アールエヌティーホテルズ株式会社の代表取締役社長・本山浩平氏は、フロントや支配人を経てトップへと上り詰めた、現場を知り尽くすリーダーだ。
コロナ禍のさなかである2021年、社長に就任した同氏は、業界の二極化が進む中で人の価値こそが自社の競争力の源泉であると再定義。バックオフィスのDX化によりスタッフが接客に専念できる環境を整え、サービス品質の向上に注力してきた。
さらに現在は、ラグジュアリー分野への進出などブランドポートフォリオを拡充している。インバウンドやそれに伴うビジネス客のホテル確保が困難となっている現在の環境にどう立ち向かうのか、本山氏に聞く。
企業サイト:https://rnt-hotels.co.jp/
ロイヤルグループのノウハウと顧客満足を源泉に成長
── 事業と持株会社について、本山社長の経歴についても教えてください。
本山氏(以下、敬称略) アールエヌティーホテルズは、ロイヤルホールディングスという持ち株会社の傘下にあり、ホテル運営に特化した事業会社です。ロイヤルグループでは、外食、コントラクト、ホテル、食品の4つの主要事業を展開しています。
外食事業はロイヤルホストなどを中心に展開し、コントラクト事業では空港内のレストランや高速道路のサービスエリアなどでクライアントのニーズに応じた食事提供を行っています。食品事業は、ロイヤルグループの店舗へ食材を供給するインフラ機能を担っており、近年ではロイヤルホスト デリという食品の販売も行っています。
その中で、ホテル事業を担っているのが弊社です。私自身は、リッチモンドホテルを運営するアールエヌティーホテルズの社長と、ロイヤルホールディングスのホテル事業担当役員を兼任しています。
私の経歴ですが、2003年にアルバイトとして入社し、フロントスタッフとしてキャリアをスタートさせました。社員となってからは、複数の店舗で支配人を経験し、十数年前に本部で業務や企画に携わりました。さらに数年間、ロイヤルホールディングスで財務・IRを担当しています。
社長に就任したのは2021年1月で、ちょうどコロナ禍の真っただ中でした。そういった状況を乗り越え、ようやく成長フェーズに戻ったという流れになります。
── 会社の成長を支えた要因やきっかけは、何だったのでしょうか?
本山 私が新入社員のころはまだホテルが8店舗ほどの時期で、まさに成長の初期段階でした。そこから急速に出店を重ね、ホテル数が拡大する様を現場で見てきました。
成長を支えたのは、ロイヤルグループが長年培ってきた店舗運営のノウハウと、お客様満足を大切にする姿勢だと考えています。ホテル事業においても、この運営力と顧客志向を発揮することで、お客様からの支持を得ながら店舗数を増やせました。
お客様の支持がホテルのパフォーマンス向上につながり、それが新たなホテルオーナー(不動産としてのオーナー)の皆様からの信頼を得るという好循環に入れたことが、数を伸ばせた要因だと考えています。
── 社長が現場を経験したことで、特に「これをやっていて良かった」と感じる点はありますか?
本山 それぞれの職種で強みが生まれるのだと思いますが、私は幸い現場からスタートしましたので、ホテルの価値創造プロセスを理解できていました。現場で「このようにすればホテルとしての価値を高められる」というプロセスを認識できていたため、経営者となった際、それを実現できる環境の整備という思考へスムーズに入れたことは、現場経験があって良かった点だと感じています。
サービス向上のためのDX化とは?
── コロナ禍と社長就任のタイミングが重なったそうですが、業界全体が厳しい状況の中、社長として何に着手し、どのように危機を乗り越えたのでしょうか?
本山 コロナ禍以前の2015年から2019年にかけては、インバウンドの急増もあり、マーケット全体が右肩上がりで成長していました。そのため、コロナ禍での反動は非常に大きかったのですが、実は2019年、つまりコロナ禍以前から稼働率が若干低下する兆候が見られました。
当時分析した際は様々な要因を考えましたが、今の分析では、背景にあったのは、2015年ごろからの急速なマーケット成長に伴い、ホテルの供給数が著しく増え、需給バランスが崩れ始めたことだと認識しています。
そんな中でコロナ禍に突入し、ホテル業界全体が初めて経験する未曽有の事態となりました。初期段階では固定費の抑制に注力し、出血を止めることに全力を尽くしました。
状況が落ち着いてからは「新たな需要は何か」に着目し、ホテルをマンスリーマンションのように活用するサブスクリプションモデルや、ホテル空間の新たな活用法を模索する取り組みを1年から1年半ほど続けました。
── コロナ禍が終わり宿泊客が戻る中で、人材確保や接遇の部分で課題を感じることはありますか?
