在宅医療・介護事業者支援のための収益改善プラットフォームを開発する、株式会社ゼスト。2022年8月、株式会社ミダスキャピタルが運営するファンドからの出資を機に、一色淳之介氏が代表取締役社長CEOに就任した。
同氏はP&Gジャパン合同会社などでキャリアを積み、ゼストの代表就任後はプロダクト刷新や営業組織の仕組み化、開発力強化で売上を拡大している。
今後は、国内事業だけでなく、海外展開やBtoCサービスへの進出も視野に入れる一色氏に、未経験の業界に経営者として飛び込んだ真意、事業拡大の裏側を聞く。
企業サイト:https://zest.jp/corporate
目次
ファンドによる出資を機に代表就任
── 事業である医療・介護向けプラットフォームを含め、会社の全体像を教えてください。
一色氏(以下、敬称略) 2022年8月に株式会社ミダスキャピタルが運営するファンドから出資を受け、そのタイミングでCEOとして参画しました。
私自身、前職では投資やコンサルティングを行う会社に創業初期から関わり、上場も経験しています。また、投資先エンターテインメント企業でも、事業再生・上場に貢献しました。新たなチャレンジとして、私自身も出資しながら自ら代表に就任し、3年ほどが経過しました。
当初は、オフィスもなく、社員も3人という状況からのスタートでした。そこから営業・マーケティング・開発・管理本部を管掌する各役員陣に参画してもらい、規模を拡大し、成長。もともとゼストは、在宅医療・介護領域におけるスケジュール調整に特化した、いわゆるミニマムバリアブルプロダクト(MVP)をもつ企業でした。
その後、開発チームを内製化し、現在のCTOである豊島正規がチームを率いる形で、2024年の初頭に現在のプロダクトをリリースしました。このリリースを機に、事業は急加速しています。
単なるスケジュール調整ツールにとどまらず、お客様の経営における重要なポイントをSaaSで支援できる、経営・事業全体の支援ツールへと立ち位置を変えていったのです。
具体的には、収益の最大化、職員確保が困難な介護・医療分野における働く環境の改善、さらに利用者へのサービス・品質が向上するよう、プロダクトを磨き上げたということです。現在、事業単体で社員は約50名強となり、この3年強で在宅医療・介護SaaSの売上規模は約35倍にまで成長しています。
── これまで、医療・介護分野での経験がなかったそうですが、ゼストに参画を決意した理由は何でしょうか?
一色 大きく分けて三つの理由があります。
一つ目は、マーケットの将来性です。日本はすでに高齢化社会と言われていますが、2040年までその傾向はさらに進みます。つまり、マーケットが縮小するのではなく、人口構造的にも社会の流れとしても、今後ますます拡大する分野です。病院中心から在宅へとシフトさせる流れもあり、非常に大きな成長が見込めるマーケットだと判断しました。
二つ目は、医療・介護分野への貢献可能性です。私自身は医療・介護従事者ではありませんが、経営という観点からデジタル技術を活用した効率化を進めることで、業界に貢献できる余地は大きいと感じました。マーケティングや経営戦略、事業再生の経験を生かし、専門的な医療・介護の知見と掛け合わせることで、業界を進化させられると考えたのです。
三つ目は、環境面の魅力です。すでに成熟した企業というよりも、ゼロから、あるいはそれに近い状態から事業をつくり上げることに魅力を感じました。前職でも、社員数名という創業フェーズから参画し、社長と同じマンションで暮らしながら仕事をした経験もあります。そういった創業期ならではのワクワク感や、ある意味で自由に挑戦できる環境に惹かれました。
プロダクト刷新で苦境迎えるも、顧客と規模が拡大する結果に
── 先ほど、売り上げが当初の約35倍ほどに拡大したとの話がありましたが、この成長につながる大きな転換点やターニングポイントは何でしょう?
一色 やはり、「人」が最も大きな要因だと考えます。弊社の強みの一つは、営業組織です。SaaSビジネスは、契約して終わりではなく、カスタマーサクセス部門がお客様をサポートし長く活用されなければなりません。そのプロセスを担う営業組織の構築に、成功したと考えます。
また、開発組織も重要です。優秀なエンジニアを採用するのは容易ではありませんが、経験豊富な多くのエンジニアたちが正社員として参画しています。
営業本部の長である河合(取締役 CRO 営業本部長 河合亮氏)は、新卒でキーエンスに入社、その後セールスフォースなどの外資系企業で活躍した経験豊富なメンバーです。河合が中心となり営業組織の仕組みづくりを行いました。開発は、上場企業でSaaS開発を成功させた経験を持つCTOの豊島(取締役 CTO 開発本部長 豊島正規氏)を中心に、現在のプロダクトをゼロからつくり上げました。
こうした優秀な仲間たちが集まったことが、事業を大きく加速できた要因だと考えています。
── 経営の中で、壁やハードルとなったことは何でしたか?
