決定などといった領域です。
フェーズによって、深く入り込む部分と大胆に権限移譲する部分を使い分けることが重要です。手を突っ込む部分と突っ込まない部分を分ける方が、より良い結果につながる感覚があります。
幹部や若手がチャレンジする仕掛け
── 幹部育成に関しては、どのような取り組みをされてますか?
土井 OJTベースですが、私が発言することを心がけていました。ほとんどの会議に出席し、私の考え方や思考プロセスを伝えるようにしていました。そうしたプロセスをキャッチアップしてくれる人が、役員候補や昇進スピードの速い人材になっています。
また、適切にチャレンジさせることも重要です。ラストワンマイルを担える領域や、自分で責任感を持てる領域をつくらない限り、経営人材としての意識は芽生えないと考えています。
── 新卒採用について、採用に対する考え方や戦略、初任給の引き上げなどについて、現在の状況を教えてください。
土井 新卒だけでなく第二新卒も多いのですが、どちらに対しても共通した思いが「意思を持ったチャレンジャーになってほしい」ということです。人間的なリーダーになってほしいと、伝えています。
気概を持てる人間か、目指す到達点が大きいか、といった点を意識しながら、学生や第二新卒の方々に対応しています。
考え方として重視するのが、「意思を持ってチャレンジした結果、成果を出す」ことです。仕事も早期に任せ、その中で自分なりに考えて行動した結果、成果が出た人には表彰したり、早期に昇進させたりしています。
昇進や昇給は、その幅が大きくなるような評価設計や、早期に昇進できるような仕掛けを常に意識しています。
M&Aでは「人間的」な共通項を重視
── 土井社長が打つ次の一手は何でしょうか?
土井 事業環境とコアな価値観形成ができてきたので、事業拡大を目指したM&Aは積極的に計画したいと考えています。
最も優先度が高いのは、AIベースでの組織変革事業です。採用で対応可能な人材を獲得するよりも、チームで合流してもらった方が一気に効果が出ると考えています。AIチームのケーパビリティーを持ったチームが合流すると、既存サービスの進化に直結すると感じているため、まずはそこを狙っています。
もう一点は差別化です。マーケットはコモディティー化が進み、競合も増えています。我々なりのオリジナリティを表現し、事業としての色をしっかりと出す観点が必要です。採用マーケットに対しても、分かりやすい違いとして発信できるでしょう。
M&Aのポイントは、既存ビジネスのマーケットフィットや進化という観点と、中長期的に見て差別化につながる事業領域でのM&A、この二方向で検討しています。
── M&Aの見極めという点で、社長が必ずチェックする定性的なポイント、たとえば経営者の志や企業文化などはありますでしょうか?
土井 コミュニティとしてのつながりは重視しています。事業体として価値観は変わる部分もありますが、経営チームと我々の間で人間的な共通項、つまり「血を通わせられるか」を定性的に見ています。
思考プロセスがあまりにも違うと合意形成の難易度が上がり、感情的なわだかまりが生まれてしまうでしょう。コミュニケーションの仕方や人間としての共通項があるかは、直感的に確認するポイントです。
── そうした場で必ず伝えていることや、強く求めることはありますか?
土井 日本社会をどう変革するのか、強い日本にどう貢献するのか、といったビジョンは必ず伝えます。この会社を立ち上げた私が熱を持ってやっているので、「一緒に山を登っていきたい」と思ってもらう必要があります。
もし「熱すぎる」「青すぎる」と思われたら、おそらく合いません。しかし、「これを一緒にやっていこう」と思ってくれるのであれば、ぜひ一緒にやりたいです。ビジョンへの共感や共有は、求めている部分です。
── 変革前のPHDしか知らない人には、自社をどう説明しますか?
土井 2024年までは、急激に組織を拡大した歪みを正すべくさまざまな立て直しを行ってきました。戦略、カルチャー、人事評価制度、働く環境といった改革が奏功し、2025年からは権限移譲も進め、新たな戦略、前向きなチャレンジができるタイミングに入ってきています。
再成長に入ったタイミングだと見ていただけると、嬉しいです。
- 氏名
- 土井悠之介(どい ゆうのすけ)
- 社名
- 株式会社プロジェクトホールディングス
- 役職
- 代表取締役 社長執行役員CEO