本山 コロナ禍を経て、あらためてホテルの価値は「人とサービス」にあると認識しました。部屋の広さや大浴場といった設備は一時的な付加価値になり、模倣されやすいと考えます。
それに対し、他社にはない人の強み、ロイヤルグループとしての強みを生かしたサービスこそが、お客様の満足度を左右する重要な要素です。
創業以来、従業員主体のプロジェクトを継続するなど、人材育成には力を入れてきました。しかし、そもそもホテルで働きたいという意欲を持ち、人を喜ばせたいという思いを持った人材が集まる環境で、その思いを自然に発揮できる環境をつくることが重要だと考えています。
以前、行った業務量調査では、フロントスタッフの業務の約6割がお客様と接しない非対人業務、たとえば事務作業などにリソースを費やしていると分かりました。本来、お客様との接点を求めるスタッフに、そういった非対人の業務をさせてしまっていたのです。
そこで、間接業務の効率化やDX化を進め、スタッフがフロントに立ち、お客様と直接向き合える環境の整備を目指しています。これは、お客様側のDX化とは異なり、あくまでスタッフがお客様へのサービスに集中できる環境をつくるための取り組みです。
── DX化というと、無人化やコストカットといったイメージもありますが、そうではなくスタッフの業務効率化によるサービス向上を目的としているのですね。
本山 はい。選択肢として無人チェックインなども否定はしませんが、私たちがホテルを運営する意義は、人の価値や食の価値を最大限にお客様へ提供することにあると考えています。不動産的な側面ではなく、ホテリエ(注)としての本質的な価値提供を追求していきたいと考えています。
(注)フロント、コンシェルジュなどから調理、清掃などを含めた、ホテルで働く人たちの総称。質の高いホテルサービスを提供しようとするプロフェッショナル。ここではそうした高品質なサービスを提供するホテル事業者といった意味。
ホテル業の二極化にどう対応するか
── 直近では、ラグジュアリー領域への進出としてマイナー・ホテルズと合弁会社を設立しました。どのような狙いがあるのでしょうか?
本山 これまでリッチモンドホテルという単一ブランドで事業を展開してきましたが、コロナ禍以降、顧客ニーズはますます多様化しています。その多様なニーズに応えるため、ブランドラインアップを拡充する必要性を感じました。
ラグジュアリー領域への進出も、その一環です。自社でゼロからラグジュアリーブランドを立ち上げることも可能でしたが、この領域はブランド力が非常に重要であるため、すでに確立されたブランド力を持つ世界的なオペレーターとの協業を選択しました。
── 今後のホテル業界の構造について、どのように見ていますか? インバウンド需要の回復やAIの発展など、さまざまな変化があると思います。
本山 宿泊産業は、今後も拡大が見込める数少ないマーケットだと考えています。そのドライバーとなるのは、インバウンド需要とアクティブシニア層の旅行需要です。マーケットが拡大しニーズが多様化する中で、汎用性の高いホテルよりも特徴のあるホテルがより求められるようになるでしょう。
AIの台頭について、現時点でも無人化オペレーションは可能ですが、それ以上に「人の価値」の追求が重要だと考えています。私たちのビジネスは、ホテル事業に限らず、すべて「人に立脚」するものです。AIやデジタル技術は、裏側の作業やシステムを支えるため積極的に活用し、二極化が進む業界構造の中で、私たちは人の価値を前面に出したホテル運営を追求します。
具体的には、宿泊だけのニーズを満たすホテルと、人や付加価値を前面に出したホテルに二極化し、中途半端なホテルは淘汰されると考えられます。お客様は自身の価値観に合うホテルを選ぶようになり、将来的にはAIエージェント同士が予約を完結させる時代も来るでしょう。
その中で、私たちのブランドがどのように認知され、マッチングできるかが重要になります。
ビジネス客にもストレスない価格とサービスを提供
── DXやAI導入に関して、現場からの拒否反応などはありますか?
本山 変化への壁は人の思い、考えであることが多いですが、私たちは目的を明確に伝え、丁寧な対話を心がけています。目指すものが同じであれば、大きなハレーションは起こらないと考えており、幸いなことに、現時点で大きな問題は起きていません。
── 円安の影響もあり、宿泊単価が上昇し、国内ユーザーが利用しにくくなっているとの声も聞かれます。ビジネスユーザーからの反発など、影響はいかがでしょうか。
本山 約140万人いる会員組織のメンバーの多くは、出張で繰り返し利用するお客様です。
公式サイトでは常に最後の在庫を販売できるような設定にしており、立地に応じてホテルの属性をビジネス寄りかレジャー寄りかに分け、販売方法や値付けを調整しています。需要が高いからといって、ただ単に価格を上げるということは行っていません。
ロイヤルカスタマー(熱心な顧客)への還元と、適正な価格設定のバランスは常に考慮しています。
── 今後5年、10年での会社の目指す姿は何でしょうか?
本山 昨年は、リッチモンドホテルに加え、ラグジュアリーブランドや観光特化型新ブランドをローンチしました。これまで“点”でしか受け止められなかった需要を、宿泊という大きな“面”をつくりロイヤルグループとして受け止められるようになりました。
あらゆる宿泊利用シーンでお選びいただけるようなホテルオペレーターへ成長したいと考えています。得意とする運営力と再現性を生かし、あらゆる宿泊ニーズにこたえられるサービスを提供します。
- 氏名
- 本山浩平(もとやま こうへい)
- 社名
- アールエヌティーホテルズ株式会社
- 役職
- 代表取締役社長

