本記事は、田渕 直也氏の著書『教養としての「債券」』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。
金利が上がると価格が下がるのはなぜ
債券価格は、市場で取引される実勢の利回り、つまり市場金利の水準によって変わります。具体的には、金利が上がれば債券価格は下がり、金利が下がれば債券価格は上がります。
債券に馴染みのない人にとっては、この金利と価格の逆比例関係が債券をわかりにくいと感じさせる点なのでしょうが、逆にいえば、これをしっかりと押さえることができれば、債券への理解はぐっと進むことになります。
ちなみに、ここまで金利が変化することで価格が変わるという説明をしてきました。おそらく通常の債券市場においては、このように金利を主語に置く説明のほうが実態に近いことが多いと思います。一方で、「債券価格が急落した結果、金利が上がった」という言い方がされることもあるかと思いますが、それは間違いなのでしょうか。
実はそうとも言い切れません。市場でパニック的な債券売りが発生し、結果的に金利が上昇しているようにみえることも多々あるのです。
しかし、さらにいうならば、債券価格の下落と金利上昇、あるいは債券価格の上昇と金利低下は一つの現象の表裏であり、どちらが原因でどちらが結果というよりも、同じものを違う角度でみているだけと捉えるのが最も的確かもしれません。
とはいえ、金利の変動と債券価格の変動のあいだにどのような関係があるのかをみていくうえでは、従来どおり、金利の変動を起点とした説明のほうがわかりやすいでしょう。ということで、たとえば市場実勢金利が⃝⃝%上がったら債券価格はどのくらい下落するか、といった問題をここから考えていきます。
例として、残存5年、クーポン年2%、1年払の固定利付債があり、市場価格が100円であるというところから話を始めます。この債券の1年複利利回りはちょうど2%です(*1)。
(*1) 価格が100円の場合、クーポンの支払頻度と複利の計算頻度が同じである限り、必ず、複利利回り=クーポンレートになります。
それが、現時点における期間5年の市場実勢金利ということですね。
では、景気に過熱感が出てきて、将来の物価が押し上げられるかもしれないという観測が浮上し、この期間5年の市場実勢金利が2.2%に上がったとしましょう。その場合、債券価格はどう変化するでしょうか。
複利利回りの説明のところで、次のような式が登場しました。
++… + = P
そこでは、C、n、Pに値を入れて、両辺を等しくするrを逆算したものが1年複利利回りであると説明しましたが、C、r、nに値を入れれば、Pを計算する式にもなります。これを使うと、rが2.2%になったときの債券価格を計算できるわけです。
実際に計算してみると99.063円となり、0.937円下がることがわかります。率でいうと0.937%の下落です。0.2%の金利上昇で、価格は0.937%の下落ですから、金利変動幅のおよそ4.69倍の率で価格が動いていることになります。
さて、債券投資の収益源には、クーポンから得られるインカム・ゲインと、価格差から得られるキャピタル・ゲインがあるという話を以前にしました。市場実勢金利が0.2%上がったということは、投資家が求める利回り水準がそれだけ上がったと考えることができます。しかしながら、クーポンレートは発行時に決められて、その後は変わりません。市場実勢金利の水準が2.2%に上がっても、クーポンレートは2%のままであり、この部分は投資家が求める水準よりも0.2%分不足してしまうのです。
したがって、その債券へ投資したときの利回りが市場実勢水準にまで上がるためには、もう一つのキャピタル・ゲインを増やさなければなりません。このキャピタル・ゲインは、満期時に戻ってくる額面金額(100円)と購入価格の差でしたから、キャピタル・ゲインを増やすためには価格が下がらないといけないのです。
でも、利回りを0.2%引き上げるのに、なぜ価格は0.937%も下がったのでしょうか。それは、インカム・ゲインが満期までのあいだ、継続的に発生するものなのに対して、価格の変動は現時点でだけ発生するものだからです。
インカム・ゲインのマイナス0.2%は、満期までの5年間にわたって続きます。それを現時点だけで動く価格の下落で補うには、0.2%の5年分、すなわち1%くらいの価格下落が必要になるということです。
実際の価格変動率は、
(クーポンレート - 市場実勢金利) × 残存年数
よりも少し小さな値になるのですが、その話は後ほどするとして、「クーポンレートが市場実勢レートを下回っている分を補うために、価格はそのレート差に概ね残存年数を掛けたくらいの率で額面よりも下がらなければならない」というのが金利と債券価格の基本的な関係になります。
逆に市場実勢金利が下がった場合も、同様に考えることができます。期間5年の市場実勢金利が1.8%になったとします。そうすると債券価格は、100.948円に上がります。率にして0.948%、金利変動幅の4.74倍の上昇です。
今度は、1.8%の利回りがあればいいのに、クーポンレートは2%もらえます。このインカム・ゲインにおける0.2%の超過分のおかげで、キャピタル・ゲインがそのおよそ残存年数倍減っても、求める利回りが達成できるのです。
金利が変動すると債券価格はなぜ変化するのか。それは、市場実勢金利が変化してもクーポンレートは変わらないので、その分価格が動かなければ市場実勢の利回りが実現できないからということになります。
ここでは、わかりやすくするために、価格100円、クーポンレート=市場実勢金利という状態から話を始めましたが、この条件を外しても同じことが成り立ちます。市場実勢金利が上がったら、固定されたクーポンレートはその分だけ価値が減ることになります。それを補うために価格が下落することが必要です。金利が下がった場合も同様ですね。したがって、より一般的には、市場実勢金利が変化したら、概ね、
- 市場実勢金利の変動幅 × 残存年数
分だけ債券価格が変化することになります。頭についているマイナスの符号は、金利の変動と価格の変動が逆方向であることを示すものです。
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