「健康に前向きな社会を創り、人類のポテンシャルを引き出す」をミッションに掲げ、2018年に設立した株式会社TENTIAL。代表取締役CEOの中西裕太郎氏は、プロサッカー選手を目指した高校時代に病で夢を絶たれた体験から、健康の重要性を痛感し、起業を決意した。
アスリートの知見と最新技術を融合させたコンディショニングブランド「TENTIAL」を通じて、リカバリーウェア「BAKUNE」をはじめとする製品・サービスを提供し、人々の挑戦をサポートする。中西氏に創業の原点から、事業戦略、組織づくり、そして未来への展望までを語ってもらった。
企業サイト:https://corp.tential.jp/
人の可能性・ポテンシャルと向き合いたい
── プロサッカー選手を目指され病による挫折を経験したそうですが、それが現在の事業にどのようにつながるのか、教えてください。
中西氏(以下、敬称略) 創業の根幹にあったのが、社名にも込めた「ポテンシャル」を大前提に人の可能性と向き合うということでした。その理念は、やはり自身の体験である、体が元気でないことによって挑戦をしたくてもできなくなったという経験によるものです。
こうした経験から健康の重要性は、社会に出てからも深く実感しました。そして、これからもさまざまな人々が年齢に関係なく自身の可能性を追求できるよう、健康という土台に寄与したいと考えたことが、TENTIALを創業したきっかけです。
自身を含め、スポーツ経験をいかに健康に生かせるか、それを通じて一人ひとりがさまざまな挑戦を長く続けられる社会になれば素敵だと考え、この会社を立ち上げました。
── 健康にフォーカスした事業を展開している中で、どのようなプロダクトや事業を手がけているのですか?
中西 まず基本として、アスリートがいかに長く競技を続けられるかという視点から、スポーツをしているときだけでなく、していないときのケアも非常に重要になります。
さらに、アスリートでさえ十分にケアができていない点に着目しました。たとえば、私たちはインソールが事業のスタートです。スポーツ時は足をサポートするインソールを着用していても、歩く時間が長い日常生活では十分なケアができていないという課題があったのです。
そこで、日常生活用のインソール、睡眠を改善できるパジャマなどを開発してきました。私たちは、挑戦する人々がさらに健康を整え、体をコンディショニングできる製品をつくることを目指しており、それがこれまでの商品開発につながっています。
商品を一般の消費者やビジネスパーソンにどう届けるかという観点で、マーケティングを行っています。
── インソールから始まり、パジャマへと事業を転換されたきっかけや、その際に何があったのかを教えてください。
中西 アスリートや挑戦をする方々の日常生活を深く理解する中で、まだまだ私たちが貢献できる余地があると感じました。もちろんプロダクトだけでなく、市場全体も見ています。起業した当時から、健康投資という分野は間違いなく市場全体が大きくなると考えていました。
その中で、パジャマという製品を手がけ、現在に至ります。
商品開発の根底にある「ロマンとソロバン」の両立
── インソールやパジャマなどといった商品開発はどのような考えの下、行っているのでしょうか?
中西 最も重要なのは、お客様がシンプルに価値を感じ満足してくださることです。それはデザインやコミュニケーション、マーケティング以前に、商品そのものの価値を体感していただくことが前提となります。
逆に、どんなに良い商品でもマーケティングがうまくいかなければ多くの方に知っていただくことはできません。その逆も然りで、商品が良くなくてもマーケティングがうまくいけば売れてしまうという現状もあるでしょう。
私たちは、本当に価値あるものをつくることをベースに置きます。その価値を感じてくださる方々が口コミや反響を通じて、より大きな影響を世の中に与えてくださっています。
つくった商品を手に取り、一人でも多くの方が価値を感じていただけることが、私たちにとっての大きな手応えです。
── 理想とするプロダクトと実際にでき上がる商品とのギャップがあると思いますが、それをどう乗り越えているのでしょう?
中西 まさにそれは日々向き合っている課題です。「こんなものがあれば、一人ひとりの健康や生活がもっと豊かになるのに」というアイデアは、たくさんあります。しかし、すべてを実現できるわけではないため、日々優先順位をつけて取り組んでいます。
社内でよく使うのが「ロマンとソロバン」という言葉。ロマンとは、私たちが掲げるミッションである「健康に前向きな社会を創り、人類のポテンシャルを引き出す。」などの理想の社会や夢のことです。一方ソロバンとは、資本市場や事業会社としてしっかりと価値をつくり、売上や利益を上げることです。
この二つのバランスを取りながら、どちらかに偏ることなく両方が回り続けるようなバランスを保つことが、日々事業を進める上で重要だと考えています。
── 2025年2月には、IPOという「ソロバン」の世界にも踏み出したわけですが、上場を目指すという判断に至った経緯は?
中西 上場経験のある会社が、市場を経験して「上場は必要なかった」と語ることはできます。しかし私たちは、その景色や市場のメカニズムを見ていない、あるいは扱っていない会社として、「上場しないほうが良い」と安易に語ることはできません。
むしろ、上場というプロセスを通じて、私たちのミッションやビジョンをどのように達成できるのかに挑戦する方が会社として大きく成長し、結果的に自分たちのミッション・ビジョン・バリューが実現できるのではないかと考えたのです。
それが成功か失敗かは未来にならないと分かりませんが、まずは市場にアタックしたという経緯です。
── 一致団結して上場を目指す過程での組織内のコミュニケーションや気をつけた点などはありますか?
