栄建設株式会社

北海道岩見沢市を拠点とする、栄建設株式会社。創業以来、一般土木、農業土木、維持・管理工事などを中心に事業を展開してきた、建設会社だ。

業界が抱える担い手不足という課題に対し、モータースポーツ参戦や地域活動を通じたPR・採用は、北海道内で注目を集める。

代表取締役社長の佛田尚史氏に、独自の経営戦略と狙いを実現するための取り組みを聞いた。

佛田 尚史(ぶつだ たかし)──代表取締役社長
1971年、北海道生まれ。栄建設創業家の二男であったものの、家業を継がずアパレル業界へ進む。前代表である兄の死去に伴い、2017年、代表取締役社長に就任。
栄建設株式会社
1963年、設立。北海道岩見沢市を拠点とする建設会社。一般土木、農業土木、維持・管理工事、除排雪業務、警備業務を中心に事業を展開。担い手不足が課題となっている建設業において、業界を盛り上げイメージアップを目指し、モータースポーツ参戦や地域活動を通じた業界PRを行う。
企業サイト:https://sakae-con.net/

目次

  1. レーシングドライバーを自社に就職させるという斬新な採用手法
  2. アパレル業界での経験がもたらした改善
  3. 建設業界の前例にとらわれない戦略的な財務の取り組み
  4. 持株会社化で地方都市の未来に貢献する

レーシングドライバーを自社に就職させるという斬新な採用手法

── モータースポーツ活動やメディア露出に積極的な理由は何ですか?

佛田氏(以下、敬称略) 弊社のモータースポーツ活動は、もともとCSR(企業の社会的責任)事業として、そして地域貢献の一環として始めました。建設業界のPRをしたいという思いがあり、ちょうど2023年に創業60周年を迎えるにあたり、2022年にレーシングチームを立ち上げたのがきっかけです。

当初はCSRという位置づけでしたが、結果的にメディアで取り上げられる機会が増え、現在は企業スポーツとして社内で取り組んでいます。

── モータースポーツ活動が、具体的にどうPRにつながっているのでしょうか?

佛田 モータースポーツ活動を通じて、レーシングドライバーとの交流が生まれます。ドライバーを目指す若者は、収入面での厳しさやモータースポーツへの参加自体に大きなコストがかかるという課題を抱えています。

そこで、「弊社に就職してドライバーを目指しませんか」と、新たな採用の形を提案しているのです。結果的に、建設業界全体のPRにつながり、担い手育成という側面も持つようになりました。これは、行政などの発注者からも評価されています。

── 建設業界全体が抱える担い手不足の解消にも貢献する、珍しい取り組みですね。

佛田 弊社は売り上げの95%以上が公共工事ですが、それを請け負う建設会社はPRが苦手な傾向があります。かつての建設業界は「横並びでなければならない」という考え方が強く、自分たちから積極的に発信する文化があまりありませんでした。

しかし人手不足が深刻化する中で、業界内でも自ら発信することについて話題に上るようになっています。弊社のような中小零細企業こそ、積極的な発信が必要です。PRを経営資源の一つとしてとらえ、取り組んでいます。

── 建設業界全体として、PRの経験が浅いという現状があるのですね。

佛田 ええ。市場規模は大きいにも関わらず、広告費への投資は一般的な企業に比べて非常に少ないのが現状です。役所から仕事をもらうという感覚が強く、自社で発信することにお金をかけてこなかったのです。

しかし、今後はそうした姿勢では立ち行かないと考え、PRに力を入れています。

アパレル業界での経験がもたらした改善

── 栄建設の創業は1963年だとか。

佛田 1963年、私の祖父が地元である空知で、粘土質の土地を工作地に変える「起動暗渠」という仕事を始めたことが起こりです。

2023年には創業60周年を迎えましたが、事業の根幹は土木建設業です。具体的には、この地域で盛んな農業基盤整備事業(いわゆる農業土木)、一般土木工事、そして近年重要性が増している道路メンテナンスの三つが柱となっています。

── それぞれの事業の詳細も、教えてください。

佛田 農業土木では近年進む大規模農業化やICT化に対応するため、田んぼの大区画化といった事業を多く手掛けています。一般土木工事では、道路や下水、橋梁などを建設します。道路メンテナンスは、文字通りの仕事です。以前は付帯的な業務でしたが、災害への意識の高まりなどからその比率が上がってきています。

建築関連の免許もありますが、基本的には土木専業の会社として事業を展開しています。

── 2017年の社長就任から社員数が倍増したとのことですが、その成長の要因は何でしょうか?