一色 プロダクトの全面的なつくり直しですね。2024年3月に現在のプロダクトをリリースしましたが、それまでの期間は開発が非常に大変な状況でした。開発リソースのほとんどを、新プロダクトの構築に充てていたような状態です。
もともとのプロダクトは、機能が限定的で、技術的にも古く、外部委託でつくられた部分も多かったのです。継ぎはぎのような状態でした。そういった意味では持続可能性がないため、つくり直しは必須でした。
一方、そのプロダクトをお客様へ提供中だった現実もあります。新しいプロダクトが出るまでの間、既存プロダクトに新しい機能を追加することも難しく、お客様に新しい価値を届けられない状態は精神的に辛いものがありました。
結果的に、新しいプロダクトの開発に1年以上を費やしています。
── その期間、営業活動も一時的にストップしていたのですか?
一色 いいえ、営業活動は継続していました。これは非常に大きな挑戦でしたが、お客様に価値を提供し続けながら、新しいプロダクトの開発を同時進行できました。この期間を支えてくれた河合を中心とした営業チームには感謝しかありません。
そして2024年3月に新しいプロダクトをリリースし、既存のお客様もスムーズに移行されました。既存のお客様も、大きな離脱なく新しいプロダクトへ移行し、満足度も向上しました。
── その成長に伴い、人員も大きく増やされたのですね。
一色 はい。新宿のオフィスも、2024年1月時点ではスカスカでしたが、現在では手狭に感じるほどです。直近1年半で、社員数は劇的に増えています。
「仕組み」視点のプロダクトで広がる海外展開の可能性
── 今後の市場の成長性と競争優位性について、教えてください。
一色 国内市場だけでも、高齢者人口は現在の約3600万人から2040年に3900万人を超えると予測されています。さらに、病院から在宅へのシフトや独居高齢者の増加に伴う施設需要の高まりなどを考慮すると、2025年から2040年までに全体で2倍、3倍以上の市場の伸びがあるというのが、業界での見込みです。
日本は世界でも最も高齢化が進んでいる国ですが、韓国、アメリカ、ヨーロッパ、アジア各国も同様に高齢化が進んでいます。将来的には、日本が培ってきたノウハウの海外への展開も視野に入れています。
競争優位性という点では、多くのITツールが電子カルテや診療報酬請求システムといった患者さんの病状記録や請求システムに注力しているのに対し、ゼストは在宅医療・介護における「人の動き」という視点から開発したものです。
具体的には、スケジューリングや移動、さらには施設内での勤務中の作業管理など、これまでアナログで行われてきた部分をデジタル化する、いわばホワイトスペースを切りひらいています。
その上で、ゼストの優位性は三点あります。一つ目は、訪問スケジュール作成サービスにおけるゼストの認知度です。二つ目は、開発力。医療・介護現場の「人の動き」に着目したシステム開発に、リソースを集中できている点が強みです。三つ目は、特許を取得している点です。
これらが、競争での差別化につながっています。
── 海外進出も視野に入れているとのことですが、ヘルスケア分野での海外展開は一般的にハードルが高いと聞きます。
一色 その通りで、ヘルスケア分野は各国の保険制度や医療システムに大きく依存するため、海外展開は容易ではありません。
しかしゼストのプロダクトは、医療・介護の「中身」ではなく、人の移動やスケジューリングといった「仕組み」に焦点を当てたものです。Google Maps APIなどを活用しており、グローバル展開しやすい領域だと考えています。
── 医療現場のデジタル化は、これまでアナログな部分が多かったと思いますが、現場への浸透をどのように進めてきたのですか?
一色 非常に大変な道のりでした。まず、定量的な実績をしっかりと収集し、効果を可視化することに注力。たとえば、売上の伸びや非生産的業務の削減といった具体的な成果の可視化が、挙げられます。
また、赤十字様のような大規模な組織への導入実績も、信頼獲得につながりました。さらに、公的機関と連携した実証実験なども行い、データに基づいた効果分析を重視しています。
はじめは、興味を持たれたお客様から順にアプローチしていました。大規模な組織は、セキュリティー面などで慎重な検討が必要ですが、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)認証の取得や、国のガイドラインへの準拠などを進めることで、導入されるようになりました。
── 医療・介護の現場とのコミュニケーションや提案において、以前と比べて話しやすくなったと感じることはありますか?