中西 結果としての話になりますが、良くも悪くも上場した翌日、会社の中はそれほど大きく変わっていませんでした。
他の会社はどうかは分かりませんが、何事もなかったように一日がスタートしたと感じています。私も、上場した日にはむしろ「新しいスタートだ」という気持ちになり、あまり喜びを感じる余裕はなかったです。
社内全体が上場をゴールととらえたわけではなく、あくまで通過点として意識していたことが、社員一人ひとりの振る舞いにも表れたのだと思います。
一方、上場したからこそより多くの方にTENTIALという会社を知っていただける機会が増えたことは、確かです。
どのメンバーもバリューチェーン全体を見る組織文化
── TENTIALの勝ち筋はどこにあると考えていますか?
中西 私たちのビジネスは、シンプルに「良いものをつくって届ける」ことです。一人ひとりの生活やコンディショニングに紐づく商品をしっかりと生み出し、それを届けることに集約されます。
そのためには、良い商品をつくり続けられる体制の構築、そしてオンラインを中心としたマーケティングや店舗展開によりブランド体験や商品の魅力を伝えられる場所を増やすことが、重要です。
これらの二つをしっかりと回すために、分析基盤の整備やPDCAサイクルを回せる体制整備も必要となるでしょう。決算資料でも示したのですが、「フィロソフィーに沿ってものをつくり、届け、磨く」というサイクルを回すことが、私たちの成長戦略の核となります。
── その体制作りにおいて、人材や技術といった要素も含め、TENTIALが今後取得していきたいケイパビリティ(能力)は何でしょうか?
中西 「組織」だと考えます。同じ方向を見据えられる組織の人数や規模感は、すぐにつくれるものではありません。私たちの方向性を一致できる組織づくりは、今後、間違いなく重要なケイパビリティになってくると確信しています。
組織づくりで最も重要視しているのは、明確な「ビジョン」です。どこに旗を立て、どのように山を登るのか。そこがブレてしまうと、なぜ今これを行うのか、一年後、三年後にどこへ向かうのか、という点で迷子になってしまいます。
会社のミッション、ビジョンから、どこに旗を立ててどう登るのか、それに対して一人ひとりが何をすべきなのかを、トップが明確な解像度で自信を持って示せるかが重要です。理想を描き、旗を立てること、それが組織を動かす上で最も大切だと考えます。
先ほどの、上場後も社内に変化がなかったことは、同じ方向を見据えているからだと思います。
── 新卒採用も来年から開始されるとのことですが、現時点での中途採用で重視されている点は何でしょうか?
中西 私たちは、新規事業の立案など事業視点でのワークショップを年間を通じて行っています。根底にある思いは、事業計画の策定やそれに伴うグループワークなどを通じて、ビジネスのポテンシャルが高い人、そして私たちのミッションやビジョンに共感し同じ方向を向いてチャレンジできる人と出会いたいということです。
選考では、年間で数億円規模の事業計画を作成するワークショップなどを実施。私からもフィードバックを行いながら、ポテンシャルを見極めています。
── 候補者が複数社を検討する中で、TENTIALが決め手となる理由、すなわち採用市場で勝る点はどこにあると考えていますか?
中西 消費財メーカーなどと比較して、私たちのビジネスは機能が縦割りではありません。マーケティング担当者であっても、商品開発やバリューチェーン全体を見なければなりません。
商品開発からマーケティングまで、全方位のものづくりに関われることは、大きなポイントです。また、まだ成長途上の会社であり、日本を代表し世界をも代表するブランドをつくるという大きなチャレンジに参画できることも魅力の一つです。
一本足打法を防ぎたいからこそBAKUNEに重点投資
── 「BAKUNE」というヒット商品がある中で、一本足打法にならないための戦略や、今後の成功の再現性を市場に示すための根拠となるものは何でしょうか。
中西 それは「事業成長」です。売上と利益の成長率が、最終的な指標になると考えています。もちろん、そのためには商品の満足度やPLG(プロダクトレッドグロース。プロダクト主導の成長戦略)も重要ですが、BtoCビジネスである以上、お客様から信頼され、お金を払っていただけたかどうかが、重要な指標です。
持続的に成長するということは、再現性をもって事業を推進できた証だと考えます。現在、売上・利益が伸びているタイミングだからこそ、その再現性をシェアすることが重要です。
将来的にはポートフォリオを分散させることも視野に入れていますが、この意味から現状においては意図的にBAKUNEへの戦略投資を行いシェアを拡大を図ることが、後々、他のプロダクトが存在感を出せる環境づくりにもつながると考えています。
── 今後の事業投資の方向性について、どのような分野に投資を行う予定ですか?
中西 「ものづくり」です。良いプロダクトをつくり続けることがベースにあり、それに加えてマーケティングやブランド投資が基本的なテーマとなります。
ここでは短期と長期の両方の視点が重要です。短期では、足元の業績を達成すること。長期では、世界で選ばれる日本発のブランドになることです。
それらを通して最も大切なことは、目の前のお客様に対して価値を届けることに尽きます。いかに目の前のお客様を喜ばせられるか、その結果として短期の成長と長期のブランドが築けると考えます。
だからこそ、私たちの商品、ブランドを認知していただけたら嬉しいです。
- 氏名
- 中西 裕太郎(なかにし ゆうたろう)
- 社名
- 株式会社TENTIAL
- 役職
- 代表取締役CEO

