本記事は、田渕 直也氏の著書『教養としての「債券」』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

教養としての「債券」
(画像=Dilok/stock.adobe.com)

社債の利回りはどのように決まるか

金利変動リスクと並ぶ債券のもう一つの主要リスクである信用リスクについて取り上げます。
まずは、典型的に信用リスクが含まれる社債の価格がどう決まるかについて考えます。もちろん、社債の価格の背後にも利回り(以降、利回りといえば最終利回り、終利のことを指します)が存在するので、この問いは、社債の利回りはどう決まるかと置き換えることができます。
社債には、デフォルトリスクが存在します。社債の発行企業が債務不履行(デフォルト)の状態に陥って、債券保有者に対して約束どおりの元利支払ができなくなるリスクです。
そうしたリスクがある分、リスクフリー、つまりデフォルトリスクがないと考えられる債券に比べて、価格は安く、利回りは高くなっていなければ、投資家は社債にお金を投じようとはしないでしょう。では、利回りはどのくらい高くなるべきでしょうか。
それは、社債発行企業がどのくらいデフォルトになりそうかということに依存します。ある企業がどのくらいの確率でデフォルトになりそうかという推定値を、デフォルト確率(PD、Probability of Default)といい、一般的には年率で表します。

デフォルト確率の推計には様々な分析が必要ですが、まずは架空の社債発行会社ABC商事のデフォルト確率が1.0%と推計できたとして話を進めましょう(*1)


(*1) デフォルト確率が年率で1.0%というのはかなりリスキーな債券です。普通の社債のデフォルト確率はもっと大幅に低いことが普通です。


話を簡単にするためにABC商事が発行した残存1年の債券があるとすると、その社債保有者は、今後1年間に99.0%の確率で何事もなく元利を受け取り、1.0%の確率でデフォルトになってしまうと予想することができます。
ちなみに、デフォルトになった場合、その債券の価値がゼロになるとは限りません。債務を全額返済できなくなった状態がデフォルトですが、そうなったら債務がすべて消滅するわけではありません。返済義務自体はなくならないので、全額は返済できなくても返せる分は返さないといけないのです。
前にも触れましたが、デフォルトになると経営は破綻したとみなされますから、多くの場合、会社更生法や民事再生法、あるいは破産や特別清算などといった法的な破綻処理に進んでいくことになります。通常は、そうした手続きのなかで既存の債務をどれだけ返済していくかを決めていきます。
このようにして最終的に返済される割合が決まるには長い時間がかかりますが、デフォルトした債券にも、そうした将来の回収割合を見込んで、何らかの値段が付くことになります。価格は、額面100円に対して大幅に値引きされた価格、たとえば10円や20円といった価格で取引されることが多いでしょうが、場合によっては、そこまで安くならないケースもあります。
デフォルトになったときにでも回収できる割合を回収率といいますが、債券の場合はデフォルト後の取引価格で回収率を計算することが一般的です。デフォルトした債券が本来は100円で取引されるべきところを20円で取引されているなら、回収率は20%です。損失になるのは、その回収率を引いた残りの80%部分で、この比率をデフォルト時損失率(LGD、Loss Given Default)といいます。
もちろん、実際の回収率、そしてLGDがどのくらいになるかは事前にはわからないので、これも推定しなければいけないのですが、ここでは回収率20%、すなわちLGD80%と推定できたとして話を進めます。
先ほどのPDとこのLGDを掛け合わせることによって、デフォルトによって生じる損失率の期待値を知ることができます。
以上を踏まえて、もう一度、残存1年のABC商事債に投資したときの予想されるシナリオを整理します。話を簡単にするために、価格は100円で、リスクフリーの(デフォルトリスクがない)利回りをゼロとおき、この社債のスプレッドをs、したがってクーポンレートもsとすると、

99.0%
…… 100×(1+s)のキャッシュフローが得られる
1.0%
…… デフォルトが生じ80%分の損失が生まれる
(20%分~ 100×(1+s)×20%~ は受け取れる)

社債の受取キャッシュフローの期待値はこの2つのシナリオで生じるキャッシュフローに発生確率を掛け合わせたものの合計として計算できます。99.0%の確率で100×(1+s)、1.0%の確率で100×(1+s)×20%、この合計ということですね。
一方、同じ残存1年で価格100円のリスクフリー債券があれば、利回りをゼロとして1年後には額面の100円が確実に得られます。それと比較して社債が見劣りしないためには、社債の受取キャッシュフローの期待値が少なくとも100円でなければなりません。両者の期待値が等しくなる条件を探ると、

99.0%×100×(1+s)+1.0%×100×(1+s)×20%=100

という関係が導かれます。
これをsについて解くと、sはおよそ0.80%となります。このおよそ0.80%という値は、予想デフォルト確率(PD)1.0%に予想デフォルト時損失率(LGD)80%を掛けた値とほぼ同じです(*2)
つまり、デフォルトで発生すると予想される損失率の期待値(=PD×LGD)をカバーできるスプレッドが確保できれば、社債投資は十分に合理性のあるものになると考えることができます。
さらに、もしその水準を上回るスプレッドがついていれば、少なくとも期待値で比較する限り、社債への投資はリスクフリーとされる国債への投資よりも高いリターンを期待できるものになります。


(*2) 厳密に解くと、s= PD×LGD 1-PD×LGD となります。さらにリスクフリーの利回りがrなら、s= PD×LGD 1-PD×LGD (1+r)ですが、PD×LGDでも十分に近い値が得られます。


教養としての「債券」
田渕直也(たぶち・なおや)
1963年生まれ。1985年一橋大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行に入行。海外証券子会社であるLTCB International Ltdを経て、金融市場営業部および金融開発部次長。2000年にUFJパートナーズ投信(現・三菱UFJ国際投信)に移籍した後、不動産ファンド運用会社社長、生命保険会社執行役員を歴任。現在はミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表取締役。シグマインベストメントスクール学長。『金融と投資のための 確率・統計の基本』『教養としての「金利」』『ランダムウォークを超えて勝つための株式投資の思考法と戦略』『[新版]この1冊ですべてわかる 金融の基本』『図解でわかる ランダムウォーク&行動ファイナンス理論のすべて』(以上、日本実業出版社)、『ファイナンス理論全史』(ダイヤモンド社)、『「不確実性」超入門』(日経ビジネス人文庫)など著書多数。

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