佛田 先代の時代は、仕事を受注してもすべて下請けに任せる多重構造が一般的でした。しかし、人材不足が深刻化すると下請けの方が強くなり、収益力が低下するケースもあります。そのため、成長で人員を増やしたというより、時代の変化に合わせるため規模を拡大した形です。

もちろん、ただでさえ人手不足ですから求人票を出せばよいわけではなく、工夫が必要です。弊社では、会社の制服をカジュアルに変更するなど、デザインに力を入れました。これがメディアに取り上げられ、若い人が「面白そうな会社だ」と興味を持ってくれるようになりました。

── 制服のデザイン変更が、人材獲得につながったというのは興味深いですね。

佛田 私がアパレル業界にいたことも、影響していると思います。デザイン面だけでなく、会社の構造や人材確保の考え方を時代に合わせていこうというのも、アパレルの経験から変革が必要と考えたためです。

アパレル業界では、SPA(製造小売業)のように、自社で企画・製造・販売まで行うスタイルが主流となりました。建設業界も同様に、人がいないのであれば自社で人材を育成し、内製化を進める必要があると考えたのです。

社長就任時の社員数は20名程度でしたが、現在は役員含め55名になったため、業務の内製化を進めています。そのため、収益構造も大きく変わりました。

昨年は、警備部門も立ち上げました。さらに、建設業に特化した人材派遣会社も設立中です。この理由は、建設業における人材派遣が法的に難しい面があるため、人材派遣業法に基づいた会社を設立する必要があったからです。

建設業界の前例にとらわれない戦略的な財務の取り組み

── モータースポーツをCSR活動としてはじめたのも、佛田社長のキャリアが影響しているのでしょうか?

佛田 そうかもしれませんが、より大きいのはBtoCの視点を持つことを重視したからです。

建設業界の人々は、「縁の下の力持ち」との意識が強く、表に出ることを避ける傾向がありました。しかし、税金で成り立つ側面もある以上、地域住民への貢献という視点が重要だと考えています。

そこで、モータースポーツや地域貢献活動を通じてCSRを重視する姿勢を示したのです。これはBtoCの視点であり、地域社会への貢献が結果的に地域経済の活性化につながると考えています。

── 発注者との関係も、従来と変化があったそうですが?

佛田 以前は、協会や組合を通じて発注者と接していましたが、意思決定に時間がかかり、自分の意見が通りにくいと感じていました。そこでSNSなどを活用し、自社で積極的に情報発信を行うよう、方針を切り替えたのです。

結果、発注者が弊社の取り組みに注目してくれるようになり、直接、意見交換をする機会が増えました。

── CSR活動や広報が、発注者との関係構築に貢献しているのですね。

佛田 はい。たとえば北海道開発局長や振興局長といった方々と、以前は話す機会すらありませんでしたが、今では直接、意見交換ができるようになりました。やはり、会社としてPRに力を入れ、新しい取り組みの発信に注目が集まったための変化です。

CSR活動を通じて地域に貢献する姿勢を示すことで、発注者との関係性が円滑になり、工事の提案なども通りやすくなりました。

── 財務面についても積極的だそうですね。

佛田 公共工事を請け負う企業は納税額が重視されるため、実のところ財務面で積極的な取り組みをする企業が少ないのです。財務戦略で会社を効率化するより、できるだけ利益を出して納税しようという考え方ですね。

しかし、弊社は前述の道路メンテナンス業に力を入れる他、除排雪業務にも取り組むことで、売り上げの変動を可能な限り抑制。収益の平準化に努めています。また、除雪用ロータリー(除雪車)などの設備投資も積極的に行い、内製化を進めることで、仕事のスピードアップと収益構造の改善を図りました。

── ドローンやICT施工といった新しい技術への投資も進めているとか。

佛田 はい。ICT施工は、若い世代がタブレットなどを使いこなせるため、時代との親和性が非常に高い投資です。ICT施工を一つのビジネスチャンスととらえ、機材への投資を進めています。

また、人的な投資、つまり人材育成も力を入れている業務です。高卒・大卒の採用チャネルを増やすなど、優秀な人材の確保に努めています。

持株会社化で地方都市の未来に貢献する

── この先、どういった方向性で成長を目指すのか、教えてください。

佛田 将来的には持株会社化を目指し、地域課題を解決する企業グループを構築する考えです。人材派遣会社を設立したのは、その第一歩です。人口減少が進む地方において、企業グループが地域経済を支える存在になることが求められるでしょう。

── 具体的には、どのような事業を展開する考えですか?

佛田 建設業だけでなく、地域に根差したさまざまな事業を展開し、地域経済の活性化に貢献したいです。たとえば、地方の小規模な街では建設会社が公共施設の指定管理者としてプールの監視員を育成したり、土産物店やタクシー会社を経営したりするケースがあります。

人手不足が深刻化する中で、事業規模を拡大し、地域を支える存在になることが、私たちの使命です。

── 先ほども会社を時代に合わせて変化させたという話がありましたが、人材の面で時代に適応させたり社長が取り組んだりしていることはありますか?

佛田 社員が「いわれたことしかやらない」という状況を避けるため、トップダウンで指示することは極力、避けています。

また、私自身が建設業の経験が浅いため、専門的な技術については社員に任せるというのが、大まかな方針です。その方が、組織は活性化し、社員の自律的な意思決定を促せると考えるからです。

また、私は極力会社にいないようにしています。社員が働きやすい環境をつくるため、率先して帰宅するように心がけています。

── 社長が会社にいないほうが、社員は働きやすくなるというのは、面白い考え方ですね。

佛田 はい。社員が自由に働ける環境をつくることで、組織全体の活性化につながると信じています。

また、メディアでのPR活動を通じて、社員のエンゲージメント向上や、インナーブランディングの強化にもつながっています。メディアに鍛えられたことで、共感を生むことの重要性を学びました。

氏名
佛田 尚史(ぶつだ たかし)
社名
栄建設株式会社
役職
代表取締役社長

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