一色 はい、感じています。上層部の方々は、IT化やDX推進の必要性を認識していますが、現場の方々は日々の業務への悪影響(煩雑性が増えること)を懸念することが少なくありませんでした。
しかし、ゼストの名前を聞いたことがある、あるいは利用しているという声が増え、親近感を持ってもらえるようになり、受け入れられやすくなりました。これは、ユーザー間の口コミが非常に効果的であるという、マーケティングの好例でもあります。
── 顧客獲得のための営業活動は、口コミ以外にどのような方法で行っていますか?
一色 展示会やデジタル広告、無料セミナーの開催など、多岐にわたるマーケティング活動を行っています。これらの活動を通じて見込み客を獲得し、営業担当者が提案する流れです。
直近のシリーズB資金調達では戦略的なパートナーが出資
── 高齢者が増え市場は伸びる反面、就労人口は減っています。人材や組織の現状はいかがでしょうか?
一色 強みとしては、営業組織として仕組み化が進んでいる点です。個人の能力に依存するのではなく、組織として事業を進行できる体制が整いつつあります。
一方で、今後の課題はやはり採用です。事業をさらに拡大するためには、継続的な採用が不可欠です。そのため、採用ブランディングや認知活動にも力を入れる必要があります。
── 採用において、特に重視している点はありますか?
一色 営業職においては、素直さと愚直さです。弊社の営業は、仕組みで動くことを重視しており、自己流で進めようとするとうまくいきません。弊社の営業手法や仕組みを素直に吸収し、愚直に取り組める方を求めています。
医療・介護分野での経験よりも、重視するのは以上のような「姿勢」です。現在、20代、30代の若い世代を中心に採用を進めています。
── 直近で資金調達はありましたか?
一色 2024年末、シリーズBラウンドで資金調達を完了しました。
今回の調達では単に資金を得るだけでなく、事業を加速させたり新しいアイデアをもたらしたり、さらには業界のプレイヤーとの連携を深めたりすることができる投資家との関係構築を、重視しました。たとえば、日本生命様やエムスリー様、農林中金キャピタル様など、出資したのはそれぞれの分野で強みを持つ企業です。
これにより、事業面でのアライアンスも進んでいます。
調達した以上、IPOは設定すべき通過点であり、そのための準備は進めています。時期については明言できませんが、IPOを計画している段階です。
今後はtoC事業にも進出
── 事業を推進する上で、最も大切にされていること、譲れないこだわりは何でしょうか?
一色 一つはSaaSである以上、お客様に売って終わりではなく常に進化し続けることです。お客様が目的を達成できるようサポートし、私たち自身も絶えず進化し続けることが重要だと考えています。
お客様の継続率や成果につながっているかという点は、会社として絶対に大切にしていかなければならない点です。
もう一つは、業界を持続可能な環境にすることです。高齢化が進み社会保障費が増大する中で、この業界をいかにサステナブルにするか。新しいアイデアを通じて、課題解決に貢献できるチャレンジをしたいと考えています。
この事業の醍醐味であるとも、感じています。
── 今後、どのような世界を実現したいと考えていますか?
一色 現在は、訪問看護、介護、訪問診療、施設向けにBtoBのSaaSを提供していますが、来年度以降はその先のBtoCサービスも展開する予定です。高齢者とそのご家族を対象としたサービスです。
これは単にサービスを提供するだけでなく、社会保障費の圧迫といった課題に対し、民間としての収益を訪問看護・介護・施設に還元できる仕組みを構築したいと考えているからです。
公金に大きく依存するモデルに加え、そのような仕組みを加えていくことで、より持続可能な形を目指します。そして、高齢化社会における課題解決のパッケージができあがったら、海外展開のチャレンジをしていきたいと考えています。
── 来年からは、その新しいサービスも展開されるのですね。
一色 はい、MVPをリリースし、徐々に広げる計画です。開発チームとプロダクトマネージャーを中心に、推進していきます。
- 氏名
- 一色淳之介(いっしき じゅんのすけ)
- 社名
- 株式会社ゼスト
- 役職
- 代表取締役社長CEO

